「どうして自分だけ字が書けないの?」 見過ごされがちな“限局性学習症”の子どもたち
知的な遅れがあるようには見えないのに、なぜか字が書けない・読めない、計算ができない…そんな特徴を持つ子どもたちがいます。
本人の努力不足と誤解されがちなSLD(限局性学習症)の基礎知識と、周りの大人ができるサポートについて、精神科医さわ先生の著書よりご紹介します。
※本稿は、精神科医さわ著『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)より一部抜粋、編集したものです。
見すごされることも多いSLD
知的な遅れがなく、年齢相応の理解力はあるのに、文字の読み書きや計算が極端に苦手というのがSLD(限局性学習症)です。
ものごとを理解する力や考える力、話す力、記憶力などは年相応にあるけれども、それらに比べて、字を書く能力や読む能力、計算する能力などが明らかに年相応ではないとき、SLDと診断されることがあります。
SLDのなかにもさまざまな特性があって、文字は読めるけれども、書くことはできない書字障害の子や、計算や数の概念の理解が難しい算数障害の子もいます。
読字障害が最も多いと言われており、読字障害と書字障害が重なっているケースも多いです。わが家の次女のように、読字障害・書字障害・算数障害の3つすべてそろうケースもあります。
SLDの場合、ふだん生活しているぶんにはきちんと話ができていますし、みんなと同じように行動もできるので、まわりが気づきにくいという問題があります。
たとえば、小学校入学時にまわりの友だちや先生と問題なく会話ができていて、意思の疎通もできていれば、平仮名や片仮名が読めなくても問題視されることはあまりないかもしれません。
入学後も、文字の読み書きや計算以外のことはできる子も多いので、単に「漢字を書くのが苦手なんだね」とか「字を覚える努力が足りない」などと思われがちです。
そのため、周囲の人が障害ということに気づくのが遅くなる傾向があるのです。
黒板の文字をノートに写すのは、その子にとっては難しい作業
学習障害があっても、相当の努力をすれば一定の成果が得られる場合もあるので、親御
さんも、子どもが学習障害なのかどうか迷うことも多いです。
ただし、その努力は、学習障害を持たないお子さんに比べて、はるかに大きな負担や苦
痛をともないます。
学習障害ではない人からすれば「文字を見て書き写すだけ」「漢字をなぞるだけ」というのは簡単に思えますが、なかには、そもそも線をなぞることが難しい子もいるのです。これは、私たちがふだん当然のように行っている動作が、その子には複雑で負担の大きいものに感じられるからです。文字がゆがんでボヤけて見える子もいると言われています。
たとえば、黒板に書かれた文字をノートに写す作業を考えてみます。私たちが板書をする際には、じつはさまざまな動作を無意識に行っています。
まず、黒板の文字を目で見て覚えます。その後、首や目を下に向けて、ノートに文字を書き写します。この「覚える」「下を向く」「書く」という動作をほぼ同時に行うことをとても難しく感じる子がいるのですね。
さらに、図形を模写することや、立方体の模写をするのはとくに難しいと感じる子もい
ます。
こうした特性を持つ子の場合、黒板を見てノートに書き写すよりも、あらかじめプリントされた紙をノートの隣に置いて、それを見ながら書くほうが負担が少なかったりするのです。プリントを使うことで視線の移動が少なくなり、記憶と書き写しの負担が軽くなります。
まわりの人ができて当然と思うことでも、その子にとっては大きなハードルになってい
ることがある。
じつは、こうした障害があるのに、まわりの大人が「サボっている」とか「努力が足り
ない」と判断してしまうことも少なくありません。
会話の受け答えにはまったく問題がないのに、文字の読み書きが極端に苦手な場合は学習障害の可能性がありますから、「この子はがんばればできるはず」「努力が足りない」などと決めつけずに、気になる場合には、やはり専門家に相談することをおすすめします。
なお、SLDの診断をする際には知的障害がないことが前提条件になるので、知能検査
が必須になります。
この検査ができる病院はかぎられていますが、病院でなくても地域によっては学校でスクールカウンセラーが行ってくれるところもありますし、各自治体の教育センターなどで検査ができる場合もあります。
「もしかしたら、うちの子、学習障害かもしれない」と思ったら、ひとまず担任の先生やスクールカウンセラーの先生に相談してみてください。
精神科医さわ著『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)
ロングセラー『子どもが本当に思っていること』著者で、YouTubeチャンネル登録者数10万人の人気の児童精神科医さわによる、発達に特性のある「発達ユニークな子」が感じている困りごとがわかる本