流産のつらい体験から立ち直る力になったのは、息子さんの不思議な言葉でした。

 

たんぽぽ.jpg

 

2歳になったばかりの息子と、お昼ごはんを食べていたときのことです。2人並んで座って食べていると、息子が窓から見える空を指さしながら、

「パパとママをお空から見ていたよ」

「楽しそうだったから、来たよ」

と話したのです。あまりに突然の話の内容に驚くとともに、「ありがとう、ここを選んでくれたんだね」と、うれしくなって、思わず泣いてしまいました。

まだおしゃべりがそれほど上手ではなかった息子が、いったいどんな感覚や記憶を、まだ少ない語彙の中から私に伝えようとしてくれたのかが、とても不思議で、そして神秘的だなあと思った出来事だったのです。

その後、私は新しい命を宿しました。しかし、喜んだのも束の間、結局、心拍が確認できませんでした。はじめて経験した流産は、精神的にも肉体的にもつらいものでした。

つわりはまだ続いていたので、つわりがあれば、お腹の子は元気な証拠だなんて、どこのだれが言ったのだろうと、お腹をさすりながら泣いたり、妊娠の報告を喜んでくれた義父母や私の両親を思い出して、悲しませる結果になって、言うのが早すぎたなあ、と悔やんで泣いたり。私の不安定な気持ちを察してか、夜泣きが増えてしまった息子の寝顔を見ながら、「ごめんねえ」と泣くこともありました。

流産の手術後、つらかったつわりはウソのようになくなりましたが、それは同時に、お腹から赤ちゃんがいなくなったことを現わしていました。体調は戻りつつありましたが、心はなかなか追いつきません。

しだいに、なんだかわからない不安が、いつも私の心をおおっているような感覚になり、苦手な場所が増えていったのです。

車や電車に乗るのもこわい、行き慣れたはずのスーパーマーケットや公園でさえも、なんだかこわい。自分の行動範囲がどんどん狭くなっていくのを感じ、気持ちも暗くなりました。

でも息子には沈んだ顔は見せられません。外出がこわいときは、玄関先にシートを敷いて、息子と一緒におにぎりを食べたり、シャボン玉を吹いたりしたのですが、それが精いっぱいのときもありました。

でもある日、私が、

「お腹の赤ちゃん、お空に忘れ物取りに行っちゃったのかな。またママのお腹に戻ってきてくれるかな」

と、つい息子につぶやくと、息子は、

「おーい、パパとママのところ、とっても楽しいよー。また来てねー」

と、空に向かって手を振ったのです。

私はその言葉を聞いて、心がすーっと晴れるような、ハッとわれに返るような感覚になりました。

今を楽しいと思ってくれているなんて......。楽しそうだから、と私のところに来てくれた息子が、今を楽しいと思っているのだったら、それでいいのではないか、と、心が軽くなったのです。

周りの人を悲しませて、心配ばかりかけている自分はなんてダメなんだろうと、知らず知らずのうちに自分を責めすぎていたのかもしれない。「がんばらなくちゃ、元気にならなくちゃ」と自分の心に負担をかけたり、無理に笑顔をつくったり、そうすることが前へ進む一歩だと思っていたけれど、じつは逆効果だったのかもしれません。

周りが「大丈夫だよ」と私にかけてくれた言葉を、もっと素直に聞けばよかった。

空から、ここを選んでくれたこの子が、今度は空に向かって手を振っているなんて、私の悩みも吹き飛ぶくらい、すごく壮大なことに思えたのです。

 

松田文乃(千葉県松戸市・36歳・主婦)

 


 

のびのび子育て

「PHPのびのび子育て」は未来を担う子どもたちの健全な成長と幸せを願って、発刊している月刊誌。 2017年月7月号の特集は<「考える力」が育つ最高の習慣>です。

 

年間購読のご案内

「子どもをつれて買い物に行くのは大変…」「ついつい、買い忘れてしまう」 そんなあなたにおすすめしたいのが、年間購読。毎月ご自宅へお届けします。送料無料。 年間購読のお手続きはこちらからどうぞ