子育てにおいては夫婦円満であることが大切ですが、山口拓朗さんは、ご自身の経験から、夫婦間の小さなケンカはあったほうがいいと考えているそうです。


imasia_1101806_M.jpg


夫婦ゲンカ発生! 子どもは何を思う?

小さな子どもにとって、親は、自分の世界の一部です。いえ、まだ1人で何もできない子どもにとって、親の存在は「一部」どころか、「自分の世界そのもの」とも言えます。
夫婦が楽しく仲よく過ごしていると、子どもも楽しく満たされた気持ちになります。未就学児童にとって、自分と親は「一体」なのです。
親が夫婦ゲンカを始めたとき、子どもは、夫婦が互いにぶつけ合う「感情的な言葉」や「相手を責めるエネルギー」を敏感に察知し、自分の身体や心をもぎ取られたように感じます。自分を守ってくれていた安心・安全の世界が崩れていくような感覚。それは大人が思う以上につらいものです。
子どもは親のことを愛しています。愛の対象である親同士が責め合い、傷つけ合う姿は、子どもにとって悲しみ以外の何ものでもありません。
中には夫婦ゲンカの原因が「自分にあるのでは?」と感じて自分を責めてしまう子もいます。これは精神衛生上、けっしていいこととは言えません。

そもそも、人はなぜ夫婦ゲンカをしてしまうのでしょうか?

お互いが「自分が正義だ」と思い込んでしまっているからです

すべての夫婦ゲンカに共通する点があります。それは夫と妻の双方が「自分が正しくて相手が悪い」と思っている、ということです。「正義」対「正義」、これが夫婦ゲンカの正体です。
夫婦ゲンカをするとき、夫と妻はお互いに「正義は1つしかない。しかも、それは自分の側にある」と思い込んでいるのです。
考えてみれば、国同士の戦争も「正義」対「正義」です。自国が善で、敵国が悪。でも敵国から見れば、相手が悪なのです。つまり、「正義」は1つではなく、国の数、いいえ人の数だけあるのです。
少し深掘りしてみましょう。夫婦ゲンカの多くは突発的に起きるように見えますが、実は違います。日々の生活の中で、相手(非正義、つまり悪)へのマイナス感情を増幅させていき、それが何かのきっかけで暴発するのです。
私も、かつて毎日のように夫婦ゲンカをくり広げていました。まさしく「正義」対「正義」。妻に対して「それは君がおかしい」「俺は間違っていない」「どうして(俺の気持ちを)わかってくれないんだ」─そんなことばかり叫んでいました。妻もまた私に対して同じようなことを言い続けていました。
マザー・テレサは「愛の反対は無関心だ」と言いましたが、「愛の反対は正義だ」と言った人もいるそうです。自分にとっての「唯一絶対の正義」は、「愛」どころか、人を傷つける「刃物」なのです。夫婦ゲンカとは、「正義」という名の刃物をお互いに相手に突きつけている状態なのです。

どうすれば夫婦ゲンカをしないようになりますか?

「夫も妻も、両方正しい」という真実に気がつけばケンカはなくなります

夫婦ゲンカに明け暮れていた時期、『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(大和書房)という本に出合いました。この本は私たち夫婦の座右の書です。読み終えたとき、私は自分が犯していた過ちに気づいて、がく然としました。
この本には、「人は、自分の箱に入っているとき、自分を正当化し、相手に非を押しつける」という意味のことが書かれています。私は、自分の小さな箱の中に入った状態で、自分を正当化し、妻を悪者に仕立て上げていたのです。
この本から得た最大の学びは、「自分も正しい。相手も正しい」という真実です。正義はいつでも、人の数だけあります。夫婦間においては、「夫の考えも正しいし、妻の考えも正しい」のです。
この考えを受け入れることで、世界の見え方が一変しました。どちらの正義も正しいのであれば、2人が納得する落としどころを探せばいいのです。勝ち負けを競うのではなく、「2人が一緒に勝つためにはどうすればいい?」と考えられるようになりました。
自分の小さな箱から出てみると、そもそも自分が掲げていた正義の正体が「思い込み」であることにも気づきました。たとえば、私は「子育てや家事は妻ががんばるもの」という思い込みを抱いていました。言うまでもなく、子育てや家事は妻だけのものではありません。もっと言えば、「がんばる」という表現自体も思い込みと言えるでしょう。
大事なのは「自分が入っている小さな箱」に気づくことです。気づくことができれば、脱出することもできます。

それでもやっぱりケンカをしてしまった場合、どうしたら仲直りできますか?

日々、小さなケンカをして夫婦間の価値観のズレを確認し、受け入れておきましょう

「自分の小さな箱」から抜け出すことで、私と妻の関係に変化が生まれました。最たる変化は、「会話量が増えた」ということです。お互いに正義をぶつけ合っていた時期は当然、会話らしい会話はありません。相手は敵ですので、簡単に気を許してはいけない、という本能が働いていたのかもしれません。
しかし、「自分も正しい。相手も正しい」ということがわかったために安心感が生まれたのでしょうか、その後は、お互いに自分の考えや気持ちを伝え合うことに恐れがなくなりました。
もちろん、会話量が増えれば、瞬間的に衝突したり、小さなケンカが起きたりすることもあります。しかし、この小さなケンカは、あってしかるべきものです。なぜなら、小さなケンカを通じて考えや価値観のズレを確認し、受け入れることができるからです。小さなケンカを避けようとすると、取り返しのつかない大ゲンカを招きかねません。
そういう意味では、ある日暴発する大きなケンカと、日々起きる小さなケンカは、その性質や意味合いがまったく異なります。前者が「正義」と「正義」の対決であるのに対し、後者は「お互いの考えや価値観のすり合わせ」です。
夫婦ゲンカの仲直りのコツは「謝り方」にあるのではありません。仲直り上手になりたいなら、暴発による大ゲンカを避けるべく、日々の小さなケンカを増やすことをオススメします。小さなケンカであれば「ごめん。さっきは自分の箱に入ってしまったよ」のひと言で、矛を収めることができるでしょう。




「PHPのびのび子育て」9月号より


Ncover2009.jpg

本記事は、「PHPのびのび子育て」2020年9月号特集【心が荒れる子、やさしくて強い子】より、一部を抜粋編集したものです。

【著者紹介】
山口拓朗(やまぐち たくろう)
大学卒業後6年間、出版社で雑誌記者を務めたのち、フリーライターとして独立。「渋谷のクラブに集う20代の若者」から「老人ホームに集う90代のお年寄り」まで、24年間で3,300件以上の取材・執筆歴を誇る。著書に、『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』(PHP研究所)など多数。