まさかうちの子が加害者に・・・増える子どもたちの暴力トラブル 親世代が知っておきたい背景は?

子ども同士のトラブルは昔からあるものですが、今はその質も量も変わりつつあります。文部科学省の調査では、2023年度の校内暴力は過去最多の10万件超。いじめや不登校も増加し、保護者は「なぜわが子が?」という悩みに向き合わざるを得ない状況です。
トラブルが増え続ける学校現場の現状について、ノンフィクション作家・石井光太さんの著書『傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害』より抜粋してご紹介します。
※本稿は、石井光太著『傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害』(CEメディアハウス)より一部抜粋、編集したものです。
子どもたち同士のトラブルが増えている?

天気のいい昼下がり、あなたは会社での業務を片付け、ほっと一息つこうと休憩室に入った。スマートフォンに目を落としたところ、複数の着信履歴が表示されていた。発信元は、子どもが通っている小学校だ。
脳裏にはいくつかの不安がよぎる。子どもが熱を出したのだろうか、それとも体育の授業で怪我でもしたのだろうか……。あなたは少し不安になりながら、電話をかけ直してみる。しばらくして出てきた担任の先生は、次のように言った。
「おたくのお子さんが、クラスメイトに手を上げて怪我をさせてしまいました。今、クラスメイトは養護の先生に連れられて病院へ行っていて、お子さんは校長室にいます。お忙しいところ恐れ入りますが、お話ししたいことがありますので、今から小学校へお越しいただけないでしょうか」
なぜうちの子はクラスメイトを傷つけたのか。相手の子は無事なのだろうか。様々な疑問が渦巻くが、先生は学校で直接説明するとの一点張りだ。
あなたは仕方なく電話を切り、上司に事情を説明し、荷物をまとめる。背中に同僚たちの冷たい視線を感じるが、気づかないふりをして小走りに去る。
会社を出ると、凍てつく風が吹きつけてくる。駅へ向かって歩いていくうちに、あなたはどんどん憂鬱になってくる。思い出されるのは、保育園の頃から子どもがたびたび似たようなトラブルを起こし、呼び出されたことだ。
ある時は同級生を突き飛ばし、ある時は友達が大切にしているゲーム機を壁に投げつけ、ある時はF給食をひっくり返した。そのつど、先生から呼び出されて懇々と注意を受け、被害に遭った同級生や保護者に平謝りした。
あなたの頭には、これまで他の親から投げかけられた刺々しい言葉が浮かぶ。
―あの子は生まれつき乱暴な性格らしい。
―ちょっとした障害があるんじゃないかな。
―親の真似して暴力を振るっているんじゃない?
自分なりに子どもとはきちんと向き合ってきたつもりだし、ことあるごとに人と仲良くすることの大切さを言い聞かせてきたつもりだ。それでもこうしたことがつづくなら、これ以上親として何をすればいいのだろうか。
そうしたことを自問自答しているうちに、いつしかあなたは自分が「ダメ親」のレッテルを貼られたような惨めな気持ちになり、目から大粒の涙があふれてくる―。

学校では日々、子どもたち同士のトラブルが大小問わず起きています。そしてその数だけ、加害児の保護者も巻き込まれ、わが子への対応に頭を悩ませている現実があります。
現在の日本の小中高校で、子どもたちによる暴力行為が右肩上がりに増加しているのをご存じでしょうか。
文部科学省の発表によれば、2023年度に校内で起きた暴力行為の発生件数は10万8987件。前年度と比べると14・2%の増加です。コロナ禍で学校が休みになったことで、一時的に発生件数が減った時期がありましたが、実質的に小学生の暴力行為は10年以上増えつづけていると捉えていい状況です。
これは校内暴力に限ったことではありません。いじめの認知件数、不登校の件数、児童ポルノ事犯の件数なども20年くらい前と比較すると軒並み増えて過去最高を記録しています。
公立や私立、あるいは地域にかかわらず、この傾向は見られます。その点で、現在の子どもたちは過去に類を見ないほど困難な事態にさらされていると言えるでしょう。
学校内でこうした問題が起きた場合、先生たちの取る対応は決められています。
まず先生たちは優先的に被害児を保護し、国や自治体が作成した対応フローチャートに従って状況の改善を試みます。養護の先生、スクールカウンセラー、医師などが出てきて専門性を活かしたケアを試みることもあります。場合によっては、民間の支援機関の手を借りることも出てくるでしょう。
一方で、加害児とその保護者に対する取り組みは、長らく放置されてきました。
加害をする子どもは、友人関係、家庭環境、クラスや習い事での立ち位置、メンタルなど問題を抱えていることが少なくありません。彼らは生まれつき粗暴なわけではなく、何かしらの特別な理由があるからこそ、間違った行為や思考をし、傍にいる人を傷つけてしまっているのです。
しかし、学校側がその何かに目を留め、ケアをすることは決して多くありません。先生は、その子の内面や環境を分析して因果関係を明らかにするのではなく、加害児の行為についてのみ注意し、うわべでの反省を促すだけです。
なぜか。彼らには子どもたちのプライベートの深いところに立ち入る権限や余裕がないからです。それゆえ、保護者に対しても、「二度と同じことをしないように、家庭できちんと話し合ってください」と苦言を呈するのが関の山なのです。
このような指導を受ければ、保護者は方々に頭を下げて、自宅に子どもを連れ帰りますが、トラブルが起きた真の要因を把握しているわけではありません。子どもに対して注意するにしても、何をどうしていいのかわからない。結局のところ、こんなふうに反省を促すのが精一杯です。
「あんなことしちゃダメでしょ! もう絶対にやらないと約束しなさい!」
子どもは神妙な顔つきで、「ごめんなさい」と頭を下げますが、こちらも形だけの謝罪で、根本的な問題はまったく変わっていません。そのため、何日かすれば、また性懲りもなく同じようなトラブルを起こすのです。
現在のように子ども同士のいざこざが増えれば、そのぶんだけわが子の素行に悩まされる保護者の数も多くなります。年間で10万件の校内暴力があれば、背後にはそれと同じ数、いやその倍の数の保護者が存在します。

私はノンフィクション作家として、これまで学校での暴力、いじめ、自殺、障害、不登校、それに少年事件まで多くのことをテーマに数多の本を出してきました。そうした経歴もあって、よく教育機関から保護者向けの講演会の講師に招かれますが、終了後に控室にやってくる保護者から毎回決まって投げかけられる同じ質問があります。次のような内容です。
「どうして子どもがトラブルばかり起こすのかわかりません。何度話し合ってもうまくいきません。私はどうすればいいのでしょうか」
親世代の人々が小さかった頃、子どもたちの問題にはわかりやすい因果関係がありました。
「昨日公園で遊んでいる時に〇〇君と取っ組み合いになったから、学校で会った時も無視した」「先生に暴力を振るわれるから、学校へは行きたくない」……。
子どもたちの問題行動にははっきりとした理由があり、それによって同級生と衝突したり、不登校になったりしました。逆に言えば、介入する大人はその理由を探し出して解決すればよかった。
今は違います。保護者が子どもに理由を問いただしても、納得できる答えが返ってくることは稀です。「うざいから」「圧(圧力)がすごい」「だるい」といった漠とした回答に終始する。何がうざいのか、何が圧なのか、何がだるいのかの説明がないし、本人もまた説明できないのです。また、保護者が熱心に諭しても、子どもが無反応で、理解しているのかどうかわからないといったこともあります。
どうして、保護者と子の間にこうしたズレが生じているのでしょう。一言で表せば、保護者が子どもの内面の問題を把握しにくい時代になっているのです。
本書の読者の大半は親世代の方々だと思いますが、みなさんが子どもだった20〜40年前と今を比べて、子どもたちを取り巻く世界がどれほど変わったか想像してみてください。
今の子どもたちの身の周りにあるもの―「スマホ」「インスタ」「AI」「eスポーツ」「ChatGPT」「Vチューバー」「投げ銭」などは、みなさんが子どもだった時代には耳にしなかった言葉でしょう。つまり、それだけ今の子どもたちの成育環境は、保護者のそれと大きく変わっているのです。
保護者が子どものことを理解するには、まずこのギャップを埋めなければなりません。
たとえば、今学校で起きている校内暴力やいじめは、親世代の人たちが知っているそれとはまったく異なります。どう異なっているのかを知らなければ、どうして子どもがそうした行為をしてしまうのか、親としてどう対応すればいいのか、わかるわけがないのです。
事態を解決するには、次の三つのプロセスが重要になります。
1、大人が子どもの周りで起きているリアルを知る。
2、子どもがトラブルを起こすメカニズムを把握する。
3、トラブルを起こす子どもに必要な対応を取る。
まず大人であるみなさんには、今の子どもたちを取り巻く新しい状況を知ってもらい、認識を更新してもらいます。次に、トラブル別に、子どもたちが問題を起こすプロセスを理解してもらいます。この二つをきちんと押さえれば、保護者として子どもにどう働きかければいいのかが明らかになるでしょう。
子どもは自分の感情や置かれている状況を、きちんと言葉で細かく把握し、何をすべきかを考え、表現することが苦手です。特に今はそれをするのが難しい時代でもあります。
そのような子どもに必要なのは、真の理解者としての大人の存在です。子どもたちがトラブルを起こすプロセスを的確に把握し、欠けているものをきちんと補い、正しい方向へ導くことができれば、大概のことはうまく収まるのです。
今まさにトラブルを起こしている子どもへの対応だけでなく、これから困難を背負うかもしれない子どもとの向き合い方を考える上でも、それを知っておくことは重要です。
誰もが他人を傷つける子どもの親にならないために、必要な情報を具体的かつ的確に示す。
このことを念頭に置いて、学校で起きているトラブルを類別しながら、今の子どもたちの身に起きているリアルについて考えていきましょう。
石井光太著『傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害』(CEメディアハウス)
「よりによって、どうして、うちの子が——」
それは、いまや誰にでも起こり得る現実です。
いじめ、性の問題行動、SNSでの誹謗中傷、暴力、自傷。今や子どもは、加害者にも被害者にもなり得る時代。
しかも、その「きっかけ」や「背景」は、大人が思う以上に複雑かつ見えにくくなっています。
本書は、『誰が国語力を殺すのか』『教育虐待』などで知られるノンフィクション作家・石井光太が、現代の学校・家庭に潜む“見えない地雷”を多角的に描いた渾身の書き下ろし。
子どもを取り巻くトラブルのメカニズムを、いじめ・性・暴力・自傷・スマホ・家庭環境といった切り口から徹底解説し、「なぜ加害が起きるのか」「どう被害が拡大するのか」を親目線で丁寧に紐解きます。
我が子がトラブルに巻き込まれた時、そして我が子がトラブルの発端となってしまった時、親や周りの大人はどうするべきなのか。
そうしたトラブルに無縁の子どもをいかにして育てるのか、といった実践的な問いにも答え、子どもに関わるすべての大人に必要な心構えを探ります。





























