友達は少なくてもいいのに…子どもを追い詰める「みんな仲良く」の呪縛
「争いのない世界」は理想だ。子どもたちにも「みんなで仲良くしよう」と教える大人も多いだろう。しかし、その言葉は「友達はたくさんいないとダメなんだ」「苦手な人・嫌いな人がいる自分はおかしいんだ」と子どもたちを苦しめることもある。
大切なのは、「苦手な人がいてもいい。ただし、その相手に嫌なふるまいをするべきではない」と伝えることだというのは、数々の革新的な教育改革で注目されている千代田区立麹町中学校長の工藤勇一氏だ(注:当時、2020年4月より横浜創英中学・高等学校校長に就任)。そんな”心と行動を切り分ける”教えについて聞いた。
※本稿は工藤勇一著『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)より、一部を抜粋編集したものです。
工藤勇一(くどう・ゆういち)
横浜創英中学・高等学校長/元千代田区立麹町中学校長
子どもを不幸にする、大人の押しつけの価値観
私は「みんな仲良く」という言葉には懐疑的です。
この言葉に多くの子どもたちが苦しめられてきたことを知っています。この言葉を大人が使うようになると、それが守れない子は苦しいのです。
「友達100人できるかな」などとよく言われますが、今の日本社会では、友達をたくさんつくることが重要視されすぎていると感じます。
半世紀ほど前、私が子どもの頃は、「世の中でもっとも大事なことはなんですか?」と聞かれたときには、戦後間もないこともあり、迷わず「平和」と答える風潮が残っていた気がします。
しかし今、教室で、子どもに同じことを尋ねれば「友達」と答える子が本当に多いことに驚きます。
私が生まれたのは1960年。まだ戦後15年しか経っていなかったので、世の中はきっと平和に飢えていたのだと思います。今の子どもたちが同じ質問に「友達」と答えているのは、きっと友達に飢えているからなのではないでしょうか。
道徳や心の教育も含め、映画やドラマ、アニメなどでは、「友達が大事」というメッセージが強くうたわれています。
そんなメッセージが、皮肉にも子どもたちにさみしい思いをさせてはいないでしょうか。
「友達がいない人はだめなんだ」という価値観が、子どもたちを不幸にしている気がしてならないのです。
親御さんのなかにも、お子さんに友達がいないことを悩んでいる人が多いようで、「この子は一人遊びが大好きで、友達がなかなかできないので困っている」と相談を持ち掛けられることがあります。
そんなときの私の回答は、「一人遊びが好きでも問題ないと思いますよ」。
子どもの頃に一人遊びが好きだったり、友達が少なかったりするからといって、大人になってから苦労するかというと、そうではありません。
その子が持つ興味がどのような将来を導いてくれるかわかりませんから、何か一つのことが大好きでそれにのめり込んでいても、それほど心配することはないでしょう。
とは言え、将来大人になったとき、自分以外の人間とつながり、協働することで、できることの幅が広がったり、人のなかで成長したりすることもありますから、「他者意識」を子どものうちから持たせることができれば、それはそれでとても有意義なことです。こういったときこそ大人の出番なのです。