小学生から「野球一筋」はNG? 元高校野球監督がたどりついた答え

上原伸一 (著), 松井克典 (監修)
2026.02.20 13:54 2026.02.20 11:50

野球のユニフォームを着た低学年の男の子

子どもが「野球をやりたい」と言い出したとき、親はどう向き合えばいいのでしょうか。
早くからチームに入れるべきか、ほかのスポーツも経験させるべきか……家庭ごとに考え方はさまざまです。

20年間高校野球の監督を務め、現在は一般社団法人野球まなびラボの理事・メンタルコーチとして活動する諸星邦生さんは、子どもと野球の関わり方についてどう考えているのでしょうか。

スポーツライターの上原伸一さんによるインタビューを、書籍『子どもが野球を始めたら読む本』より抜粋してお届けします。

※本稿は上原伸一 (著), 松井克典 (監修)『子どもが野球を始めたら読む本』(ベースボール・マガジン社)より一部抜粋、編集したものです。

早くから野球漬けになってほしくない

野球をする子ども

上原:まずは高校野球の監督から現在のお仕事に転じた経緯を教えてください。

諸星:高校野球の監督は20年間やらせていただきました。実は体育教諭として赴任した高校には野球部がなく、学校の協力で作らせてもらったんです。監督就任当初から自分が甲子園に連れて行くと、突っ走ってやってきたんですけど、15年目ぐらいですかね。息子が野球をやり始めまして。親として少年(学童)野球に接するようになり、高校野球にとどまらず、広く野球のカテゴリーを見たほうがいいのでは……と考えるようになったんです。

上原:すると息子さんがきっかけに。

諸星:ええ。話はちょっと逸れますが、息子は小学1年になった段階で、チームに入りたいとせがんできたんです。でも、私は野球界の実情を知ってますからね。止めていたんです。まだ早いよと。その代わり、私が練習相手をするからと。

上原:なるほど。息子さんには早くからチームに入ってほしくなかったんですね。

諸星:チームに入ってしまうと土、日が潰れて、遊びや他のことをする時間がなくなりますし、娘もいるなか、妻もチームの手伝いで忙しくなりますしね。ただ、一番の理由は、野球が好きな子が野球を始めれば、いずれ野球漬けになるのが目に見えていたからです。ならば、そんなに早くから野球ばかりになる必要はないと。野球以外のことでも野球につながることはたくさんありますしね。高校の監督としてもそれは感じてましたし、指導においても実践していたんです。

野球だけでなく水泳にも本格的に取り組む

水泳をする男の子

上原:確か息子さんは水泳もやってますね。

諸星:水泳は幼稚園のときからです。

上原:ジュニアオリンピックにも出場されてますから、野球をしながら水泳も本格的だったんですね。チームには小学何年のときに入ったのですか?

諸星:2年生の1月ごろです。どうしても我慢できなくなり、3チームほど体験会に参加しました。それで本人が家から一番近い、通っている小学校のチームにしたいと言ってきたので、そこに入りました。これを機にいろいろな学童野球チームを見る機会が増えたんですが、驚きましてね。小学生の野球なのに、高校野球のミニチュア版になっているんだなと。高校生は半分大人だし、それで通じるかもしれないけど、小学生は嫌にならないのかな……と思いました。保護者にも驚きました。指導者だけでなく、保護者も一緒になって相手チームの子どもをやじってるんです。こんな感じなのか……と衝撃を受けつつも、そういうところにも関わりを持てたらと、ちょっとした好奇心みたいなのが湧いてきまして。もっと幅広く野球に関わっていけたらと、2022年夏の大会を最後に監督を退きました。

上原:野球に熱心な親御さんのなかには、子どもには野球一筋でやってほしいタイプもいますが、小学時代はいろんな競技をやったほうがいいと感じますか。

諸星:感じますね。競技というよりも、いろいろな形で体を動かす。それこそ遊びは絶対にやったほうがいいと思います。我が家の場合は、部屋の中に簡易的な滑り台や、小さいトランポリンといったものを散らばしておきました。そうすると「やってみれば」と言う前に勝手に遊び始めるんです。

上原:諸星さん自身は、お子さんには野球をやってほしかったですか?

諸星:是が非でもというのはなかったですね。私より妻の方がやってほしいと思っていたのでは。

上原:そうなんですか。

諸星:でも、よくよく考えれば、生まれた時から父親が高校野球の監督をしてましたし……。土、日になると、野球好きな妻が子どもをグラウンドに連れて来て、空いてるところで遊ばせてました。常に野球がある環境にいたので、誘導しちゃったのかなと。そういうのはありますけどね。

上原:でも、諸星さんは野球経験者ではありますが、自然な形で息子さんが野球を始めたのはすごくいいなと。強制はしなかったんですね。

諸星:ええ。今も何1つとして強制はしてないです。

上原:いろいろな選択肢を示したのも、いいことだと思いました。

諸星:そうですね。高校野球でも、昔はバットを振っていれば絶対に打てるようになると思ってましたけど、バットを振れる以前のことがあると。これは指導していたなかで学んだことでもあります。

ボールを強く蹴れれば、バットを強く振れる

サッカーボールを追いかける3歳の子

上原:一方で今は、なかなかそういう経験ができない環境ですよね。スクールに行かないとできないところもありますが、それについてはどのように考えてますか。

諸星:私も野球体育スクールを運営してますが、必ず野球の練習をする前に、柔らかいボールでバレーボールをしたり、サッカーをやらせたり、マットを敷いてでんぐり返しをするなど野球以外のことを必ずやらせるようにしています。もちろん野球の練習は大事ですが、野球以外のことが上手くなれば、野球も上手くなるかと。本当はプログラムとしてではなく、自由に遊べる場を提供できればいいのですが……。

上原:それができればベストかもしれません。

諸星:将来的には当たっても怪我をしないボールを置いておき、そこで子どもたちが決められた動きではなく、自由な動きができる場を作りたいと考えてます。

上原:小さい時から野球ばかりではなく、いろいろな動きをすることが野球につながるということですよね。そういうことを親御さんが知るのも大事かもしれないですね。

諸星:サッカーボールを強く蹴れれば、バットを強く振れると思うんですよ。

上原:なるほど。そういうことですか。

諸星:逆に言うなら、サッカーボールを強く蹴れない子どもたちに、バットを強く振れと言ってもできないんです。

上原:それなのに最短距離を行こうとしている親御さんが多い感じもします。

諸星:そうですね。うちのスクールでは体操を勧めてます。体操をしなさいと。

上原:野球に通じる体操はたくさんあると思いますが、特にこれをやるといいというメニューというと。

諸星:マット運動です。マット運動は体を丸めたり、伸ばしたりしますが、例えば、後ろ回りでは手首が反ります。実際はすぐにできない子が多いですが、その動作をするだけで、手首の柔軟性が向上します。さらに言えば、後転には体の中心に引きつける動作や、体を伸ばす動作が含まれているので、そういった体の使い方も養われるのです。

上原:できるだけいろいろな動きのバリエーションを経験させてあげるのが重要なんですね。

諸星:チームの指導者はバットを振ってこいと言うでしょうけど、スクールで教えた体操を家でやっておいてほしいと伝えれば、親御さんの知識も増えますしね。

上原:それは保護者が柔軟な考えを持つことにもつながりそうです。

諸星:ええ。本来はそういうこともチームの指導者の役割かと思いますし、入団時に「家でやれることを皆さんにお伝えしています」という案内があれば、野球未経験の親御さんであっても安心して預けられるのではないでしょうか。

上原伸一

1962年生まれ。東京都出身。國學院大學文学部を卒業後、外資系のスポーツメーカーのマーケティング職などを経て、2001年からスポーツライターに転身。活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在ではベースボール・マガジン社の『週刊ベースボール』、『大学野球』、『高校野球マガジン』などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞『4years.』、『NumberWeb』、『スポーツナビ』などに寄稿している。2020年より「Yahoo!ニュース エキスパート」。

松井克典

1973年生まれ。日本工業大学共通教育学群・准教授(コーチング学)。埼玉・春日部高、千葉大、山形しあわせ銀行(現・きらやか銀行)、全大宮野球団で内野手としてプレー。以降、体育科教員として勤務した6校(スポーツ専門学校2校、高等学校3校、大学)で野球部コーチ、監督を歴任。並行し、自分の子どもと同時に入団した学童野球チームでコーチを5年間務めた。現在は大学での教育・研究とともに、一般社団法人野球まなびラボ代表理事として小中高の野球指導者・保護者の学びの場の創出や、コーチングやチームビルディングの普及活動に尽力。野球をはじめスポーツに関わるすべての方々が学び、成長していくため活動を行っている。「人生一期一会」「スポーツと教育のミライをデザインする」をコンセプトに、スポーツや教育のあり方を追求している。

子どもが野球を始めたら読む本

上原伸一 (著), 松井克典 (監修)『子どもが野球を始めたら読む本』(ベースボール・マガジン社)

主人公は野球を始めたばかりの子を持つおとうさんとおかあさん。成長期の子どもに本当に必要なもの、食の大切さと体づくり、初めての道具選び、女子野球、気になるお金のことまで。ヒントを求めて7人の賢者を訪ねた筆者が、扉の向こうに見たものは──。