自閉症息子の「雑すぎる」トイレ事情とは?1回でトイレットペーパー3分の1消費も【うちのアサトくん第12話】

黒史郎
2025.12.02 12:02 2025.12.11 20:00

絵を描く子ども

お絵描きをしていたアサトくんがいきなりトイレに! このまま放っておくとトイレットペーパーが大量に消費されてしまう! がんばれ、黒史郎夫婦!

小説家・黒史郎さんが、自閉症の息子・アサトくんとの日常を描いたショートショート、「うちのアサトくん」をお届けします。


※本稿は『PHPのびのび子育て』2020年5月号から一部抜粋・編集したものです。
※画像はイメージです。

ピョコッ、ズバッ、プリンッ

熱心に絵を描いていたアサトが、天啓に打たれたかのようにガバッと顔を上げる。

「おしっこ!」

ピョコッと跳ねるように立ったかと思うと、ズバッと勢いよくズボンとパンツを同時に下ろす。プリンッとお尻が出る。

「こらっ、まだ脱いじゃダメ!」

引きとめる僕の手を振り切り、お尻が出たままトイレへ直行。

「行ったぞ!」

僕と妻は視線を合わせ、どちらがアサトに同行するかを瞬時に決める。

わずかに僕のほうがトイレに近い。執筆の手を止めて椅子から立ち上がる。

この時点でもう、数秒のロスが発生している。

カラカラカラッ。

トイレの中からトイレットペーパーを巻き取る音がする。

しまった! 今日はいつもより早いぞ。

すぐにトイレへ飛び込むが、時すでに遅し。アサトは大量のペーパーをボール状になるまで右手に巻きつけていた。さっき交換したばかりのロールが3分の2ほどに痩せている。

ペーパーの塊で軽くチョチョッと拭いて、ポイッ。

ピョコッと便座から立つと、そのピョコッとついでにズボンとパンツを勢いよく上げ、僕を押しのけてトイレから飛び出る。

残された僕は、そっと「残されたもの」を流す。

アサトのトイレは、豪快かつスピーディー。

ひと言でいうと、雑。

まず、トイレモードになるのが突然すぎて困る。どうやら、何かに夢中になっているとおしっこやうんちの接近に気づかないらしく、「おしっこ!」と叫んだときはすでに出口付近まで迫っている限界状態。だから焦って、ピョコッ、ズバッ、プリンッと、ところかまわずズボンを下ろし、慌ててトイレへ駆け込むハメになる。

そして、大量にペーパーを使って、ほんのちょっと拭く。このペーパーの使い方も問題だ。彼は3回のトイレで1ロールを消費する。しかも、ほぼ使わずに捨ててしまう。

スッキリすると、さっきまで夢中になっていたことに一刻も早く戻りたいアサトは、流すのも手を洗うのも煩わしいので、すべてカット。

トイレ

──と、ここまでコミカルに書いてみたが、実はかなり深刻な問題だ。

発達障害のある子はオムツのとれる時期が遅い。

おしっこがしたい。うんちをしたい。そう大人に伝えることが難しいからだ。

オムツの中にうんちをしても、それが不快だと感じない子もいる。親が気づかなければ、ずっとオムツにうんちを入れたまま。お尻が真っ赤にかぶれてしまう。

アサトはもうオムツではないけれど、それでも取れるまでには時間がかかった。

だからトイレは、まだまだ経験不足。

排泄は誰もが毎日、向き合わなくてはならない、当たり前で大切な行為。

「1人」でできなくては、大きくなってから困る。

外でプリンとお尻を出されたら一大事だ。

今はまだ僕らがサポートできるけど、1人でしなければならない日は、いずれ必ずやってくる。

トイレをもっと教えなくちゃ。

アサトの「1人でできる」を増やすために。

何十年と遠い先のことだけど、僕と妻がいなくなった後、なんでも「1人でできる」ようになっていてほしいから。

だから一緒にがんばろう、アサト。

「うんち!」

ピョコッ、ズバッ、プリンッ。

……プリンッだけでも、早めになんとかしような。

黒史郎

横浜市在住。重度の自閉症(A2)と診断された息子さん、奥様とともに暮らす。著書に、『幽霊詐欺師ミチヲ』(KADOKAWA)など多数。