子どもの感情はどうやって育つのか

姜昌勲
2023.04.04 20:11 2023.03.23 11:38

しゃがむ女の子

おとなしい子が自己主張するためには、「感情」「言葉」「表現」の三つの要素が発達することが必須です。その三つがどうやって育っていくのか、姜昌勲先生『「おとなしすぎる子」に不安になったときの子育て』(家庭直販書)から2回連載で見ていきましょう。今回は「感情」育ち方についてです。

※本記事は、姜昌勲著『「おとなしすぎる子」に不安になったときの子育て』(PHP研究所)より、一部を抜粋編集したものです。

姜昌勲(医学博士)
精神科専門医。きょうこころのクリニック院長。専門は小児・児童精神医学。院長を務めるrきょうこころのクリニック」にて、子どもから大人まで、精神疾患をはじめ発達障害などの診察を行なう。診断にこだわらず、その人の特性や特徴を活かすための診察・治療を心がけている。

「感情」は自己表現の土台

泣く赤ちゃん

子どもの自己表現の土台となるのは感情です。喜怒哀楽は、子どもの発達において非常に大切な要素です。

子どもが3歳くらいまでは、「お父さん、お母さんは、どんな感情も受け止めてくれる」と思うくらいの安心感をもって育つのが健全だと私は思っています。

逆に、抑えつけられてばかりだと、萎縮して喜怒哀楽が素直に出せなくなり、感情表現も乏しくなります。だからこそ、感情表現が豊かな子に育てるには、子どもの感情を受け止めることが大切です。

では、いきいきとした感情が育ったとして、次は、怒るべきときに怒り、喜ぶべきときに喜び、悲しむべきときに悲しむというように、感情をコントロールして外に出すことが必要になります。

子どもは、どのようにして感情をコントロールできるようになるのでしょうか?

それには「欲求不満耐性」といって、「不満に耐える力」が重要な要素になります。この力が育っていくと、感情をきちんと抑えられるようになり、また、きちんと表現できるようになります。

アメリカの心理学者、アブラハム・マズローは、人間の欲求にはピラミッドのような段階があるという理論を示しました。そして、それを次の五段階で表しています。

マズローの5段階欲求

1 生理的欲求 … 生命維持の欲求
2 安全の欲求 … 不安や恐怖を回避する欲求
3 所属と愛の欲求 … 人と交流し、物を所有する欲求
4 承認(尊重)の欲求 … 人に認められたい欲求
5 自己実現の欲求 … 夢や希望を実現したい欲求

この五段階の欲求は、数字が大きくなるほど高いレベルの欲求になります。高いレベルの欲求をかなえていこうとすると、ベースの部分である低い段階の欲求が満たされる必要があります。

つまり家庭環境、衣食住環境などが安定して初めて、さらに高次の承認や自己実現の欲求をかなえる意欲がわいてくるのです。

欲求不満耐性を子どもに身につけさせるためには、欲求を満たしてあげる必要があります。満たされる体験が、感情をコントロールするカを支えるのです。

夫婦喧嘩を聞く子ども

虐待を受けるなど、不安定な家庭環境で育った場合は、欲求不満耐性がとても低くなる傾向があります。ちょっとしたことですぐに感情が爆発して暴れたりする子がいます。

だから、感情のコントロール能力をきちんと身につけさせるには、何よりもまず、低い段階の欲求をかなえてあげることです。すなわち、家庭や学校など、子どもの育つ環境をしっかり安定させることが何より大事なのです。

いま、子どもの表現力がとても注目されています。なぜなら、自分の感情をじょうずに表現できない子が増えているからです。特に、自分が何に困っているのかをきちんと表現できない子が多くなっています。

そういう子どもたちには、困っていることの表現の仕方を教えてあげなければなりません。困っていることを整理して、いちばん困っていることを周りが見つけてあげて、次のようにふさわしい表現方法を提示してあげます。

「君が困っているのはこれかな?」
「こうすれば先生に言えるよね」

自分の感情をじょうずに表現するためには、自分を客観的に見る能力が必要です。そのためにも、この五段階の欲求を満たしてあげるように、親はそのサポートをしましよう。そうすれば、自分を客観視する能力がだんだん身についてきます。

「おとなしすぎる子」に不安になったときの子育て

「おとなしすぎる子」に不安になったときの子育て(PHP研究所)
おとなしい子が自己主張するためには、「感情」「言葉」「表現」の3つの要素が発達することが必須です。3つの要素がどうやって育っていくのか、医学博士の姜昌勲さんが解説します。