ストイックに「並べる」自閉症児 職人級のこだわりに父の反応は?【うちのアサトくん第9話】

「並べること」に対して、いつも真剣なアサトくん。職人のような並々ならぬこだわりに、黒史郎夫婦も巻き込まれ……。
小説家・黒史郎さんが、自閉症の息子・アサトくんとの日常を描いたショートショート、「うちのアサトくん」をお届けします。
※本稿は『PHPのびのび子育て』2020年2月号から一部抜粋・編集したものです。
※画像はイメージです。
描くしかない!
クイッと袖を引っぱられる。
何かを訴えたげな目のアサトが、そばに立っている。
「パパは仕事中なんだけどな」
執筆の手を止め、手を引かれるままアサトについていくと、連れてこられたのは、いつもアサトが動画を見ているノートパソコンの前だった。
――まさか。
おずおずと画面をのぞき込んだ僕は、ぶんぶんと首を横に振ってあとずさる。
「いやだ……。たのむ、勘弁してくれ」
僕が何に恐れ慄いているのか。
それを明かすには、アサトの“日課“について語らねばならない。
うちにはたくさんの人形がある。しまじろう、アンパンマン、ポケモンのカメックス。買ったもの、もらったもの、気がつくとうちにあったもの。この中の一番の古株は、アサトが生まれる前からわが家にいた、河童の「カパエル」と子河童の「カパみち」だ。
人形たちは1日1回、アサトによって召集をかけられる。河童たちをセンターに、ベッドのすみには、ぬいぐるみ軍団がズラリと並ぶ。
そんな彼らをアサトは1つひとつ手に取り、置いてみて、また手に取って、考えながら並べ直していく。
終えるといったん離れてジイッと見つめ、近づいてジイッと見つめると、また離れてジイッと見つめる。配置が気に入らないと納得いくまで何度でも並べ直し、入れ替える。センターが河童なのは変わらない。
アサトの“日課“。それは並べること。
数がたくさんあるものを1カ所に集め、とにかくきれいに並べたいらしい。
しかも、わずかのズレも許さない。遊びじゃないから表情も真剣だ。
並べるものは日によって違う。『アンパンマン』の指人形なら数十体で済むが、『妖怪ウォッチ』の「妖怪メダル」なんて何百枚もあるので、足の踏み場もないほど床が埋め尽くされる。
描く絵も、とてもにぎやかだ。カパエルにカパみち、ドクター・ヒヤリ、カービィなど、アサトのお気に入りのキャラクターがお絵描き帳の中で一堂に会する。
見ている動画もキャラクターがたくさん集まるものが多い。いちばん夢中になっているのが『うる星やつら』のエンディング。問題は、歌のラストでキャラクターが大集合し、にぎやかに終わるワンカット。
このシーンを絵にしたいアサトは何度も挑戦した。でも、うまくは描けない。
だから、僕や妻に描いてくれと言ってくる。
何十人ものキャラを描くことは大人でも容易ではないし、時間もかかる。それでも妻と僕は何時間もかけて、なんとか描きあげた。
ところが、何が気に入らなかったのか、僕の描いた絵は即座に塗りつぶされ、描き直せと新しい紙を渡される。妻の絵にいたってはハサミで細かく切り刻まれた。
ことさら絵に厳しいアサトは、少しでも違和感を覚えると躊躇なくボツにし、目の前で処分する。数時間の苦労が一瞬で水の泡。
当然、こうなる。
「もういやだ……。勘弁してくれぇぇ」
逃れようとする僕の袖をクイッと引っぱり、ボールペンをさしだす。
まっすぐな瞳で僕を見上げ、
「かいて」
拒むことを許されない迫力に、思わずペンを受け取ってしまう。
……描くしかない。
塗りつぶされるか、破られるか。
そのいずれかの運命をたどる。そうわかっていても――。





























