「YOUメッセージ(あなたが)」と「Iメッセージ(私は)」。どちらが子どものやる気を引き出すでしょうか。『アドラー博士の子どものやる気がどんどん湧き出るお母さん講座』 ~ハートに火をつけ「自分が好き」と言える子に~(星一郎著)から転載でご紹介します。

 

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子どもとの会話の中で、子どものやる気をそがないために気をつけるといいことを、ひとつお話しします。
 
親が子どもとコミュニケーションを取るときの話し方には、二種類あります。ひとつは、「あなたが~」とか、「○○(名前)は~」で始まる言い方です。英語で言うと、主語が「YOU」の言い方にあたります。こうした言い方は、「YOUメッセージ」と呼ばれます。
 
多くのお母さんは、子どもと話すときに「YOUメッセージ」で話しています。この言い方の特徴は、断定的なことです。「あなたはさぼってる」とか、「あなたがちゃんとしないからこうなった」などと話すとき、話し手は相手のことを一方的に決めつけています。YOUメッセージは、相手より上の立場からの発言なのです。
 
意見ではなく決めつけですから、言われたほうは「おっしゃる通りです」と無条件で受け入れるか、さもなくば、徹底的に戦って、その言葉を撤回させるしかなくなります。勝つか負けるかなのです。YOUメッセージで話されると、子どもは思わず反発するか、さもなくば無気力になります。
 
特に思春期の子どもは、このコミュニケーションスタイルをひどく嫌がります。
「僕(私)のことを決めつけた」と思い、必要以上に攻撃的な態度にさせることがあります。子どもたちは、話の内容よりも話し方、YOUメッセージに反応するのです。
 
もうひとつの言い方は、「私は~」「お母さんはね~」で始まる言い方です。こちらは「Iメッセージ」と呼ばれます。英語で言うと、主語がIの言い方です。この「Iメッセージ」は、親の意見を子どもに伝える話し方です。
 
「私はこう思う」「お母さんはこうしてほしい」と、話し手がIメッセージで話すと、相手は「今のは話し手の意見であり、自分はそれに賛成しても反対してもいい」と受け取ります。Iメッセージを受け取った人は、その意見に反対する自由をもっています。もし反対ならば、「私はその意見に反対だ。私はこう思う」と言えばいいのです。Iメッセージを用いたコミュニケーションは、お互いの意見交換につながっていきます。
 
「日本人はあまり議論が上手でない」とよく言われますが、私たちが感情的にならずに意見交換をするのが苦手なのは、YOUメッセージを多用しがちなのも原因のひとつかもしれません。
 
日曜日などにテレビでやっている政治家の議論を見ていると、その発言の内容は別にしても、議論の展開がうまくないと感じます。ほとんどがYOUメッセージで話しています。「あなたは~」とか「おたくの政党は~」という会話が中心なのです。これではなかなか建設的な話し合いにはつながりません。結局、司会者の制止を無視して話し続けたり、大声で怒鳴り合ったりすることになってしまいます。
 
議論とは、お互いの考え方の交換です。建設的な議論は、「Iメッセージ」の会話から生まれるのです。これは何も、政治家だけではありません。親子の間でも同じことが言えます。
 
親子の会話の中でのIメッセージの使い方を、よくあるシーンを例に考えてみましょう。
私たち大人には、時として子どもの行動が理解できないときがありますね。さてそんなとき、お母さんが「あなたってバカね」と「YOUメッセージ」で言ったとします。すると子どもからも「お母さんは、僕(私)のことをバカだと言った。お母さんこそバカだ」と「YOUメッセージ」が返ってくるでしょう。「親に向かってバカとは何ですか」「だってお母さんが最初に僕のことをバカと言ったからだ」と、どんどん会話はけんかになっていきます。親子げんかに限らず、けんかというのは、たいていYOUメッセージの応酬になっているものです。
 
さて次は、同じ内容を「Iメッセージ」で子どもに伝えてみます。「お母さんには、あなたのやってることがバカみたいに見えるよ」といった言い方になるでしょう。すると、子どものほうも、「お母さんは僕(私)のこと、バカに見えるかもしれないけど、僕(私)はバカじゃないよ」と、「Iメッセージ」で答えを返してきます。
「どうしてバカじゃないの?」
「だって僕(私)はこういう理由があって、これをしているんだよ」
「ああそうなの。でもお母さんならもっとこうすると思うけど、どう?」
 
その後の会話も、このように建設的に進んでいくでしょう。
親が「Iメッセージ」を使うと、子どもは「お母さんは自分を一人前と見なして、対等の立場で意見を伝えてくれた」と感じ、一人前らしく振舞うようになります。お母さんが一人前に扱うことが、子どもを一人前に育てるのです。
 
 

 
 
【出典】 『アドラー博士の子どものやる気がどんどん湧き出るお母さん講座』 (PHP研究所)
 
 
【著者紹介】
星一郎(ほし・いちろう)
心理セラピスト。1941年、東京都生まれ。東京学芸大学卒業。都立梅ヶ丘病院精神科心理主任技術員を経て、都立中部総合精神保健福祉センター勤務。その後、財団法人精神医学研究所兼務研究員、日本アドラー心理学会評議員などを歴任し、現在、子育てボランティア団体「わいわいギルド」代表のほか、IP心理教育研究所所長を務める。専門は個人カウンセりング、個人心理療法。オーストリアの精神科医・アドラー博士が提唱した「アドラー心理学」を取り入れた子育て論や子どもへの対処法には定評がある。
著書に『アドラー博士の子どもを勇気づける20の方法』(サンマーク文庫)、『アドラー博士が教える子どもの「くじけない心」を育てる本』(青春文庫)、『アドラー博士が教える10代の子には「親の話し方」を変えなさい』(青春出版社)などがある。