ヘルプからサポートへ~子どもを信じて見守る
子どもの「できる」を信じて、子どもがすることを見守るとき、子どものやる気と「できる」が育ちます。それがサポートです。
各地の学校やPTAで<ハートフルコミュニケーション>のプログラムを実施している菅原裕子先生の著書『子どもの「やる気」のコーチング』(PHP文庫)からご紹介します。
※本記事は『子どもの心のコーチング【しつけ編】 「ほめる」「叱る」よりうまくいく子育ての極意』(菅原裕子著、PHP文庫) より一部抜粋・編集したものです。
【著者紹介】菅原裕子(すがはら・ゆうこ)
NPO法人ハートフルコミュニケーション代表理事、有限会社ワイズコミュニケーション代表取締役。1999年、有限会社ワイズコミュニケーションを設立し、社員一人ひとりの能力を開発することで、組織の変化対応力を高めるコンサルティングを行う。仕事の現場で学んだ「育成」に関する考えを子育てに応用し、子どもが自分らしく生きることを援助したい大人のためのプログラム<ハートフルコミュニケーション>を開発。2006年、NPO法人ハートフルコミュニケーションを設立し、各地の学校やPTA、地方自治体主催の講演会やワークショップでこのプログラムを実施し、好評を得る。また、ハートフルコーチ養成講座を開設しコーチの育成に力を注ぐ。
1歳前後から生まれる自立への欲求
サポートは、子どもをできる存在としてとらえ、子どもができることを見守る態度です。日々成長する子どもは、毎日のように昨日できなかったことができるようになります。スプーンを握って自分の口に食べ物を運ぶようになり、両手でコップを持って、こぼしながらでも自分で飲もうとします。
1歳前後から、子どもはだんだんと自己主張を強めます。それまでは親の助けがなければできなかったことが、次第に自分でできるようになり、また、できることは自分でやりたいと主張し始めるのです。
それはつまり、自分の世界を自分でコントロールすることへの欲求です。「自律への欲求」の始まりは、生まれて1年もたたないうちにやってくるのです。
自己主張は、ヘルプの手を緩めよという子どもからのサインです。それらのサインが出始めたら、親は子どもの自己主張に沿って、少しずつ子どものやりたがることを子どもに手渡していくことが大切です。
子どもの成長に伴って、親が子育ての態度をヘルプから随時サポートへと変化させていくことが、子どもの順調な発育を心身ともに促します。
ところが私たち親は、子どもが幼い頃から、子どもの自律への欲求を無視するという間違いをたびたび犯します。
自分でスプーンを使いたいという子どもに、こぼされるのがイヤだからと親が食べさせたら、子どもの自律への欲求は満たされません。靴ひもを自分で結ぼうとしているのに、遅いからと親がやってしまったら、子どもの自律への欲求は満たされません。
自律への欲求が満たされていないと、子どもは外発的な動機づけを自分の中で定着させることが難しくなります。たとえば、一日を終える前に、必ず宿題を終えるという習慣を身につけさせたいというとき、親がどんなにその重要性を教えても、子ども自身が「そうだ」と思い、自分を律して自己説得しないかぎりは、その習慣は身につきません。
その習慣を身につけさせようとすれば、自分の意思を働かせ、「よし、そうしよう」と自分で行動を起こす自律性が必要なのです。その自律性を育てる方法が、まずは子どもの自律への欲求を満たしてやることなのです。
子どもの「できる」を信じて、子どもがすることを見守るとき、子どものやる気と「できる」が育ちます。それがサポートです。子どもが自分で靴を履こうとするとき、時間がかかってもそれができたとき、子どもの「有能さへの欲求」は満たされます。
子どもの小さな「ヤッター」の積み重ねが、子どもの有能感を育てます。子どものやる気や、「できる」を育てる最初の時期が、乳幼児期のヘルプからサポートへ、親が軸足を変える時期なのです。
とはいえ、日々の忙しさに追われる中で、ついつい手を出し、不要なヘルプをしてしまうのが親の現実です。家事や子育てで忙しい中、また、最近は働く母親も増え、仕事と両立させようとすると、早くやることが母親にとって一番大切なことになってしまいます。
サポートが難しいもうひとつの理由として、子どもがかわいいあまり、つい手助けをしてしまうということが挙げられます。おぼつかない様子に思わず手を出してしまいます。
子どもをできないイライラから助けることに、親は満足してしまいます。その親の満足の陰に、やろうとしたことを取り上げられ、やる気の芽を摘まれた子どもがいることには気づきません。このとき、子どもの自律への欲求は満たされません。自分でやっていないので、有能さへの欲求も満たされません。
サポートは、子どもをできる存在ととらえて、「できる」を待つ態度です。それは、子どもが自分の力で「不快」を「快」に変えるのを見守る姿勢です。
そのとき求められるのは、親の忍耐です。早くきれいにやりたい親の欲求をこらえ、やってあげたいという思いを辛抱して、そっと子どもを見守る。ヘルプをサポートに切り替えるときは、親の忍耐を育てるときでもあるようです。
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子どもを思い通りに動かそうと、ほめたり叱ったりしていませんか?「しつけ」とは、さまざまな経験を通して自分で考え、自分を律する瞬間を積み重ねながら、子どもを自立させるためのもの。対立や葛藤を恐れず、親がコーチとしてできることを、幼児期、児童期、思春期ごとにやさしく伝授。イライラせずに子どもと向き合うヒントが満載です!