今、65歳以上の4人に1人が認知症と言われています。認知症のトラブルを防ぐ第一歩は、認知症を知ること。認知症を理解するための、「9つの法則」と「1つの原則」をご紹介します。

 

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【1】忘れたことを忘れてしまう「記憶障害の法則」

 

認知症の最も基本的な症状がもの忘れ、つまり「記憶障害」です。忘れるということは、その事実が本人の頭から消え去るということ。つまり周囲にとっては事実でも、本人にとっては事実ではない、ということです。

 

・もの忘れがひどい (記銘力低下)......体験したことを思い出す能力が低下するため、同じことを何十回、何百回と聞き返したりします。

 

・ごっそり忘れる (全体記憶の障害)......出来事そのものをごっそり忘れてしまいます。食事をしたことを忘れるのも、これに当てはまります。「さっき食べたじゃない」と説得しても、食事をしたこと自体を忘れているので、本人は「この人は私に食べさせたくなくて、こんな嘘をついている」と思ってしまいます。

 

・最近のことから忘れる (記憶の逆行性喪失)......現在から過去へと、さかのぼるように記憶が失われていく現象です。自分の息子に対し「あなたはどこの人ですか?」などと言うのは、自分が八十歳の高齢者であることを忘れ、四十歳、あるいは三十歳時点の記憶しかない状態になっているから、と考えられます。六十歳近い息子が 「お母さん」と呼びかけても、自分は三十歳だと思っている本人にとっては、「自分の息子はまだ小学生なのに、どうしてこのおじさんは私をお母さんと言うのだろう......」 という疑問しかわいてこないのです。

 

【2】身近な人ほど症状が強く出る「出現強度の法則」

 

認知症の症状は、より身近な人であればあるほど、強く出ます。もの盗られ妄想でどろばう扱いされるのが、本人を懸命に介護するお嫁さんや家族であるのも、この法則によるもの。決して憎くてどろばう扱いしているのではなく、最も頼れる人だからこそ、甘えて、言いたい放題言うのです。子どもがお母さんに無理難題を言って、ダダをこねる心理と同じです。

 

【3】失敗を認めたくない「自己有利の法則」

 

自分にとって不利なことは絶対に認めない、という法則です。失禁したのにもかかわらず、それをどうしても認めず、「ペットがやった」と他者のせいにすることがあります。その裏側には、自分のミスや衰えを決して認めたくない、という切なる気持ちがあります。「そんなこと言ったって、もらしたのをちゃんと見ていたよ」と言うと、火に油を注ぐように「どうしてそんな嘘をつくの?」と意固地になるのも、そのためでしょう。

 

【4】ときどきしっかりする「まだら症状の法則」

 

正常なときと、認知症の症状が入り交じりながら存在しています。正常なときは、驚くくらいしっかりしており、「本当に認知症なの?」と疑うくらいです。どこまでが正常で、どこからが認知症なのか、見分けるのは難しいですが、常識的な人ならまずしないような言動によって、周囲が混乱していたら、それは認知症によるものだと理解すれば、まだら症状にいたずらに振り回されないでしょう。

 

【5】心は生きている「感情残像の法則」

 

見たり聞いたりしたことはすぐに忘れますが、感情は、まるで目に残像が焼き付くかのように残っています。認知症の人は、理性の世界ではなく、感情の世界に生きていると言えます。悪い感情も残っていますが、優しくしてもらったといった良い感情も、心の中に残っています。

 

【6】同じことを何度もする「こだわりの法則」

 

ある一つのことに集中すると、そこから抜け出せず、いつまでもこだわり続けます。冬なのに薄着にこだわり、着せでも着せでも脱いだり、お金にこだわりを持ち、何度ももの盗られ妄想に陥ったり。もしも命に関わることなら対処が必要かもしれませんが、そうでなければ、そのままにしておくのも一つの方法です。

 

【7】強く当たれば強く反発される「作用、反作用の法則」

 

認知症の人に強く働きかけると、その力の分だけ、強い反応が返ってきます。例えば「なにやってるの!」と怒鳴ると、認知症の本人からは、暴れる、暴言を吐くなどの強烈な反応が返ってきます。逆に「大丈夫だよ」と優しい言葉をかけると、本人からも穏やかでやわらかな反応が返ってきます。自分が怒った顔をしていれば、鏡の中の自分も怒っている。認知症の人の反応は、それに似ています。

 

【8】その人の立場になるとわかる「症状の了解可能性に関する法則」

 

認知症の人の症状は、その人の立場に立ってみると充分に理解できる、というのがこの法則です。夜中に目を覚ましては、大声で叫ぶケースがありますが、これは、時間や場所がわからなくなる脳の機能障害によって起こります。夜、真っ暗でどこだかわからない場所にいる自分に気づき、怖くて仕方なくなり、つい大きな声を出してしまうのです。明かりのない、見ず知らずの場所に放り出されたら、誰だって同じことをするのではないでしょうか。

 

【9】老化スピードが速まる「衰弱の進行に関する法則」

 

認知症の人の老化スピードは、そうでない人の二~三倍だと言われています。つまり、一年で二~三歳も年を取ってしまう計算になります。認知症の症状に悩まされる家族は、いつまでこんな状態が続くのだろう......と絶望的になりますが、おそらく、そう長くは続きません。思ったより早く、最期の時が来るのかもしれません。

 

【10】認知症の世界を大切にする「介護に関する原則」

 

認知症の人が形成している世界を理解し、大切にする。その世界と現実のギャップを感じさせないようにするのが、介護の原則です。そのため、介護する人は、時には俳優のように演じなければならないときもあるでしょう。でも、それによって、認知症の本人が「自分は家族から認められている」「ここなら安心して住める」と感じるなら、それが一番です。また、そうすることが、穏やかで、つつがない毎日を送るカギとなります。

 


 

【出典】


『「認知症トラブル」を防ぐためにできること』

徘徊、万引き、交通事故、火の不始末......。認知症の家族が引き起こしたり、巻き込まれたりするトラブルとその対応策を、豊富な事例をもとにわかりやすく紹介しています。

 

【著者紹介】
公益社団法人 認知症の人と家族の会
1980年結成。全国47都道府県に支部があり、1万1000人の会員が励まし合い、助け合って「認知症があっても安心して暮らせる社会」を目指している。