大津のいじめ事件に対応するため、文科省は現地に職員を派遣するとともに、全国的な実態調査を実施した。今月中にはいじめ問題への総合的な取組方針をまとめるという。

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いじめについては、これまでも、報道が過熱し社会的な問題となるたびに国の対応策が講じられるというパターンが繰り返されてきた。従来どおりの対応策では、今後また同じような不幸な事件が生じかねない。いま、教育行政の構造を思いきって転換すべきではないか。


ポイントは3つ。

 
第1点は、教育行政における課題の優先順位をはっきりさせることだ。
 
学校は、人間関係で成り立っている。子どもどうし、子どもと教員、教員どうしの信頼関係を深めることが学校運営の基本だ。一方、いじめの背景には、子どもどうしの健全でない人間関係、ゆがんだ力関係がある。子どもたちにとって重要なのは、よい人間関係のもとで学校が「安心して楽しく学べる場」になっていることだ。したがって教育行政においても、「安心して楽しく学べる場」づくりを最優先の課題と位置づけるべきと考える。課題の優先順位が明確でなかったことが、これまでの教育行政の大きな問題点だ。
 
大津の事件では、学校は「いじめ」ではなく「けんか」と判断したから対応しなかったという。だが、「けんか」にせよ「いじめ」にせよ、子どもにとって学校が「安心して楽しく学べる場」になっていないという事実に変わりはない。課題の優先順位がはっきりしていれば、子どもどうしのトラブルがあったときにそれが重大な課題であると学校側も認識できたはずだ。
 
第2点は、優先順位にしたがって資源を配分することだ。優先順位を付けるとは、単にスローガンを掲げることではない。優先順位にしたがって、人・時間・お金という資源を配分することが肝要だ。もっとも重要な資源は教職員定数である。学校を「安心して楽しく学べる場」とするには教員体制の充実が欠かせない。
 
具体的には、たとえば各学校に授業を持たない教員を1人あるいは複数配置してはどうか。授業を持たない教員を配置することで、家庭を訪問して保護者と話をしたり、地域で子どもの様子を把握したり、課題を抱える子どもの指導を行ったりすることが可能になるからだ。
 
第3点は、制度改正であり、ここでふたつの制度改正を提案したい。
 
ひとつは教育委員会制度の見直しだ。大津の事件では、教育長が会見したり市長が会見したりと、市としての最終責任者が誰なのかがわかりにくい状況となっている。学校教育に関する責任と権限は教育委員会にあるものの、たとえば市としての責任が仮に賠償問題に発展すれば、予算についての判断は市長が行うことになる。責任と権限が教育委員会と市長とに分散していることが、市としての責任に関して明確な決断を下すことの阻害要因になっているのではないかと考える。
 
最終的な責任者をはっきりさせるため、住民に対して直接的に責任を負っている首長に教育の責任と権限を集約すべきである。
 
もうひとつは多様な学びを認めるための制度改正だ。
 
いじめがきっかけで学校に行けなくなるケースがある。不登校には「いじめによるストレスから回復するための休養期間としての意味」があると文科省の報告書は認めている。運用レベルでは不登校は認められているものの、制度上は、登校しないことを選択できる制度にはなっていない。学校に行けない、行かないことに子どもは罪悪感を感じるという。それでは安心して休養することはできないだろう。
 
一定の場合には学校に行かずに家庭やフリースクールで学ぶことを選択できる制度、学校に行かない子どもや保護者をサポートする制度の導入が必要だ。
 
 
 
NPO法人東京シューレ理事長の奥地圭子氏をお迎えして行われた、USTREAM対談「不登校への新たなアプローチ~多様な選択肢を認める仕組みを提案する~」をご視聴いただけます。
 

 
亀田 徹  (かめだ・とおる)
PHP総研 教育マネジメント研究センター長/主席研究員
学校経営の質の向上とそれを支援する教育委員会の役割が主な研究テーマ。子どもや保護者にとって満足度の高い教育を提供する学校づくり、教職員が元気になる学校づくりを目指す。現在は、民間の経営手法やコーチングを取り入れた学校経営プログラムの開発と実践に取り組んでいる。