せっかく習いごとを始めたのに、やる気を出さない、長続きしない……。そんな子には、どんな言葉をかければよいのでしょうか?北島康介さんをはじめ、数々の一流アスリートを育てている名監督が、タイプ別のアプローチ法を語ります。

 

子ども

 

言葉がけの基本

 

学習塾や習いごと、逆上がりや自転車の練習――子どもの毎日は挑戦の連続です。これらの経験は、その後の行動や考え方を大きく左右するもの。

手たちを見ていると、どんなときもくじけずに頑張れるかどうかは、幼い頃に「やる気の出る言葉」をかけられているかどうかが強く影響していると感じます。とりわけ、子どもが壁に突き当たったときこそ、そうした言葉がけが大切。その秘訣を「タイプ」別に紹介します。

 

挨拶ができない子

「一緒に挨拶しよう 。せーの!」…声を合わせて習慣化!

 

はじめての習いごとで気おくれしている子が「挨拶」をできない場面はよくあります。この場合は「教室に入れば挨拶!」と理屈抜きに覚え込ませることが大切です。

指導方法には、こうして教え込む「ティーチング」と、本人の気持ちを聞きながら進める「コーチング」がありますが、誰でも最初はティーチングで「型」を覚えることが必要。挨拶も、先生や仲間と関係を築くための型です。

尻込みしている子には「ママと一緒に挨拶しよう。せーの!」と誘いかけましょう。礼儀とともに積極的な姿勢が築かれていきます。

 

自分に甘い子

「今日、気をつけることは?」…毎日の目標を確認しよう

 

先生の話を聞けなかったり、友だちとおしゃべりをしたり。集中力が持続しない子どもには、「短期目標」が効果的です。

わが家では、ホワイトボードに「今日の目標」を書き、6歳の娘と毎朝復唱します。「今日、気をつけることは?」「ちゃんと列に並ぶ!」など。声に出しながら、その日の目標を確認するのです。なお、帰宅時にも「目標、守れた?」と確認を。このとき、守れなかったとしても怒るのは禁物。怒られると思うと、子どもは事実を隠すからです。「なぜできなかったと思う?」と問いかけて、子どもが自分で考える機会を作りましょう。

 

習い事が長続きしない子

「こんなこと、できるようになったの!?」…上達を指摘して意欲アップ

 

アテネ・北京五輪銅メダリストの中村礼子は、小学校時代に一度水泳がイヤになったものの、親御さんに無理やり通わされたそうです。一見かわいそうですが、そのおかげで彼女は「頑張れる子」になりました。頑張ることを体で覚えさせる「ティーチング」の段階では、子どもの「もうやめたい」を安易に受け容れるのは禁物です。

ただし、厳しいだけでもいけません。たとえば、「ピアノを両手で弾けるようになったの?すごいね」といったかたちで小さな変化に目をとめ、ほめてあげることが大切。上達を実感させると、子どもも続ける意欲をもつでしょう。

 

周囲より上達が遅い子

「一緒にやってみようか!」…安心感があれば挑戦を持続できる

 

まずは他の子と比較しないことが大切。「あの子はもっとできるのに」と言われると、子どもは深く傷つきます。ちなみに「他の子より上手いね」というほめ方もNG。この先スランプになったとき、すぐに投げ出すようになるからです。

重要なのは、楽しさを感じること。上手にできなくとも、楽しむことは可能です。それには、親も一緒に楽しむのが一番。「難しいんだって?どれ、一緒にやってみようか!」と声をかけましょう。すると、子どもの意識が「他の子」ではなく、「親と一緒に楽しむ」ほうへ向かい、チャレンジを続けられます。

 

 練習が嫌いな子

「みんなに見せてあげよう!」…「発表の場」を作るとやる気アップ

 

基礎練習は例外なく地味なもの。「こんなのつまらない」と嫌がる子は少なくありません。

そんなときは、「発表する機会を作る」のが有効です。来客があったときに習字を見せよう、ピアノで一曲弾こう、などと提案すると練習嫌いの子もはりきります。「一番うまく書けた習字を貼り出そうね」と言えば、何度も書いてベストパフォーマンスを出そうとするはず。それが結果として「練習」になります。なお、良い成果が出たときには「一生懸命やったからできたんだね」という声かけを。地道に頑張ることの大切さを実感できます。

 

失敗したことを二度とやりたがらない子

「できたじゃない!」…ステップを分けて「プチ成功体験」を

 

失敗に弱い子は大抵、「うっかりミス」のレベルで叱られすぎた経験をもっています。

失敗とは、練習不足などに原因があるもの。それに対し、「うっかりミス」は単なる不注意や不慣れで起こるもの。子どもはすべてに不慣れですから、何度もミスして当たり前。「うっかりしちゃったね」と軽く受け止めて次の挑戦を促せば、萎縮せずに何度もトライする子になります。

もちろん、成功体験も必要です。なかなかできないときは、目標の分割を。鉄棒ができなければ、低い鉄棒から挑戦させて段階的にクリアさせるなど。成功したら、大いにほめましょう。

 

自発性のない子

「今日、どんなことがあった?」…問いかけで表現力を高めよう

 

親に言われるがまま習いごとや勉強をしている子は、現段階で「優等生」でも、将来的に行き詰まる可能性があります。

自発性を育てるには、「問いかける」のが一番。「今日はどんなことがあった?」「どんなふうに感じた?」と質問をすると、自分の思いや意思を語れる子になります。

気持ちを表現できる子は、技術の伸びも早くなります。北島康介には小学校時代から練習後に感想を話させてきましたが、やはり効果大でした。言葉の力が上がると、指導者の言葉を理解する力も上がるのです。

 

本番に弱い子

「一生懸命やることが大切なんだよ」…結果ではなく、頑張る姿勢が大切

 

発表会などの本番で子どもが萎縮するのは、周囲が結果を求めすぎるからです。習いごとの真の目的は結果ではなく、「頑張れる人」になること。ですから「勝て、勝て」ではなく「一生懸命やることが大切なんだよ」と伝えましょう。

これはトップアスリートでも同じです。選手には、「勝負とは自分との戦いだ」と教えてきました。人に勝つことではなく、強い心をもつことが重要なのです。

私の経験では、心を育てるには「大きい字」を書かせるのも意外と有効です。自分の名前を大きく書ける子は、心も伸びやかになります。

 

経験を「糧」にするために必要な3つのこと

 

幼児期に経験することは、その後の生き方の「入口」になる重要な経験。中でも影響力が強いのは、そこに関わる親の態度です。経験を「挫折」ではなく「糧」にするために、次の3つを心がけましょう。

 

(1)まずは体で覚え込ませる

やりはじめは、体で要領を覚え込ませましょう。挨拶、人の話を聞くこと、そして、地道な練習を繰り返すこと。このプロセスを通して、「頑張り続ける力」の基礎が組み上がります。

 

(2) 他の子と比較しない

上手にできないからといって「あの子はもっとできる」と言われると、子どもは苦痛を覚えます。その子自身の頑張りや、昨日できなかったことが今日できるようになった、という点に着目してほめましょう。

 

(3)目先の結果を求めない

勝利や合格を目標とするのは当然ですが、「勝て」「合格せよ」ばかり言われている子は、負けそうなときに投げ出すクセがつきます。悪くすると、卑怯な手を使ってでも勝とうとする人になってしまう危険も。「正々堂々」「一生懸命」こそが大切、と伝えましょう。

これをうまく伝えるには、「目的」を明確にすることが不可欠です。挑戦する目的とは、人に勝つことではなく、誠実さや心の強さ、向上心を育てることです。どんなときも、それを踏まえて語りかけましょう。

そうした言葉に触れた子どもは、この先の人生で逆境にあっても、前を向いて力を出し切れる人に育つことでしょう。

 


 

「PHPのびのび子育て」 4月号より

 

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本記事は、「PHPのびのび子育て」2018年4月号特集「将来を決める! 子どもを伸ばす上手なほめ方・叱り方」より、一部を抜粋編集したものです。

 

【著者紹介】

平井伯昌

(競泳日本代表監督)

早稲田大学卒業後、1986年に東京スイミングセンター入社。アテネ・北京の両五輪金メダリストの北島康介選手、銅メダリストの中村礼子選手、リオデジャネイロ五輪金メダリスト萩野公介選手など、数々の名スイマーを育成。現在、東洋大学教授および水泳部監督、日本水泳連盟競泳委員長を務める。