「難しい問題が解けなければ合格できない」は思い込み! 中学受験で本当に大切なこと

高梨裕介
2025.03.17 13:24 2025.03.26 11:50

教科書を読む女の子

「難関校を目指すなら、難しい問題が解けなければならない」――そう思い込んでいませんか? しかし、それが中学受験を苦しくする原因になっているかもしれません。

本当に必要なのは、すべての難問を解く力ではなく、基礎を盤石にすること。そして、入試本番で「解ける問題」を確実に得点する戦略です。

医学部受験の指導経験を持つ著者が、中学受験における「難問神話」の罠と、本当に合格につながる学習法について解説します。

※本稿は、高梨裕介 (著) 『灘中学に合格した医学部専門予備校塾長が教える真実 合格したいなら「中学受験の常識」を捨てよ』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部抜粋・編集したものです。

難関校を目指すなら、難しい問題が解けるようにならなければならない?

勉強する子ども

「中学受験の勉強は小学校の勉強とは別物」
「中学受験には受験算数と言われる特別な勉強が必要」
「近年の中学受験は思考力や記述力がなければ合格できない」
などなど。インターネットや先輩ママからの情報、そして塾の先生からこのような文言を聞いたことがある人が大半だと思います。

そんな話を聞くと、
「やっぱり、中学受験をさせるとなると、難しい問題が解けるようにならなければいけないんだ!」
→「そのためには、それを教えてくれる進学塾に通わせないと!」
→「でも、塾の難しい授業についていけるかしら……?」
→ 「『中学受験は親のサポートが不可欠』と言われているから、親である自分が厳しく言ってあげないと!」
といった思考回路になりがちです。
そして、その思考に陥ってしまった途端、過酷な受験生活が始まってしまう。
これが、いまの中学受験家庭のリアルな姿だと思います。

親御さんが中学受験を選択するいちばんの理由は、よりよい教育環境を求めているからだと思います。

「よりよい教育環境」の考え方はいろいろありますが、多くの場合、「できるだけ偏差値の高い難関校に進学させ、将来の選択肢を広げてあげたい」というのが、親の本音ではないでしょうか。
ここで多くの方が、大きな落とし穴にはまってしまうのです。それは、「難関校を目指すなら、難しい問題が解けるようにならなければならない」という思い込みです。

私が代表を務めているエースアカデミーは、医学部を目指す中高生のための予備校ですが、ほとんどの医学部受験生は、「医学部を目指すには難しい問題が解けるようにならなければならない」と思い込んでいます。

それに対して、私は「こんな難しい問題集を頑張ってやらなくても、基礎をしっかり定着させれば、成績が上がって、難関大にだって合格できるよ」と伝えています。
実際、エースアカデミーでは、生徒さんは市販の基礎的な問題集だけを使い、国立をはじめ最上位の医学部に合格しています。

入塾当初は、「いや、でも医学部の入試問題はこんなに難しいんですよ? 基礎学習だけで突破できるとは到底思えません」と半信半疑な塾生もいます。

でも、基礎さえしっかり身についていれば、確実に点が取れる問題が入試にはたくさんあります。
そして、そうした基礎問題、または基礎が定着していれば気づけるような発展的な問題を確実に得点することで、合格ラインに達する医学部もたくさんあります。

つまり、全教科の基礎を盤石にすることで、合格できるということ。
それは、中学入試でも、医学部入試でも同じです。

また、これはすごく大事なポイントになりますが、こうした「難しい問題」は、実は解かなくてもいいのです。

入試で100点を取る必要はありません。
入試問題には解けなくてもいい問題が必ず含まれています。
さらに言うと、そういう問題は絶対に「手を出してはいけない」のです。

もし、本番で「難しい問題」に手を出してしまうと、どうなるか――?
当然、答えが出るまでに時間がかかります。場合によっては、考えても、考えても答えが出ないこともある。その間に、どんどん試験時間は過ぎていきます。

入試は時間との戦いです。
それなのに、「合格するためには難しい問題を正解させなければいけない」と思い込んで、これらの難しい問題をなんとか解こうと考え込んでしまう子どもたちが本当に多い。
ムダに時間だけが過ぎ、本来であれば解けたはずの基礎問題に使える時間がなくなり、合格点が取れなくなってしまう。
これが、入試本番の怖さなのです。

しかし、塾ではそんな大事なことを教えてくれません。
それどころか、「○○中に合格するには、このくらい難しい問題が解けなければならない」と親御さんたちを煽り、レベルの高い問題ばかりを教えようとします。 そして、親御さんたちはその言葉をまんまと信じ、なんとかそれらの問題が解けるようになるように、必死で受験サポートをしようとします。

でも、そんな難しい問題を試験本番に自力で解ける子なんてごくわずかです。
たしかに、世の中には本当に「デキる子」は存在します。
でも、それは圧倒的に少数派。
合格者にも解けていない問題を、必死になって身につける必要なんてないのです。 実際に、大勢の子は、自分の実力以上の勉強を強いられ、遅かれ早かれしんどい思いをしています。

そこに拍車をかけるように、
「どうしてこんな問題が解けないの?」
「こんな成績ではどこにも合格できないわよ」
と親御さんの圧力が加わる。
まさに、がんじがらめの状態です。

このような状況で、勉強をしたって楽しいわけがありません。
小学生の子どもは、基本的にいまが大事。将来のために頑張ろう、なんて発想にはまだならない。楽しくないことはやりたくないし、頑張る気持ちにもなれません。 そして、勉強ってつらいな、イヤだなという気持ちだけが蓄積されていくのです。

最悪の場合、「わが子のために」と思って言った親御さんのひとこと、ひとことに傷つき、自分に自信が持てなくなってしまうことさえあります。
「わが子のために」と選択した中学受験で、そのような事態になってしまっては本末転倒です。

「難関校を目指すなら、難しい問題が解けるようにならなければならない」という強烈な思い込みから離れること。これが、お子さんと親御さんの負担を減らすための第一歩です。

高梨裕介

医学部予備校エースアカデミー塾長、書籍「医学部受験バイブル」、エースアカデミーこども支援部

医師、中学受験経験(灘、東大寺、洛南、洛星中学に合格)。

自身の医学部受験の反省を活かし、450名以上の医学部合格者を指導。医学部合格のためのよりよい指導をより安く提供することを理念としてエースアカデミーを設立。

灘中学に合格した医学部専門予備校塾長が教える真実 合格したいなら「中学受験の常識」を捨てよ

灘中学に合格した医学部専門予備校塾長が教える真実 合格したいなら「中学受験の常識」を捨てよ』(高梨裕介 著/日本能率協会マネジメントセンター)

今までの「中学受験の常識」が合格を遠ざけている?!

高偏差値の大学に進学するには幼い頃から中高一貫校に入り、常に難問に挑み続けなければならないと思い込んでいる人が多くいます。
競争を煽る塾、甘やかしは悪とする親、管理至上主義……これらはすべて子どもの生きる力を奪います。
そんな負のスパイラルを断ち切るには、180度の意識改革が必要です。

実際、著者は毎年100 名以上の医学部合格者を輩出する医学部受験の専門予備校「エースアカデミー」を運営していますが、多くの受験生と面談すると、「しんどい」と深刻に悩んでいる相談のうち 6〜7割が親子関係の悩みだということがわかりました。
そこで子どもたちを悩ませる「親」の対応を改善するためには、間違った思い込みを正し、親が実施すべきサポートを体系化して伝える必要があるのでは、と感じるようになりました。

情報過多の現代社会においては、自分の子どもにあった学習方法よりも、世間一般によしとされている学習方法を盲信し、それが唯一の正解だと思い込んでいる親が多いのが現状です。
間違った学習方法や子どもへのかかわり方では、子どもの学力が向上しないばかりか、親からのプレッシャーで長年苦しむ子どもが増えるばかり。

本書では、受験生の親がすべきこと、すべきでないことを確認し、親が強いるのではなく、子ども自らが勉強に取り組むようになる行動変容を促すことで、受験を通して子どもたちが「自分軸」で生きていくベースを築き、かつ確かな学力向上につながる親の考え方と姿勢を提示します。