「考える力」が育つ最高の習慣

汐見稔幸(臨床育児・保育研究会代表)
2023.10.11 10:41 2023.02.01 19:00

「考える力」が育つ最高の習慣の画像1

いわゆる「学力」だけではなく、子どもの「創造力」「工夫する力」が弱くなっているようです。どうしてこんなことが起きているのでしょうか?
※本稿は『PHPのびのび子育て』2011年6月号に掲載されたものを一部抜粋・編集したものです

今、自分で考えられる子が減っている!

予想されていたことですが、やはり少し心配な傾向が子どもにあらわれてきたように思います。

一般に、生活が便利になり、また豊かになると、人は工夫したり節約したりしながら生活する必要が次第になくなっていきます。この、「工夫する」とか「節約する」ということがすなわち「考える」ということなのですが、その必要がなくなっていくわけです。放っておくと、人間はだんだん考えることを面倒に思うようになり、考えることが苦手になる可能性があります。

これは人類にとってたいへん深刻なことなのです。ここまで人類を進歩させてきたのは、そのたぐいまれな思考力であったのに、それが弱くなるというのですから。

子どもが「考えたくなる」状況を作り出す

その影響は最初に小さな子どもに出てくる心配があります。習慣をつけなければならない時期にそれがうまくできないからです。特に、親がわが子の教育に熱心になるあまり、あれこれ指示することが増える場合は問題です。

親が具体的に指示して従わせようとすることは、「考えるのはお母さん。あなたはお母さんの考えに従えばいいのよ」というメッセージを送ることに他ならないからです。これでは子どもの自ら考えようとする力は身につきません。考えるというのはもともと「自ら」考えるということ。その力を身につけさせるためには、あらゆる場面で、子ども自身に考えさせるようにていねいにかかわり続けるしかないのです。

幸い、人間には考えたいという本能のようなものがあります。幼い子どもほどそれが豊かです。考えたいというのは初めに述べたように「もっと工夫したい」「もっと楽にしたい」「もっと面白くしたい」などという気持ちが生み出すものですから、そういう状況をつくるように配慮すれば、子どもはどんどん考え出すのです。このことに確信を持って、これからの子育てのスタンスを少し変えてくださればと思います。

考える力を伸ばす3つの方法

ただやみくもに「考えて」と言われても、子どもは困ってしまいます。
そこで、以下の「3つの柱」を意識しながらかかわってみましょう。

【柱1】工夫する

積み木をもっと高く積み上げる、ブロックでもっと面白いものをつくる、コマをもっと上手に回すなどなど、遊びの中で、もっと面白くする、もっとダイナミックにするという気持ちがくことが大事です。そのために親がモデルを示したり、お兄ちゃんやお姉ちゃんが上手に遊んでいる場面を見せることが得策です。

≪柱2≫創造する

考えるというのは、算数の問題を解くというようなことには限られません。絵を描くとか粘土で何かをつくるとか、料理にひと工夫するとか、創造的な活動のレベルをもっと上げたいという気持ちが湧く時にも大いに考えます。お絵描きや粘土細工は、親が指示しないことがもっとも大事で、自由な創造活動の中でこそ、どんどん考え出せます。

≪柱3≫会話を楽しむ

子どもから来る質問などに、かっこいい答えをする必要はありません。「へえ—。面白いねぇ。○○ちゃんはどう思うの?」などと聞きながら、決して子どもの言い分を頭ごなしに批判せず、会話を続けるように努力してください。「そうか、ママはこう思うけど、○○ちゃんの意見の方が面白いね」などといつも言っていると、考えることの好きな子になります。

考える力とは

純粋に「考える力」というのは心理学者が理論的に抽象したもので、何かテーマがないのに考えるということはありません。大きくは、何か問題が見つかり、それを解決するために方策を見つけようと、精神の力を使うのが考えるということで、「問題解決」といってもいいでしょう。だから、考えるには子ども自身がまず何か問題を見いだすことが必要です。

 

汐見稔幸(しおみ・としゆき)

2018年3月まで白梅学園大学・同短期大学学長を務める。東京大学名誉教授、日本保育学会会長、全国保育士養成協議会会長、白梅学園大学名誉学長、社会保障審議会児童部会保育専門委員会委員長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事。

汐見稔幸

汐見稔幸

2018年3月まで白梅学園大学・同短期大学学長を務める。東京大学名誉教授、日本保育学会会長、全国保育士養成協議会会長、白梅学園大学名誉学長、社会保障審議会児童部会保育専門委員会委員長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事。