日本の学力低下の原因は? もはや「学校に期待できなくなった」背景

陰山英男
2024.01.16 14:43 2023.12.20 17:00

学校の教室

現代の学校ではドリル学習の廃止や宿題を減らす傾向にありますが、反対に子ども達に課されている学習量は大きく増加しています。そこで以前に比較しておうち学習の重要性が増しているのです。陰山英男さんが解説します。

※本稿は、陰山英男著「陰山流 新・おうち学習戦略」(Gakken)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

PISAに表れる日本の学力低下

学校の廊下

最初に日本の子どもの学力低下が大きな問題として扱われるようになったのは、2003年に実施されたPISA(国際学力調査)の結果が下落したのがきっかけでした。PISAは15歳の子どもを対象として、学力到達度を3年ごとに測る国際的な調査です。

しかしよくよく見ると、直近の2018年の結果は、その問題となった2003年とほぼ同じくらいの結果です。最新のPISAはコロナ禍で延期されて2022年に行われました。結果は2023年に発表される予定になっています。

この2022年の結果も、私は非常に残念なものになるのではないかと恐れています。過去最低記録になってしまうかもしれないからです。(※編注 筆者追記あり)

ーーーー(追記)ーーーー
2023年12月にPISA2022の結果が公表されました。日本は、全参加国中の順位が数学的リテラシーで5位、読解力で3位、科学リテラシ―で2位となりました(文部科学省・国立教育政策研究所の発表より)。

日本の子どもたちの順位が上がっていて本当によかったです。日本の学習レベルが上がって、その成果が出たといえます。

ただ、その過程で多くの不登校児童・生徒が出ているのも事実です。授業についていけない子が増えているとも考えられるため、今後も注意深くみていかないといけないと思います。
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【教員不足と教師のワーク・ライフ・バランス】
私がこのようなネガティブな予測をするのは、学校の機能が弱まっているからです。2021年度は小・中学校の教員が約2000人近く不足していたという報告があります。臨時講師を集めたうえでの2000人です。正規雇用の教員は、万単位で足りていないのが実態でしょう。

教職が避けられている背景の一つに教師の多忙さがあり、現在は「教師の働き方改革」が実施されています。もちろん教師の長時間労働を解消して、ワーク・ライフ・バランスの実現を目指すべきです。ただ、その方法が何でもよいわけではありません。

たとえば中央教育審議会・学校における働き方改革特別部会の答申で、学習評価や成績処理が「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」とされました。テストの○付けをするのは先生でなくてもよいというのですが、そんなことはありません。

○付けは子どもたちの習熟度を測る大切な作業です。自分が受け持つクラスの子どもがどこでつまずいているのか、理解が足りないところはどこかをチェックするのです。○付けをしないと、つまずきを見逃してしまいます。

また、業務を減らすために宿題を減らしているところもあります。宿題は多ければよいわけではありませんが、学習に演習は欠かせません。中には、計算ドリルを配布するのもやめた学校もあるようで、私には信じられないことです。最近は、子どもの学力が低いと「塾に行かせてください」と言う教師もいるそうです。

一方で、教科書のボリュームは増えています。ページ数と判型の大判化を合わせると、20年前に比べ、実質2倍くらいの分量です。お父さんお母さんが想像する量よりもはるかに多いのです。そのために演習が減り、先生も習熟度を確認できないとなると、学力の定着度を上げることは難しいでしょう。

2、3か月で1年分の単元を終わらせる

PISAに表れる日本の学力低下の画像1

【家での予習を「学習の中心」にする】
私は、小学生の家庭学習は学校で授業を受けた後、「百ます計算」と「漢字の徹底反復」以外は復習をしっかりしておけばよいと、以前は考えていました。しかし、学校に学力向上を期待できなくなった現在、学習のベースを”おうち”にすると同時に、変えなければならないことが出てきました。

それは、予習を重視することです。要するに、これまでの復習主義から予習主義に転換せざるを得なくなったわけです。もっと言えば、「予習」はまだ学校の授業をベースにした言葉です。つまり、授業の前に勉強しておく、というイメージがあります。

しかし現在のベースは学校ではなく”おうち”にあるとすれば、おうちで行う予習が「学習の中心」です。そして、学校の授業がおうち学習の復習、または応用学習という位置付けになります。このような学習を、私は「追い越し学習」と名付けました。

【春休みからゴールデンウィークを目標に】
具体的には1年分の学習内容を遅くとも夏休みまで、できればゴールデンウィークまでに終えることです。初めて耳にする人は驚くでしょうが、十分可能です。ポイントは春休みから新学年の勉強を始めること。そうするとゴールデンウィーク前後には1年分の学習をざっと終えることができます。

私はかつて、春休みは学年の変わり目なのでゆっくりしていいと思っていました。学校の宿題もなかったので、独自の復習でよかったのです。

ところが学習量が増えた現在は、これでは間に合いません。まずは春休みからゴールデンウィークを目標にして、1年分の算数と漢字を済ませてしまいます。「無茶を言っている」と感じるかもしれません。

でも、実は十分に可能なことです。というのも、教科書のボリュームが増えても、絶対に身につけなければならないこと、また中学校や高校につなげるために習熟していなければならない単元は、そう多くないからです。

大切な部分をピックアップして学習すれば、1年分の基礎を2~3か月で学ぶことができます。「基礎」を習得したら、「盤石な基礎」へと固め、さらに「超強力な基礎」へと仕上げていきます。

多くの人は基礎の次は応用と考えますが、それでは学力は伸びません。基礎といっても一応やった程度のものでは使いものになりません。

たとえば百ます計算でやっていることは1年生の内容ですが、最低でも2分以内でできなければ高学年の算数でつまずきます。さらに、100秒以内になるように繰り返し学習し、「超強力な基礎」にすることが大切なのです。

基礎の次も基礎、その次も基礎を大切にする

勉強する親子

【学習に対するよくある勘違い】
子どもたちは、できなかった問題が解けるようになることで自信を持ち、勉強に前向きになります。その状態に持って行くのが、読み書き計算の徹底反復学習です。

簡単な計算、簡単な漢字の読み書きであれば、学習に慣れていない子どもでも抵抗感が少なく始められます。簡単な読み書き計算から一つひとつ成果を積み重ねることで、力になっていきます。

しかし誤解が多いのはその先です。「基礎力をつけた後は、応用力をつける」という誤解です。たとえば、よくある誤解に「算数の応用力をつけさせるために、文章題を多く解かせる」というものがあります。

しかし文章題=応用問題ではありません。文章題の中には、基礎的な問題もあれば、応用的な問題もあるわけです。

そもそも応用力とは「いくつかの基礎的な知識を組み合わせる学習によってつけられる力」のことです。基礎をしっかりさせれば、それを組み合わせるだけで応用問題も解けるようになる。つまり、応用力をつけるためには基礎をしっかりと確立することです。

「基礎」→「盤石な基礎」→「超強力な基礎」と仕上げていく、つまり、基礎を固めることが、応用力につながっていくのです。子どもたちは一定のレベルに達したとき、より難しい課題にも挑戦したくなります。基礎が強固になり、穴もなくなった段階で、初めて応用力を試される難しい問題に進むようにしましょう。

陰山英男

陰山英男

1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒。兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。
2003年4月尾道市立土堂小学校校長に全国公募により就任。百ます計算や漢字練習の反復学習を続け基礎学力の向上に取り組む一方、そろばん指導やICT機器の活用など新旧を問わず積極的に導入する教育法によって子どもたちの学力向上を実現している。過去、文部科学省中央教育審議会教育課程部会委員、内閣官房教育再生会議委員、大阪府教育委員会委員長などを歴任。2006年4月から2016年まで、立命館大学教授。現在、陰山ラボ代表。陰山メソッド普及のため教育クリエイターとして活躍し、講演会等を実施するほか、全国各地で教育アドバイザーなどにも就任、子どもたちの学力向上に成果をあげている。

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陰山流 新・おうち学習戦略(Gakken)
著者は、「これからの学習は『家庭』が担う」「子どもの学力を伸ばせるのは『家庭』の戦略と心掛け次第」と明言。戦略的な学習プランと教科別の進め方ポイントをマニュアル化し、ムダなく理解がすすむ攻略ポイントをこの一冊にまとめました。