モンテッソーリ教育の視点から、子どもが自ら学べる環境づくりについて考えてみましょう。

 

親子

 

子どもの「いたずら」は、環境が原因

 

幼年期の子どもがいて、「いたずらばかりする」と困っている方は多いでしょう。でも、あなたを悩ませている原因は、実は子どもでなく環境にあるのかもしれません。

 

敏感期にある子どもは、そのときの自分にとって必要なことをやろうとします。たとえばティッシュペーパーを引っ張り出す子どもは、その行動によって、手指でつまんで引っ張り出す動きを繰り返し練習しています。充分に繰り返して満足すれば、次の新しい行動に移っていきます。「いたずら」と思えることを、いつまでも続けることはありません。

 

「いたずら」にいそしむ子どもを観察していると、誰に言われなくても、今の自分にとってどんな学びが必要か、子ども自身が知っていることがわかります。子どもの中には、自らが育つためのプログラムが備わっているのです。

 

「子どもは、『成長のために、今これをしなさい』という神様からの宿題をもらっています。『いたずら』をする子どもは、神様からの宿題を一所懸命やっているんですよ」と私はよくお話ししています。

 

「散らかるからやめて」とティッシュペーパーを取り上げて、「子どもはおもちゃで遊びなさい」とおもちゃを与えても、そのおもちゃが今やりたいことと合致しなければ、子どもは「神様からの宿題」をこなすことができません。子どもをよく観察し、「今は、引っ張り出すお仕事をしなきゃいけない時期なのね」と見きわめて、好きなだけ引っ張り出していいようなものを子どものそばに用意する。そうやって、子どもがやりたいことをできる環境をつくっていくことが、大人の大切な役割なのです。

 

子どもの育つ家を、子ども向けの環境に

 

子どものやることなすことが大人を困らせるのはなぜかといえば、家庭が大人にとって生活しやすい、大人優先の環境になっているからです。周囲に大人向けの道具しかなければ、子どもはそれらを標的にするしかありません。そんな、やむにやまれぬ活動が、「いたずら」となって表れるのです。

 

私たちの園を含め、モンテッソーリ園を「子どもの家」と呼ぶのは、先にも紹介した通りです。この名称は、モンテッソーリが自身の最初の園をそう名づけたことから始まっています。

 

子どもは大人の世界に生まれてくるので、私たちの家庭も地域も、大人向けの環境になっています。でも子どもには、子どものサイズに合った、子どもが自由に活動できる環境が必要です。モンテッソーリはそう考えて、最初の「子どもの家」を設立しました。

 

みなさんの家庭も、少しの工夫をして、大人向けの家から「子どもの家」に近づければ、子どもは思う存分やりたい活動に打ち込むことができ、大人のイライラも減らすことができるでしょう。

 

大人中心の環境で、「ダメ」と言われ続けて育つか、自ら活動を選び、内なる課題を満足いくまで達成できる環境で育つかは、子どもにとって大きな違いです。自主的に学ぶ力を身につけてもらうためには、ぜひとも後者のような環境を用意してあげたいものです。

 

6~12歳の「児童期」においても、環境の大切さは変わりません。この時期の子どもは、能動的に動くことで学んでいきますから、一斉授業のように受動的に情報を受け取るばかりでなく、子どもが自ら選んで活動できる環境が必要です。

 

子どもが思わずふれたくなるような道具、自然物、図鑑……、そうしたものがあれば、子どもは自ら学ぶ楽しさを知っていくでしょう。「学ぶことって楽しい」という実感は、思春期やそれ以降の人生でも学び続けていくための、大事な原動力になります。

 

環境づくりの6つのポイント

 

子どもに適した環境づくりには、6つのポイントがあります。

 

【1】子どもが使う道具は、子どもが扱いやすいサイズや重さのものを選び、子どもが自分で選んで取り出せるよう、低い位置に置きます。

 

【2】形や色彩が美しいものを選びます。

たとえば、ほうきとちり取りが子どもにとって魅力的であれば、大人が誘わなくても、これらの道具が、「さぁ、私を使ってね」と、子どもに語りかけてくれます。

 

【3】道具は一度にたくさん置かず、時々入れ替えます。

教材はたくさんあったほうがいいと思いがちですが、無秩序に数ばかり多くても子どもは混乱するだけですし、落ち着いて活動に取り組めません。また、ときどき道具を入れ替えると、子どもは新鮮な印象を受け、より積極的に環境と関わるようになります。

 

【4】失敗や間違いに自分で気づいて訂正できる環境を用意します。

たとえばパズルは、違うピースをはめようとすると、「それは違うよ」と道具自体が教えてくれます。大人に間違いを指摘されずに済むので、プライドが傷つきません。こうした道具があれば、間違いを自分で正す経験を積んでいくことができます。 子どもには汚れにくいもの、汚れが目立ちにくいものを……、と思いがちですが、私たちの園では逆に、汚れが目立つ、明るい色の家具や道具を用意します。これも、子どもが失敗に自分で気づきやすくする工夫のひとつです。汚れに自分で気づくことができれば、自分でふいて元通りにすることができますし、汚さないように気をつけて扱うようにもなっていきます。

 

【5】自然物など、できるだけ本物を用意します。

本物のもつ美しさは、子どもの活動を誘います。食器なども、ガラスや陶器を使います。本物を扱うと、ものを慎重に、丁寧に扱うことを覚えていきます。

 

【6】子どもの発達や文化的、知的な発展に合わせます。

子どもの興味は、ひとつのところにはとどまりません。その好奇心の旺盛さ、吸収の速さには驚くばかりです。子どもの「今の興味」に応える環境づくりをしていくには、大人の側も勉強が絶えず必要になります。

 

制限もまた必要です

 

私たちの園では、子どもが自由に活動を選び、好きなだけ繰り返せる環境を整えています。ただし、自分勝手に何をやっても許されるわけではありません。クラス内では、守らなければならない2つの約束があります。

 

ひとつは、使った道具は元の位置に戻すこと。

 

もうひとつは、席を立つときにはいすを机の下に戻すこと。

 

子どもが約束を忘れたときは、道具やいすを戻すよう促します。もちろん、大人も2つの約束を守るようにしています。

 

道具を元に戻すのも、いすの位置を戻すのも、同じ部屋を使う他の人への配慮です。共同生活は、好き勝手をしていては成り立ちません。みんなが快適に過ごすには、一人ひとりの気遣いや努力が必要です。そのことを、言葉ではなく行動を通して理解してほしいと思っています。

 

 


 

【本書のご紹介】

 

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『自分で考えて生きる力が育つ12歳までのモンテッソーリ子育て』

著者:野村緑

「自分でできる子」から「自分で考える子」に育つために0~6歳、6~12歳で家庭でできるモンテッソーリ教育を紹介しています。

 

【著者紹介】

野村 緑(のむら・みどり)

県立新潟女子短期大学(現・新潟県立大学)幼児教育科卒業。上智 モンテッソーリ教員養成コースを経てイタリアに留学。マリア・モ ンテッソーリの愛弟子であるアントニエッタ・パオリーニに学び、 1973 年に3 ~ 6 歳国際ディプロマ取得。シルバーナ・モンタナーロ に学び、2001 年に0 ~ 3 歳国際ディプロマ取得。バイバ・グラッツィー ニに学び、2012 年に6 ~ 12 歳国際ディプロマ取得。玉川大学編入学。 白根カトリック幼稚園勤務。現在、東京国際モンテッソーリ教師ト レーニングセンター講師。同センター付属「聖アンナこどもの家」 副園長。

 

<聖アンナこどもの家>

〒194-0037 東京都町田市木曽西5-38-7

電話042-792-3825