累積疲労は、疲れがどんどん積み重なっていけば誰にでも起こりうる病気です。ですから、累積疲労になりやすいタイプを明確に示すのは、とても難しいところがあります。
 

 

しかし、主婦の生活スタイルが疲労をためやすい傾向にあり、女性の体は年齢によっても大きく変化していくので、疲労度は変わってきます。年齢とともに体が変化していくことを理解している人は少なく、いつまでも若いときと同じように暮らしていけると考えて生活していると支障が出てきます。ですから私が診てきた累積疲労の患者さんでいちばん多いのが、三十代~五十代の女性です。

 

これは、三十代後半になると女性の体が大きく変化することと関係があると考えられます。みなさんのなかには、まさに「最近、ポッコリと出たおなかが気になり始めてきた……」「食べる量はむしろ以前よりも減っているのに、何だか太ってきた」という方も多いのではないでしょうか?

 

日頃、運動を熱心にしている人であれば別ですが、たいていは三十代後半から、基礎代謝が急激に落ちてきます。

 

二十代の頃までは、細胞の生まれ変わりも早く、代謝が活発です。ところが加齢とともに、細胞が生まれ変わるスピードが遅くなり、代謝も若い頃ほど活発ではなくなります。三十代に入った頃によく見られる「食べる量は以前とかわっていないのに、なぜか太ってきた」というのは、この基礎代謝の低下が原因の一つなのです。

 

基礎代謝が落ちて体に脂肪が増えてくると、筋肉が減ります。体を支え、日常の動きの基盤となる筋肉が減れば、当然、疲れやすくなります。

 

このように、健康な状態でも三十代を過ぎてくれば疲れやすくなるのに、その時期に寝不足が続けば、必然的に疲労が累積されていきます。無理をする状態が続けば、たちまち累積疲労になってしまうでしょう。

 

特に近年は働く女性が増え、晩婚化の傾向にあります。それに伴い、三十代での出産が増えています。また、かつては出産をきっかけに退職する女性も多く見られましたが、最近は出産後も働き続ける女性が増えてきています。このため三十代で無理をしてしまう女性が多くなるのです。

 

でも、人生には、無理をしなければならない時期があるのも事実です。「実力をつけたいので仕事に没頭する」「結婚したら大事な家族のために家事を極める」「子どもが小さいうちには子育てに全力を注ぐ」といったときです。

 

無理をすることが一つなら、がんばれば、何とか乗り越えられるかもしれません。日々の疲労を回復することも比較的簡単でしょう。ただし、無理が二つ以上重なってくると、三十代後半以降の方はかなり厳しくなってきます。もしも今、二つ以上の無理が重なっているとしたら、その人は、すでに累積疲労になっている可能性が高くなります。

 

また、多くの人が、子育てが一段落してくる四十代後半から五十代にも、累積疲労の危機は潜んでいます。例えば、四十代中頃に入ると老眼が始まってきます。四十代くらいでは新聞の文字が少し読みにくくなっても、「あら、そろそろ老眼かしら? でもまだ大丈夫」と、自分が老眼になったとはなかなか認めたくない人がほとんどでしょう。そのままの状態で雑誌やテレビを見ていたり、仕事で一日中パソコンの画面を見ながら作業していたりすれば、目の疲れから、頭痛、肩こりなどを引き起こしてしまいます。それでも老眼鏡をかけずにいれば、どんどん疲れがたまっていくようになります。

 

さらに、四十代半ばから五十代は、女性ホルモンの減少により、更年期障害が起こってくるようになります。加齢に伴って卵巣が老化し、女性ホルモンが充分に分泌されなくなるためです。

 

症状は人によってさまざまですが、はっきりとした原因がないのに、頭痛や肩こり、動悸や息切れ、手足のしびれ、不眠、のぼせやほてりなどが出てきます。一般的に、不定愁訴と言われるものです。これらの症状は、累積疲労の症状によく似ています。更年期障害によって疲れやすい体になれば、疲れがたまりやすく、累積疲労にもなりやすくなります。

 

でも、どの年代でも諦めないでください。疲れやすい体を疲れにくくするには、筋肉をつけることです。筋肉をつけると聞くと、ハードなトレーニングを思い浮かべ、すぐに「私には無理」と思ってしまう人もいるでしょう。はじめは筋肉をつけることよりも、今よりも筋肉を落とさないために、できるだけ体を動かすことからスタートしましよう。

 

現代人は、パソコン作業に代表されるように、体は使わず頭だけ使うことが多くなってきています。筋肉をつけるポイントは、その逆で、頭を使わないで体だけを使う習慣を身につけることです。

 

具体的な方法としては、散歩がおすすめです。夕食の三十分後以降に体を動かすとカロリー消費がひと晩中続くため、中年太りの予防にも効果があります。夕食後、ひと休みをしたら、夫や子どもを誘って家のまわりを散歩してみてはどうでしょう?

 

歩きながら、お互いに一日の出来事を話すようになれば、家族のコミュニケーションも深まります。

 

日常生活のなかで積極的に体を動かすよう心がけることも大切です。家のなかでヨガやストレッチをするのもよいのですが、できれば、子どもの送り迎えや買い物のついでにウォーキング、電車を使うときには駅まで歩くなど、外に出て体を動かしたほうが気分もリフレッシュできます。

 

女性の体は年々、変化していき、無理がきかなくなるということを、この機会にぜひ覚えておいてください。

 

 


出典:『「累積疲労」がスッキリとれる本』 (PHP研究所)

 

【著者】

堀 史朗 ほり・しろう

医学博士。山口大学医学部および同大学大学院博士課程修了。アルバートアインシュタイン医科大学、ペンシルベニア大学医学部、ジョージタウン大学医学部に留学。帰国後、東京慈恵会医科大学附属病院、板橋中央総合病院勤務を経て、東京・恵比寿に「エビス心療内科」を開業。ストレスに悩む幅広い年齢層の人々を診療するなか、原因不明の不調を「蓄積疲労」と名付け、治療にあたる。