4人の子をひとりで育てたシンママが、サンタさんの存在を否定しなかった理由

吉澤恵理
2025.12.26 10:59 2025.12.26 11:00

クリスマスツリーの前でプレゼントを抱えた男の子

シングルマザーとして4人の子育てに奮闘した吉澤恵理さん。子どもたちは現在、医学部、海外留学、起業など、それぞれが生き生きと活躍しています。

そんな吉澤さんが子育ての中で大切にしていたことのひとつが、「クリスマス」との向き合い方でした。「サンタさんって本当にいるの?」子どもからの質問に、あえて答えを急がず、「信じる気持ち」や「想像する力」を守ろうとした日々。クリスマスを待つ時間が、子どもたちに何を育んだのか、ここに記していただきました。(文・吉澤恵理)※写真はすべてイメージです

12月になると始まった、サンタさんへの手紙

男の子の後ろ姿

子どもたちが幼稚園に入る少し前の頃から、12月が近づくと自然と始まったのが、「サンタさんへ手紙を書く」という習慣でした。

きっかけは、ある年、子どもたちに

「サンタさんにプレゼントって、どうやったら伝えられるの?」

と聞かれたことでした。

わが家では、「お手紙を書いてポストに入れておけば、サンタさんに届くよ」と伝えることにしました。

するとその年から、サンタさんへの手紙は、わが家の毎年恒例の行事になっていったのです。

まだ字が書けない頃は、欲しいおもちゃの絵を一生懸命描いてポストへ。

少し大きくなると、兄弟で相談しながら、真剣な顔で手紙を書くようになりました。

クリスマスを待つ時間が、心を育てていた

クリスマスが近づくと、街は少しずつ華やぎ、子どもたちの表情も明るくなっていきました。

「もうすぐサンタさんが来るかもしれない」

そんな期待に胸を膨らませ、指折り数えてその日を待つ。

「サンタさんが来るから、今日は早く寝よう」

「いい子にしていよう」

誰かに言われたからではなく、自分で考え、行動しようとする気持ちが、自然と芽生えていく。

クリスマスは、プレゼントをもらう日であると同時に、待つこと、信じること、楽しみのために努力することを学ぶ時間でもあったのだと、今になって思います。

クリスマスの夜の、わが家の小さな仕掛

クリスマスパーティーをする親子

クリスマス当日。

子どもたちがケーキを食べたり、遊びに夢中になっているすきに、私はそっと玄関にプレゼントを並べ、インターホンを鳴らしました。

「ほら、インターホン鳴ったよ。もしかして……サンタさんじゃない?」

そう声をかけると、子どもたちは目を輝かせて玄関へ走っていきます。

扉を開けると、そこに並ぶプレゼント。

「えっ!」「来た!」「サンタさんだ!」

庭に飛び出して、「もういない……」と少し残念そうにしながらも、

「サンタさん、ありがとうー!」

と夜空に向かって叫ぶ姿。

あの光景は、今でも私の心にあたたかく残っています。

「どうして煙突から来ないの?」と聞かれて

ある年、こんな質問もありました。

「ねえ、どうしてサンタさん、煙突から来ないの?」

確かに絵本では煙突から入ってきます。でも、わが家には煙突がありません。

「このおうちには煙突がないでしょ。だから玄関に置いてくれたんだよ。サンタさん、次のおうちにも行かなきゃいけないから忙しいんだね」

子どもたちは「そっかぁ」と、素直にうなずいていました。

成長とともに、サンタさんの話は変わっていった

階段を上がる小学生の男の子

引っ越しをし、子どもたちが小学生高学年になる頃には、この習慣も自然と終わっていました。

いつ、どうやって「気づいた」のかは、はっきりとは分かりません。

ただ、不思議と誰も「サンタさんはいない」と、はっきり口に出すことはありませんでした。

それでも、あの頃のクリスマスは、子どもたちの中に「楽しかった」「待つ時間も含めて大切だった」という記憶として、今も残っているように感じます。

兄弟のあいだで起きていた、小さな論争

「サンタさんは本当はいないんだよ。パパとママなんだよ」と言う兄。

それに対して、「本当はいるもん!」と譲らない末っ子。

4人兄弟のわが家では、長男と末っ子のあいだに6才の年齢差があり、見えている世界も、信じているものも違っていました。

私は、そんなやりとりにあえて介入しませんでした。ですが、

「サンタさんは、ママだったの?」

と聞かれても

「違うよ」

と答えていました。

兄弟同士の会話や、学校での友だちとのやりとりの中で、子どもたちは少しずつ、自分なりの答えを見つけていったのだと思います。

あえて、答えを出さない

考える小学生

子どもに聞かれたら、正確に答えることも大切です。でも、時には、子どもの「信じたい気持ち」や「想像する力」を守るために、あえて答えを急がないという選択があってもいい。

白か黒か、正解か不正解か。

大人になるにつれて、私たちは多くのことに答えを求めます。けれど、子ども時代には、「もしかしたら」という余白が、心を豊かにしてくれることもあるのではないかと感じています。

クリスマスを迎えるたびに、わが家ではプレゼントだけでなく、

誰かを想って手紙を書く時間、

待つ楽しさ、

信じる気持ち、

そして、自分だけでなく、ほかにもプレゼントを待っている子どもがいるという他者を思いやる気持ちが、少しずつ育まれていったように感じます。

それらを運んできてくれた存在として、

サンタさんは、わが家には確かにいたのだと、私は思っています。

吉澤恵理

吉澤恵理

1969年生まれ、1992年東北薬科大学卒業。薬剤師として長年医療に携わった経験から医療領域、また教育領域を得意とするジャーナリスト。メディアでの執筆、連載やTV出演など多数。プライベートでは、結婚、妊娠、出産、離婚、介護と様々な経験を経て、現在4人の子を育てるシングルマザー。