どうしてモノが増えてしまうのか――「禅」の視点からモノとのつきあい方を考えてみましょう。

 

お地蔵さん

 

あなたがモノを買う理由

 

ひとたび街にでれば、そこにはモノが溢れています。魅力的な商品が所狭しと並んでいる。それらを目にするたびについ欲しいと思ってしまう。これもまた人情というものでしょう。

企業が商品を売るために私たちの欲望をくすぐっているのです。それは悪いことでもなく、至極当たり前のことです。しかし、それにばかり心をつられてはいけないのではないでしょうか。欲望の赴くままにモノを手に入れようとすれば、それこそ家の中はモノで溢れ返ってしまう。一度しか使わないモノ、買ったことさえ忘れてしまうモノ。そんなモノたちが部屋の中を埋め尽くしてしまうでしょう。

欲しいか欲しくないかではなく、ほんとうに必要かどうかという判断基準をしっかりともつことです。おそらく今の私たちには、必需品は揃っているはずです。だとすれば、他に急いで買うものなどないはず。「モノで溢れている」と言われる時代ですが、それは少し違うと私は思っています。今の時代とは「あればいいなと思うモノ、ちょっと欲しいと思うモノ」、そんなモノに囲まれている時代なのです。

 

欲を手放す必要はありません

 

いっさいの欲望を手放す。そんなことは無理ですし、またその必要もありません。欲望はうまくつきあえば向上心にもつながりますし、また生活の張りにもなるものです。

たとえば洋服。新しい流行の服を見れば、女性ならば欲しくなるでしょう。欲しいからといって、毎年のように流行の洋服を買っていれば、それこそクローゼットの肥やしになるばかり。だからといって、洋服なんてまったく買わないというのも寂しい。大切なことは、自分の欲望を上手にコントロールすることです。

ファッション雑誌を見れば、モデルは上から下まですべて流行の洋服で彩られています。それを全部手に入れようとするのではなく、その中の一点だけを買ってはいかがですか。今年はセーターだけは新しいものを買おう。マフラーは昨年のもので十分。ブルーが流行色だからといって、全部をブルーで揃えるのではなく、ブルーのものをさりげなく取り入れてみる。そんな小さなことで満足できる心を養うことで、人生は豊かになるのです。

 

「愛着」と「執着」の見分け方

 

たとえば20年間も使い続けている湯呑み茶碗。我が子が小さいころに小遣いを貯めて買ってくれたもの。金額にすれば千円ほどの茶碗です。それでもその湯呑みは、世界にたった一つしかない。すっかりと手に馴染んでいるそれは、いつも自分の傍にいてくれた。思い出がいっぱい詰まっているかけがえのない湯呑みです。この湯呑みがあれば、他のものなど欲しいとは思いません。これが愛着というものです。

一方の執着とは、常にもっともっとと欲しがる心。高価な湯呑みを手に入れた瞬間に、また別の焼き物が欲しくなってくる。「手に入れた」という満足感だけを追い求めます。そしてその満足感は永遠に充足はしません。この状態を私は「心のメタボ」と呼んでいます。

あなたの身の回りにあるすべてのモノたちは、きっと縁があってやってきたものです。その縁を大切にすること。丁寧に扱ってあげること。そうすることでモノは輝きを放ち、愛着が湧いてきます。そうして、不要な執着心から解き放たれることになるのです。

 

ビンボー体質を手放す「禅の言葉」

 

・放下着(ほうげじゃく)

ほんの一時でもいい。いっさいの欲望を忘れて、執着心を消し去る時間をもつことです。他人と自分を比べることをやめ、無いものねだりをしないこと。空の雲を眺めながら、頬に当たる風を感じながら、ぼーっとする時間をもってみてください。そんな空白の時間が心を洗ってくれるのです。

 

・莫妄想(まくもうぞう)

善か悪か。豊かか貧しいか。幸せか不幸か。つい私たちはAかBかという発想をしてしまいがちです。この考え方こそが好き嫌いや善し悪しを生み出すことになるのです。人は人。自分は自分。余計な比較をやめることです。第一、幸せを比べることなどできません。自分にしか見えない幸せに目を向けることです。

 

・結果自然成(けっかじねんになる)

物事はいかなることにおいても、努力をすることなく成功することはありません。これはある意味での真理です。もしあなたが、もっとたくさんのお金が欲しいと願っているとするならば、そのための努力をしていますか。善き結果ばかりを夢見るのではなく、いま自分がやるべきことに心を尽くすこと。結果とはあなたの努力へのご褒美なのです。

 

【著者紹介】

枡野俊明(ますのしゅんみょう)

曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー。大本山總持寺にて雲水として修行。禅の思想と日本の伝統的な考え方をもとに庭の創作活動を行ない、国内外から高い評価を得る。多摩美術大学環境デザイン学科教授も務める。

 

「PHPくらしラク~る」 4月号より

 

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本記事は、「PHPくらしラク~る」2018年4月号特集「すっごい捨て方」より、一部を抜粋編集したものです。