同年齢の集団に馴染めない…「ギフテッド」の子どもたちの知られざる困りごと

宮尾益知 (監修)
2025.06.24 11:56 2025.06.24 11:50

頭を抱える男の子

知的能力に優れ、深い思考力や強い探究心をもつ一方で、感情のコントロールや集団生活に大きな困難を抱える「ギフテッド」と呼ばれる子どもたち。彼らはしばしば問題児と誤解され、学校や家庭で孤立してしまうことも。

高い能力の裏にある、見えにくい苦しみと支援のあり方について、小児精神神経科医の
宮尾益知先生の著書より抜粋します。

※本稿は、宮尾益知 (監修)『ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本』(大和出版)より一部抜粋、編集したものです。

働きかけても素直に応じない。どう育てたらいいかわからない

ギフテッドと呼ばれる子どもたちは、IQ(知能指数)が高く、好奇心旺盛で驚異的な記憶力をもっています。

しかし、感情の起伏が激しく、自己抑制がきかないうえ、自分の意に沿わない、満足できないと、反抗したり、癇癪を起こしたり。親御さんや周囲の大人をてこずらせます。

小学校低学年から中学年で気づく親御さんが多い

本を読む女の子

幼少期から本を読みふける、ぬいぐるみと話し、長時間空想遊びを続ける、寝食を忘れて絵を描き続ける……。同じくらいの歳の子に比べるとちょっと変わった様子を見せる我が子に違和感を覚える親御さんも多いはずです。

保育園や幼稚園の時期は、周囲が個別に対応してくれます。ところが小学校に上がると、規則を守り集団行動を強いられます。

ギフテッド児は、好きなこと以外はやらないし、満足できなければ怒り出し、まわりをバカにし、無視する、暴言を吐くこともあります。同年代の子どもとの遊びも、授業もつまらないため、クラスになじめません。

多くの親御さんが、小学校低学年から中学年の時期に担任から学校での問題を伝えられます。そして発達障害やギフテッドを疑い、クリニックを訪れます。

親と目を合わせず、口をきかない子もいる

初めてクリニックに連れてこられた子は、反抗的で挑戦的な態度を見せます。本人は自分の特性により学校で問題になっていることを自覚していません。親に無理やり連れてこられ、不信、不服でいっぱいの様子がうかがえます。親御さんとは目を合わせず口をきかない子もいます。

親御さんに話を聞くと、日頃から家庭でもうまくいっていないと訴えます。いわゆる「素直で育てやすい子」とは正反対だからです。

親の働きかけには応じず反発をくり返す子に、追い詰められ、クリニックで涙ながらに窮状を訴える方、なかには子どもを怒鳴り叩く、無視するといった虐待行為に及んでしまう方もいます。ギフテッド児の考えや行動は、我が子であっても不可解でどうしたらいいかわからないのです。

崩れてきた「ギフテッド児神話」

日本ではギフテッドは「英才児」と訳され、IQ の高さばかり注目されていた時期もありました。IQ が高いのだから成績もいいのだろう、高いスペックを生かせば活躍できるだろうといった「ギフテッド児神話」なるものがまかり通っていました。以前は特別な才能のある子だと喜ぶ親御さんもいらっしゃいました。しかしメディアを通じ、ギフテッド児が知られるようになると、手放しで喜ぶ親御さんは少なくなりました。

先生との関係がうまくいかず、通学できなくなるケースも

学校の教室

ギフテッド児はIQが高いにもかかわらず、小学校に入るとさまざまな困難に直面します。クリニックを受診するのは小学校低学年から10歳ぐらいの子どもが多く、学校で問題視されて親御さんに連れて来られるパターンが一般的です。

知的水準が高い発言や反抗的な態度で問題が起こる

学校で問題視されるのは、ギフテッドの特性が周囲との関係においてトラブルになりやすいからです。

ギフテッド児は知的に高度ですが、自分が興味のないことには関心を示しません。授業中も好きな本を読んだり、空想にふけったりしてしまいます。先生がそれを指導すると反抗的な態度を示します。

一方、興味のあることはとことん突き詰めていくので、難解な質問で教師を困らせ、答えられないとバカにします。

いまの義務教育のなかで、ギフテッド児に個別に対応できるほどの余裕が学校側にないのでしょう。先生から否定的な態度をとられ、通学をいやがるようになるケースも少なくありません。

成績が芳しくないギフテッド児も多い

ギフテッド児は記憶力、理解力が高く、全教科にわたり成績優秀な子もいます。その一方で、興味ある特定の分野では突出した能力を発揮するのに、学校の成績が芳しくないギフテッド児もたくさんいます。得意・不得意のギャップが非常に大きいことが一因です。

またギフテッド児に多いのは、手先が不器用、運動が苦手という問題を抱えるケースです。

手首足首が柔軟に動かせない特性があるので、ボールなどの道具を使う運動、書字や図工、音楽、裁縫や料理などがうまくできません。できないことはやりたがらないため、上達もしません。手足や目の動きを協調させる運動が苦手な発達障害に、発達性協調運動症(DCD)があります。

10代になってこうしたことがあるとDCDとの重なりがあるギフテッド・2Eと診断される子もいます。現在のところ、教育現場では周知がじゅうぶんとはいえず、周囲の理解不足から、傷つけられる子も多いと考えられます。

友だちをつくりづらい。居場所がないことがつらい

うつむく男の子

ギフテッド児は同世代の子どもたちとうまくつき合えません。話題が合わず、退屈に感じ、自分からひとりになろうとする子もいます。その結果、クラスに居場所がなくなってしまいます。

友だちに共感しないし、共感も得られない

小学生の子どもたちの会話といえば、友だちや芸能人、スポーツ選手の噂話、ゲームや遊びなどの身近な話題でしょう。ところがギフテッド児は、興味・関心のもち方が同年代の子とは違います。社会・政治問題に憤りを覚えたり、解明されていない宇宙の不思議を突き詰めて考えたり、死や人生の意味といった抽象的な話題について話したがったりします。

さらにギフテッド児は、普通の発達段階を経る定型発達の子どもと比べ、社会性の発達が遅れます。相手の気持ちを理解して上手に合わせることが苦手です。自分が興味をもった難しいテーマについて、友だち相手に熱弁をふるっても、友だちは乗ってくれません。そんな友だちなら、一緒にいてもつまらないと思ってしまうのです。こうなると周囲の子どもたちも、近づかなくなります。

また、子どもたちは会話だけでなく集団で行う遊びや、サッカーやバスケ、ダンスなどのスポーツを通して絆を深めます。ギフテッド児は、協調運動の苦手さを抱えていることが多く、友だちとのこうした共同作業が苦手です。

また、感情抑制のコントロールがきかず、うまくいかないと癇癪を起こしてしまうこともあります。できないことは最初からやろうとせず、みんなの輪に入りたがりません。

友だちが不要だと思っているわけではない

このようにギフテッド児は学校で孤立しがちですが、だからといって心の底から「友だちなんていらない」と思っているわけではありません。クリニックに来るギフテッド児の多くは、学校でうまくいかないことにストレスをため、ふとさみしげな表情を見せることがあります。

学校はつまらないし、友だちと話は合わないけれど、それでもみんなの仲間に入りたいというのが本音なのでしょう。

熟考する完璧主義者。知能検査で判明する

水族館の女の子と男の子

ギフテッドとは、ずば抜けて高い知的能力や才能をもつ人のことです。もともとは「天から与えられた才能をもつ者」という意味の言葉です。

ギフテッドは医学的な診断名ではない

ギフテッドの特徴は「IQが120~130以上で、先天的に著しく高い能力がふたつ以上あること」とされています。WISC(ウィスク)と呼ばれる知能検査が客観的な指標のひとつに用いられます。生まれつき脳機能に偏りがあり、IQ以外にも共通した行動特性としては、ひとつのことを深く考え、完璧にやりとげようとする傾向が見られます。しかし医学的な診断名ではありません。世界共通の診断基準等はなく、教育的・社会的概念です。

ギフテッドをもつ子どもたちは、ずば抜けた知的能力のほか旺盛な好奇心、驚異的な記憶力、想像力など、特定の学問やジャンルで高い能力を発揮します。なかには秀でたリーダーシップを発揮する子もいます。

一方で興味のないことにはまったく関心を示しません。神経質で感情の起伏が激しく、学校や家庭で「扱いづらい子」と問題児扱いされることもあります。社会性が低い点も共通の特徴で、集団のなかで孤立しがちです。

またギフテッドにはASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)など発達障害のもつ症状との重なりも目立ちます。ギフテッドと発達障害の要素をあわせもつ場合、「二重に特別な人間=Twice Exceptional」を意味する2Eと呼ばれます。

知的刺激を切望し、特定分野を掘り下げていく

一般にギフテッド児は「飛び級できるような賢い子」と考えられていますが、多様な知的刺激を切望し、好きな分野を自分なりに極める能力に長けています。ギフテッドの能力(ギフテッドネス)を生かすには、たんに飛び級のような学習の先取りだけでは不十分です。

周囲の大人は本人が好きな分野を思う存分掘り下げる機会をつくるだけでなく、思考や創造性をつねに刺激し、ギフテッド児が苦手な「忍耐力」や「やり抜く力」を意識的に育んでいくことが不可欠です。


知能検査はどこで受けられるのか

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宮尾益知

宮尾益知

小児精神神経科医・どんぐり発達クリニック院長。医学博士。
東京生まれ。徳島大学医学部卒業。東京大学医学部小児科、自治医科大学小児科学教室、ハーバード大学神経科、独立行政(現・国立研究開発)法人国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科などを経て、2014年にどんぐり発達クリニックを開院。専門は発達行動小児科学、小児精神神経学、神経生理学。
どんぐり発達クリニック: https://www.donguri-clinic.com

ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本

宮尾益知 (監修)『ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本』(大和出版)

「好きなことだけしかやらない」
「すぐに癇癪を起こす」
「反抗的な態度を取る」
「まわりをバカにする」
「暴言を吐く」
親は手を焼き、先生は対応しきれず、クラスでは浮いてしまう。IQが高いのになぜ問題児になってしまうのだろう? どうしたら持てる才能を伸ばせるか?
認知脳に比べ、社会脳の発達が遅れているギフテッド児は社会の中で他人の心を想像し、自分に引きつけて考え、行動することが苦手なため、集団で協力しあって行う学習にもついていけなくなる。IQが高くても、知識を活用して考えを深め、新たなことを発見・創造するまでには至らないのだ。持てる才能の芽を摘まずに個性を伸ばしていくには、適した学びの場や親のサポートが必要なのである。
不可解で学校でも家庭でも“扱いづらい”とされる子の困難を知り、上手に寄り添い援助する法。