「静かにして!」が口ぐせの鈴原さん。ある日、電車の中での出会いで鈴原さんの考えが変わります。

 

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暑い日のことだった。

2人の息子は5歳と3歳のやんちゃ盛り。私の口ぐせは「お願いだから、静かにして」だ。

兄弟が遊びだすと、マンションの下の階の人から「子どもの声や、たてる音がうるさい」という苦情をいただいたこともあって、私は家にいることが嫌いだった。だから、その日も日中は、子どもたちを連れて出かけることにした。何となく遠出がしたくて、電車を乗り継いで、京都の東映太秦映画村まで行くことにした。

はじめは子どもたちも久しぶりの電車に大喜びだったが、だんだん退屈になり、大声を出したり、ケンカをはじめたり……。私は電車にまで乗って出かけてあげているのに! とイライラしはじめ、遠出したことを後悔した。

それでも電車では静かにさせなければと思い、「静かにして!」と怒った顔で何度も注意した。

そんなとき、隣に座っていた年配の外国の方が、「幸せそうね」と話しかけてきた。

私はてっきり相手が言い間違いをしていると思い、聞き返した。するとまた、「3人で幸せそうにしている」と言うのだ。

私はびっくりして、「どうしてですか?」と尋ねた。怖い顔で怒っている私を見て、どこが幸せそうなのか。価値観の違いにしても、大きな隔たりがある。ただただ、びっくりした。

その方は、自分にも社会人と大学生の息子がいるが、もう手がかからないので、さびしいのだ、と話しだした。私の息子たちは、私を頼りにし、安心して電車に乗っている。こんなに幸せなことはない、とおっしゃるのだ。

確かに息子たちは、まだ幼く、私なしではいられない。一緒に過ごす時間は長い。そう、怒っていても、笑っていても同じ時間が過ぎていくのだ、と、ふと思った。そして、同じ時間が過ぎていくのなら、せっかく遠くまできたのだから、怒らずに私も楽しもう、と考え直した。

その方と別れたころには、私の気持ちは楽になっていた。

映画村では息子たちが大好きな仮面ライダーショーをやっていて、一緒に楽しく見ることができた。

ふだんの私だったら、心のどこかで息子たちのために「一緒に見てあげている」という気持ちでいただろう。息子たちが少しでも私の思い通りにしなかったら、「こんなに、してあげているのに……」と不満に思っていただろう。

でもこの日は、私も息子たちと同じ目線で別の戦隊もののショーを楽しんだり、笑顔で一緒に写真を撮ったりした。すると、不思議なことに息子たちが私を困らせることもなく、お互いにとてもいい雰囲気で過ごすことができたのだ。

気がつくと、もう夕方近くになっていた。

帰り道、私は長男に「楽しかった?」と聞いてみた。すると長男は、「お母さんと同じくらい楽しかった」と答えたのだ。

息子にも、私が楽しんでいたことが自然に伝わったのだと感じた。私の気のもちようで、息子も心から楽しめたのだと思った。

「お母さんと同じくらい楽しかった」という息子の魔法の言葉に、今日の疲れがどこかに飛んでいくようだった。

これからも、その幸せな気持ちを忘れず、息子たちにも私の気持ちが伝わるように過ごしていきたいと思った出来事だった。

 

鈴原 悠(兵庫県伊丹市・41歳・主婦)

 


 

のびのび子育て

「PHPのびのび子育て」は未来を担う子どもたちの健全な成長と幸せを願って、発刊している月刊誌。 2017年月5月号の特集は<「聞き方」を変えれば、子どもはグンと伸びる>です。

 

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