お坊さんにとって、掃除は大事な修行のひとつ!掃除をすれば、環境だけでなく、「ココロ」も整えることができるのです。

 

 

禅寺で掃除が大切にされる理由

 

禅寺では掃除・洗濯・食事の準備や後片づけなど、人間が社会生活をする上で最低限必要な行為が「作務」として尊ばれ、実践されてきました。禅の大本山永平寺では今でも年齢や身分にかかわらず、大切な修行のひとつとして掃除が行なわれています。

永平寺では1年365日の毎朝、廻廊掃除とよばれる雑巾がけがあります。修行僧達は上から下へ、奥から入り口へ、という基本原則にのっとり本堂まで駆け上がり、山門まで素早くかつ丁寧に床板を拭いて降りていきます。

毎日拭き上げられた床は作務の前からピカピカですが、それでもさらに磨きをかけます。既にキレイな場所を掃除するのは意味がないように思われますが、汚れていてもキレイであっても同じように磨くのが禅の掃除です。

 

「心」「身体」「環境」はつながっている

 

掃除をすると、たとえ始めは気分が淀んでいても次第にスッキリしてきます。床を磨くことはすなわち心を磨くこと、身体と心と環境は別のものではなくつながっている、という感覚が湧いてくるでしょう。目に見えず、触れることができない、想い通りにならないと思っていた心も、身体を動かし環境を調えることによって調えることができるようになるのです。

磨くのは自分の心だけではありません。汚れていても、キレイであっても変わらぬ態度で磨く、その姿勢はそのまま人間関係にも現れます。

どんなに能力があっても、遅れて現れ、場を汚していく人がいます。一方で、たとえ不器用でも朝一番に現れ、無心で場を清めていく人もいます。そのような人には皆が好感を持つものです。相手の身分や態度にかかわらず、常に澄んだ心で人に接するようになると、まわりの人にもその清々しさは伝わり、誰もがそのように自分に接してくれるようになります。

心は環境とつながっています。一人でつくるものではないことがわかると、社会全体の中で自分も相手も一番安らげる状態に落ち着けるようになるのです。

 

禅の掃除、六つの心得

 

【1】シンプルな道具で丁寧に

 

掃除に使う道具は箒、ちりとり、バケツ、雑巾など、シンプルなものがおすすめです。いつでもどこでも誰でもすぐに掃除ができる上、掃除の対象に触れる感覚が直接手のひらに伝わり、それらのものが自分の身体の一部のように大切に感じられるようになります。

また道具をシンプルにするということはそれだけ身体が複雑で繊細な動きを覚える、ということでもあります。毎日掃除をすれば、身体機能が高まり体調もよくなります。まずは箒で大きなホコリを掃き清め、ちりとりで集めます。雑巾がけは板の目にそって、角や縁などホコリがたまりやすい場所は特に念入りに拭きます。掃除する場所は順番を決めておき、全体を拭き上げるようにします。

 

【2】自分とは関係ない場所を掃除する

 

永平寺では3と8のつく日には自分とは関係ない場所をキレイにする「サンパチ清掃」なるものがあります。隣の家の前の落ち葉を掃いたり、カフェで他人が残したトレーを片づけたり、自分とは関係なさそうな場所をキレイにする日を決めておくのがポイントです。

定期的に続けていると、そのうち「自分とは無縁の場所」などはどこにも存在しないということが感覚的にわかってきます。すると全ての場所が愛おしく感じられ、いつでもどこでも自宅にいるような安らかな心持ちでいられるようになるのです。掃除だけでなく、電車で人に席をゆずる、後ろの人のためにドアをあけておくなど、他人が困っているときは心を磨くチャンスです。常に清々しい心持ちでいられるようになるでしょう。

 

【3】モノの声を聴いて定位置に収める

 

禅の掃除の基本は、あるべきトコロにあるべきモノを、です。部屋が散らかっているときは、まず動かせるモノを全て別の場所に運びましょう。部屋にモノが少なくなると、一つひとつのモノが本来帰りたがっている場所があることに気づくでしょう。モノの声を聴き、あるべきトコロに戻していきます。モノの声を聴くには、浄指(親指、人差し指、中指の3本)を使って両手で目線の高さに上げて持ってみるだけでいいのです。これは禅寺に伝わる「擎鉢」という作法です。

例えば毎日頂くごはんのお茶碗を両手で目の前に掲げてから食べてみて下さい。いつもと少し違う食器や食べ物の「重力」を感じるはずです。モノに両手で触れモノの声を聴き、居心地の悪そうなモノは思いきって手放すのもよいでしょう。

 

【4】命の基本「水」まわりを清潔に

 

台所や洗面所、お風呂など、命の基本となる「水」に関わる場所は清潔に保っておきましょう。水垢をしっかりと落として、水滴を残さないようにします。 トイレなどにあるタオルや、トイレットペーパーの角をきっちりと揃えておきます。使う前、使った後に乱れていると無意識に心に負担がたまってしまいます。水まわりの道具を調えることは、そのまま心を調えることにつながります。 水道の蛇口付近は、すぐ水垢が溜まってしまう場所ですが、それだけに汚れも落ちやすく、簡単に掃除の効果が実感できる場所でもあります。なかなか掃除の習慣が身につかないという人は、水まわりの拭き上げがおすすめです。他の場所の掃除も次第にできるようになり、スッキリとした気分で毎日が過ごせます。

 

【5】「大略」を決める

 

「大略」とは三日坊主にならないための禅の作法です。禅寺では朝にやるべきことが集中して時間がとれないことがあります。そんなときに登場するのがこの「大略」。いつも通り行なわれる通常のメニューである「如常」から少しやるべき項目を減らした「小略」、大幅に減らした「中略」、そして最低限の短縮メニューともいえる「大略」があるのです。

こんな朝を迎えられたら最高という理想的な如常メニューに加え、最低限やらなければいけない大略メニューを決めてみて下さい。中間の小略や中略も書き出しておきましょう。

余裕がないときでも、簡単にできる大略で最低限の掃除をすることで毎日続けるモチベーションを保てます。続けることで掃除が楽しくなり、理想的な如常メニューも無理なく実践できるようになります。

 

【6】掃除を儀式にする

 

禅寺では「寝る、起きる、顔を洗う、掃除する」といった一般的な暮らしそのものが修行とされ、一挙手一投足に作法が定められています。そこに作法があるだけで日常の何でもない掃除も、我に返って行ないを修める儀式となり、丁寧に毎日を過ごすことができます。

まずは最も身近な洗面を儀式にしてみましょう。 普段何気なくすませてしまう行為も、髪の生え際、目、次に耳のまわり、最後に鼻と口、といったように順番を意識して決めておけば作法となります。

また家族がいる場合は掃除をするときに開始の時間を決めておくこともおすすめです。鈴の音などの合図で合掌一礼をして掃除をみんなで一斉に始め、最後も挨拶をして一斉に終わるようにします。このようにすると集中力や連帯感も高まり、習慣として続けることができます。

 

【著者紹介】

星覚(雲水)

1981年生まれ、鳥取県出身。慶応義塾大学を卒業後、曹洞宗大本山永平寺にて3年間の修行を行なう。現在はベルリンの道場を中心に座禅指導や禅の作法を伝えている。著書に『坐ればわかる』(文藝春秋)などがある。

 


 

くらしラク~る「PHPくらしラク~る」は主婦が何気ない毎日をラクに楽しく過ごせるように応援する生活情報。 2016年8月号の特集は<すっごい掃除>です。

 

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