「子持ち様」と言う人に知ってほしい”子育て当事者の本音” こども家庭庁の調査から見えた意外な実態とは?

吉澤恵理
2025.11.19 12:31 2025.11.19 12:00

こども家庭庁(こども家庭庁ホームページ「こどもまんなかアクションの紹介」より)

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「子持ち様」――SNSでしばしば見かけるこの言葉。公共の場での子連れへの配慮を求める声に対し、「特別扱いを要求している」という批判的な意味で使われます。でも、子育て当事者が本当に求めているのは「優遇」なのでしょうか?こども家庭庁が行った調査から見えてきたのは、意外な実態でした。今回、こども家庭庁の安藤温子広報推進官に、「こどもまんなかアクション」の取り組みと、子育て当事者の本音について伺いました。(文・吉澤恵理)

「優遇ではなく理解を」子育て当事者が求めた本当のサポート

こども家庭庁

 

(こども家庭庁ホームページ「こどもまんなかマーク」より)

――まず、「こどもまんなかアクション」とはどんな取り組みなのでしょうか?

安藤温子さん(以下、安藤さん):こどもまんなかアクションとは、こどもや子育て中の方々が気兼ねなく様々な制度やサービスを利用できるよう、地域社会、企業など様々な場で、年齢・性別を問わず、全ての人がこどもや子育て中の方々を応援する、社会全体の意識改革を後押しする取組です。

こども家庭庁が発足してすぐの2023年6月~7月にかけて、子育て当事者の方々を対象に調査を行いました。公共の場でどんなことに困ったか、何をサポートしてほしいと思ったかを伺ったんです。

すると意外な結果が見えてきました。

「特別な支援をしてほしいのではなく、理解やちょっとした配慮がほしい」

・席を譲ってほしい
・順番を優先してほしい

といった優遇ではなく、

・ベビーカーで困っているときに声をかけてもらえる
・泣いてしまっても「大丈夫だよ」と言ってもらえる

といった 「気遣いや理解」 に対するニーズが多数あがっていたのです。

調査では、公共交通機関に限らず、職場や日常のちょっとした場面で理解がほしいという声が非常に多く寄せられました。

こうした現状から、私たちは、社会全体のまなざしを変えることを目的にしています。

難しい言葉で言うと「気運醸成」や「意識改革」ですが、もっとシンプルに言えば、
「こども・若者や子育てをしている人を応援する人を増やしたい」
その思いから、「こどもまんなかアクション」をスタートさせました。

「こどもがまんなか」は特別扱いではない。大人同士がつながる社会へ

――SNSでは、「こどもがまんなか」という言葉に不公平感を感じる人もいるようですが…

安藤さん:こどもだけを特別扱いするという意味ではありません。
こどもを介して、大人同士がつながり、対話し、一緒に活動する。
その考えかた全体を指しています。

こどもは一人で大人になるわけではありません。私たち全員にこども時代があり、その時期に周囲の大人や社会と関わってきたからこそ、今の自分があるのだと思います。
大人がこどもを囲むのではなく、こどもをきっかけに、大人とこどもがつながっていく。

その循環が生まれる社会は、結果的にこどもにも大人にも居心地がよく、活力のある社会になると考えています。

各地で広がる「リレーシンポジウム」

こども家庭庁(こども家庭庁ホームページ「こどもまんなかアクション」リレーシンポジウム紹介より)

――全国で開催されている「リレーシンポジウム」について教えてください。

安藤さん:全国でリレー形式のシンポジウムを開催しており、自治体・企業・NPO・個人が一緒になって「こどもをまんなかにした社会づくり」を考えています。2024年度は全国18自治体で開催されました。「鳥取県ではこどもミーティング成果発表+スポーツ選手トーク」「富山県では縁日形式でこども参加型ワークショップ」など、各地で特色あるテーマで取り組みが進んでいます。

赤ちゃんが泣いても誰も不満を言わなかった会場

――印象に残るシンポジウムはありますか?

安藤さん:各地のシンポジウムは、自治体ごとにテーマも雰囲気も異なるため「どれが一番」と選ぶのは難しいですが、個人的に強く印象に残る場面があります。

新潟の会場で、赤ちゃんが大きな声で泣いた時のことです。参加者の中には様々な世代の方がいましたが、誰一人として不満を口にせず、そのままシンポジウムが続きました。

赤ちゃんが泣いても会場全体がそれを受け入れた場面。
「泣いていい」「居ていい」という空気が、社会のまなざしを象徴していました。

「#こどもまんなかやってみた」誰でも参加できる簡単なアクション

――誰でも参加できるそうですが、具体的にはどんな行動をすれば”参加”になるのでしょう?

安藤さん:とても簡単です。SNSに 「#こどもまんなかやってみた」 をつけ、日常の取り組みを投稿するだけで参加できます。

国が「こうしてください」と指示するものではありません。基準を設けることで、参加したい気持ちがあっても、ハードルとなってしまう可能性があるためです。

こども食堂、オンライン学習支援、生活の中で声をきくこと……どんな小さなことでも構いません。大事なのは行動する主体がみなさん自身である ということです。

経済支援だけでは足りない。社会とのつながりが必要

――経済的支援とともに、人的な支援や居場所づくりも必要ということですね?

安藤さん:もちろん経済支援は大切です。ただそれだけでは十分ではありません。若い世代が前向きになれる支援策、自治体を通じたサポート、そして 社会とのつながりを作るしくみづくりが重要だと考えています。

「こどもまんなかアクション」を通じて、全国の応援サポーターの方々と情報交換することも大切にしています。また、サポーターのみなさんとは居場所づくりの輪を広げる活動などでも連携しています。

ありがたいことに、こども食堂や大学生などユース世代が主体の学習支援やこどもの相談に寄り添うオンラインコミュニティなども増えてきました。

その一方で、まだ支援とつながれていない人がたくさんいることもわかっています。だからこそ、見える化して輪を広げていくことが重要だと考え、LINEやXなどのSNSも使い、つながりをつくる取り組みを進めています。

トップが変わっても揺らがない理念

――今回の取材は大臣交代直後でした。方針は変わりますか?

安藤さん:こども家庭庁の政策は「こども基本法」「こども大綱」を基に進められています。こどもまんなかという理念は誰がトップでも揺らぐものではありません。

こども家庭庁は、こどもや子育て当事者が少しでも前向きになれる社会づくりを目指しています。

ぜひ、「こどもまんなかアクション」「#こどもまんなかやってみた」に関心を持っていただき、みなさまができる形で参加していただけたら嬉しいです。

吉澤恵理

吉澤恵理

1969年生まれ、1992年東北薬科大学卒業。薬剤師として長年医療に携わった経験から医療領域、また教育領域を得意とするジャーナリスト。メディアでの執筆、連載やTV出演など多数。プライベートでは、結婚、妊娠、出産、離婚、介護と様々な経験を経て、現在4人の子を育てるシングルマザー。