子どもに対して必要以上にイライラする、思わず暴力をふるってしまう......。子育てが上手くいかず、1人で苦しんでいるお母さん、もしかしたら「大人の発達障害」が原因かもしれません。

 

 

人間関係の苦手が表面化する

 

発達障害があっても、子ども時代はなんとかやり過ごせてしまうことは多いものです。それは、(1)成績がよい、(2)趣味やクラブ活動に打ち込んでいる、(3)脳の発達のアンバランスの程度が軽い、(4)家庭環境に恵まれているなどの理由がある場合です。

 

子ども時代は、家庭と学校を往復することがほとんどの生活です。そのため、成績さえよければ周囲に認められたり、部活にのめり込むことで仲間ができたり、親が個性を認めてくれたりという環境があれば、気分が沈むことなく平穏に生きていけます。

 

就職も、自分の特性を生かした「適職」に就けた場合、問題なく過ごせているケースが多くあります。むしろ、その特性を生かして仕事で成功している人は少なくありません。

 

たとえば、人にない「ひらめきがある」ことで面白い企画を思いつき、新規事業を成功させることがあります。また、視覚的な構成力に強いので、センスを活かせる専門職の分野で才能を開花する人もいます。さらに、好きなことにのめり込む「過集中」の特性を生かして、学者や研究者として成功している例もたくさんあります。

 

ADHDの人の注意が移りやすい特性は、裏を返せば、同時並行していくつもの仕事をこなす能力があるといえます。すると、一般的に人がつらいと感じる「マルチタスク」の仕事も難なくこなせるというわけです。

 

そうやって、学生時代も仕事もうまくやってきたのに、結婚して子育てを始めた途端、いろいろなことがうまくいかなくなって自身の発達障害に気づく人もいます。自分の思い通りにならない子どもに必要以上にイライラしたり、感情が抑えられなくなって暴力をふるったり、自分の不注意から子どもにケガをさせてしまったりして、「私って、なんてダメなの……」「私って、なんだかおかしい?」と感じるのです。

 

また、家庭をもつと、保護者会やPTA役員の仕事や、町内会の役員など地域の人とのおつき合いなども始まります。これまで学校の部活の仲間や、職場の仲間など、自分の特性を理解してくれる人に囲まれ、特性を才能として生かしながらのびのび生きてこられた人も、あまり接点のなかったタイプの人たちとつき合っていかなければいけません。

 

特にPTAの組織などは、「前例に倣い、ルールに従って言われたことをやりたい」というお母さんが多いなかで、「前例に倣うのはおかしい! 改革したい!」などと突っ走ってしまいがちです。それは、発達障害の人たちに「純粋で正義感が強く、曲がったことが嫌い」という素晴らしい特性があるからなのですが、「仕事でもない場面でそこまでやるの?」などと敬遠されるケースも少なくありません。

 

また、ADHDの特性である衝動性には、暴力的な行動だけでなく、言語的な衝動性もあります。相手の気持ちやその場の空気を推し量ることなく、思いついたことをそのまま言ってしまうのです。たとえば、保護者会などの席で、まわりの人のことを考えず「言わなくてもいいこと」を言ってしまったりして「困った人」と思われやすいのです。

 

言いたいことを我慢するのはつらいことでしょうが、大勢の人が集まる場では、とにかく「沈黙は金」と心に決めて、だんまりを決め込むのもひとつの方法です。自分の発言がトラブルのきっかけになるくらいなら、「言わぬが花」というわけです。

 

自分の子ども時代を見るようで

 

また、子育てがうまくいかないことの原因に、子どもが発達障害である可能性もあります。発達障害は遺伝することが多いので、親子ともに同じような特性をもつ可能性は高いのです。子どもに「気になる」傾向があったとき、その保護者にも「気になる」特性があるというのは、保育・教育現場でよくいわれていることです。

 

母親の特性が遺伝する場合もありますし、父親が仕事はできるけれど子育てに無関心といった「アスペルガー症候群」の傾向をもつ場合もあり、また、夫婦ともに脳の発達のアンバランスがある場合もあります。

 

子どもが発達障害の診断を受けることで、初めて自分の特性に気づいたという例はたくさんあります。子どもが発達障害と診断され、医師から障害の特性を説明してもらう際、「それって私も同じだわ!」と気づくのです。

 

また、子どものことがかわいいのに、つい手が出てしまったり、ひどい言葉を浴びせてしまったりする人のなかには、自身が育てられた環境がフラッシュバックして、ハッとするケースもあります。これは、機能不全家族(本来あるべき家族の機能を失い、そのために問題が起こることの多い家族をいう)に育ったアダルトチルドレン(AC)のお母さんに見られます。

 

子どもの頃に親にされてつらかったことを、わが子には絶対にしないと心に誓っていたのに、いざ子育てを始めてみると、遺伝子に刷り込まれたように同じことをやっていて驚くというケースです。そして、自分を責めて感情が不安定になることもあります。

 

母親がACである場合、自分の「心がけ」や「努力」だけでは、なかなか解決できません。まわりの人、特に夫が「よき理解者」になってサポートしてくれることがカギです。自分でうまく説明することがむずかしい場合は、医師から夫に説明してもらうなどして、自身の特性について理解を深めてもらい、助けを求めましょう。

 


 

【本書のご紹介】

 

発達障害に気づかない母親たち

 

『発達障害に気づかない母親たち』

子育て・仕事・人間関係がうまくいかないのは、発達障害のせいかもしれません。専門医が語る、もっとラクに生きるためのヒント。

 

【著者紹介】

星野仁彦(ほしの・よしひこ)

児童精神科医。福島学院大学副学長。医学博士。1947年、福島県会津若松市に生まれる。福島県立医科大学医学部卒業後、米イエール大学留学、福島県立医科大学助教授を経て、現在に至る。これまで一貫して発達障害や不登校などの研究・臨床に従事する。

主な著書に『発達障害に気づかない大人たち』(祥伝社新書)、『気付いて!子どもの心のSOS』(ヴォイス出版)、『「空気が読めない」という病』(ベスト新書)、『発達障害を見過ごされる子ども、認めない親』(幻冬舎新書)、『なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません』(PHP研究所)、共著書に『まさか発達障害だったなんて』(PHP新書)などがある。