子どもによって脳の発達の仕方は異なり、それは性格に影響を及ぼしています。では、やさしい性格を育むために、親は何をすればいいのでしょうか。結論から言えば、それは「愛情と手間ひまをかけること」に尽きるのです。

 

女の子

 

脳の発達の違いが性格に及ぼす影響

 

脳には、【1】思考系、【2】感情系、【3】伝達系、【4】理解系、【5】運動系、【6】聴覚系、【7】視覚系、【8】記憶系という、8つの「脳番地」があり、それぞれに「伸びる時期」や「伸びる環境」があります。

3~5歳頃の幼児期は、まだ思考系や理解系の脳番地は伸びる時期にはありません。しかし、運動系、聴覚系、視覚系は成長期にあり、これらの成長に応じて感情系や記憶系の領域も徐々に伸びてきます。

ただし、それぞれの伸び方には個人差があり、言動の差にも影響します。乱暴な行動をとる子がいる一方で、やさしく思いやりに満ちた行動をとれる子も出てきます。

それはけっして、「乱暴な性格」「やさしい性格」ということではありません。子どもがすぐにキレたり怒鳴ったり、ときには手が出てしまったりするのは「乱暴な子だから」ではなく、「やさしい行動を選択できる脳番地がまだ発達していないだけ」なのです。では、その脳番地とはどの部分なのでしょうか?

 

何が違う? 乱暴な子とやさしい子

 

まず知っていただきたいのは、「子どもの乱暴には悪気はない」ということです。

乱暴になる第一の原因は、聴覚系脳番地の未発達にあります。これは耳が悪いということではなく、耳から受け取る情報の処理能力がまだ低いというだけです。こうした子は親や先生の言葉を理解できず、状況判断がうまくできません。すると、どう表現していいかわからず、すでに発達している別の脳番地―運動系で表現してしまう、というわけです。

ここに「言語能力」が関係していることは言うまでもないでしょう。この時期、男の子のほうが乱暴で、女の子にやさしい子が多いのは、概して女の子のほうが言葉の発達が早いからなのです。

第二の原因は、「視覚系脳番地」の未発達。視力の良し悪しではなく、「視覚情報を処理する能力」という意味です。相手の表情や動作から状況を読み取る力が育っていない子は、そもそも何が起こっているかがわからず、やさしい行動もとれません。

逆に、やさしく思いやりのある子は、視覚系と聴覚系が早くから発達しています。加えて、思いやりを発揮するための「表現する力」、つまり伝達系脳番地も育っています。現時点で乱暴な子も、情報処理力と伝達力が発達してくれば、落ち着きと適切な行動が身につくのです。

「状況を理解しているのに、思いやりのある行動をしない」ということはまずありません。脳は他者を意識しながら発達するので、他者と仲良くしたい、やさしくしたいという欲求へと自然に向かうものなのです。

ただし、周囲の大人が対応を誤ってしまうと、乱暴さは消えないどころか、ますます助長される可能性もあります。では、それを防ぐ「良い対応」とは、どのようなものなのでしょうか?

 

すぐ乱暴してしまう子への接し方

 

乱暴な行動をとる子に「やめなさい!」などと大きい声で叱るのはNGです。本人は状況が把握できていないので、非難される悲しさ、くやしさしか感じられず、ますます乱暴になってしまいます。

「○○しなさい!」と強く急かすような言い方もNGです。子どもが自分で考え、行動を選択するまで、根気よく待つ姿勢が大切です。

まずは、話すトーンを全体的にゆっくりと、やわらかくしてみましょう。そして、大事なことを伝えたいときは子どものそばに寄り、内緒話をするようにひっそりと話すこと。それが聴覚への注意喚起になり、ひいては聴覚系脳番地トレーニングになります。

子ども自身もその話し方の影響を受けて、落ち着いたトーンで話せるようにもなるでしょう。

つまり、親を「真似させる」ことが大事なのです。思考系や理解系が未発達な幼児期は、善悪の理屈を説くより、親自身の言動を通して「刷り込む」のが正解です。

 

思いやりを育てるために親ができること

 

お母さん自身が、日頃から思いやりある行動をとることが大切です。子ども本人に対してはもちろん、第三者に対してもやさしく接すれば、子どもはそれを真似るようになります。泣いている子を一緒に慰めるなど、共同作業で誰かに親切にするのも良い方法です。

毎日の習慣としては、「お手伝い」がおすすめです。「花に水をやる」など、小さな役割をもたせると良いでしょう。誰かの役に立つ経験をすると伝達系脳番地が刺激され、心の中の思いやりを行動に移す力がつきます。

同じように効果的なのが、「片づけ」です。出したものは元に戻すというルールを通して「ものの道理」が理解できますし、体を動かして片づければ、ルールを体現する力もつきます。

ただし、「手伝いなさい」「片づけなさい」は禁句です。最初のうちは「一緒にやろう」と誘い、2人で実践します。そのうちに子どもは必ず「自分でやる」と言い出すでしょう。

 

やさしすぎて、気弱で引っ込み思案な子の場合

 

自己主張ができない、つい周囲に流される、ときには貧乏くじを引いてしまう―そんな気弱さは、集団の中での「立ち位置」がわからず、自分をどう表現したらいいのかわからない子によく見られる傾向です。

そんな子どもの場合は、「話す力」をつけるため、まずは家庭での会話量を増やすことが大切です。

できれば、家族以外の人と接する機会も多く設けましょう。家に誰かを招いたり、親戚の集まりに参加したり、遊園地など人の集まる場所に足を運んだりして、よその家族や子ども同士のやりとりを目に触れさせると、良い刺激になります。

自分の思いを口にするレッスンも大事です。とはいえ、「ハッキリ言いなさい!」などと命令するのは禁物です。

「どうしたい?」「どっちが好き?」といった言葉がけで本人の気持ちをゆっくり聞き出すことから始め、「じゃあ、それを大きな声で言ってみよう」と、徐々にステップアップしましょう。

 

今のまま、思いやりのある子に育ってもらうために

 

3~5歳の時期は、基本的に言語能力がそのままやさしさに反映しますが、やがて小学校に入ると、今度は高い言語能力が、自己主張の強さとして現われることもあります。

しかし幼児期に、言葉を聞き(聴覚系)、状況を把握し(理解系)、適切に対応し(伝達系)、それを繰り返す(記憶系)―と、それぞれの脳番地がまんべんなく刺激される経験をしていれば、思いやりを欠いた子にはなりません。

それにはやはり、お母さんがやさしく、ゆっくりと話すことです。急かされなければ、子どもは安心して状況を観察でき、考える力をつけられます。正しい話し方、接し方を親から学ぶことで適切な言葉や行動を選択する力がつき、和やかな人間関係も築けるでしょう。

このように、「脳育て」は手作業と同じです。急げば粗雑になり、丁寧にすれば繊細かつ丈夫で、美しくなります。どんな子の脳も、愛情と手間ひまをかけることで「やさしい脳」になるのです。

 


 

「PHPのびのび子育て」 8月号より

 

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本記事は、「PHPのびのび子育て」2019年8月号特集【3・7・10歳が分かれ道! 乱暴な子、やさしい子】より、一部を抜粋編集したものです。

 

【著者紹介】

加藤俊徳 (かとう・としのり)

医学博士、脳内科医、小児科医

株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳の活動と成長を画像化する技術を発見。脳を成長させる脳番地トレーニングを提唱。著書に、『子どもの脳に良いのはどっち? 頭の良い大人になる子育て』(永岡書店)など多数。