母親にだけ暴言を吐く子どもの心理は? 家庭でできる改善法

原田謙
2025.03.03 11:59 2025.03.03 11:50

キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本

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学校では穏やかに過ごしている子が、親にだけ激しくキレてしまう理由は何でしょうか。
また、改善のために親ができることとは?

児童精神医学の専門医、原田謙先生の解説をご紹介します。


※本稿は原田謙(著)『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』(講談社)から一部抜粋・編集したものです。

学校ではキレないけど、親には暴言を吐く子

キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本

 

母親に無理な要求を押し付ける

小学5年生のCさんは、学校では同級生と仲良く遊んだりしゃべったりしています。教師に注意されても反抗しません。学校ではキレないのですが、家庭では母親にキレています。

Cさんは、学校では周囲の人と協調的に過ごしているのですが、家庭では母親に対して無理な要求を押し付けます。毎日のように「これがほしい」「ここに行きたい」といった要求をするのです。そして母親が自分の思いに応えてくれないと、罵声を浴びせます。

母親にはキレるのですが、父親にはキレません。父親のことは怖がっていて、あまり関わらないようにしています。Cさんには妹が一人いて、妹に対しては要求が強くなりがちです。怖くない相手には、強く当たるところがあるのです。母親が「学校ではキレないけど、家庭ではキレる」ということに悩んで、相談に来られました。

家庭と学校での姿にギャップがある

一般的に小学生くらいの子どもでは、「家族とはケンカをするけれど、学校で友達や先生とはケンカをしない」というパターンが多いです。身近な相手に対しては、強い言動が出やすいのです。Cさんもそのパターンに近いのですが、Cさんの場合、学校での姿と家庭での姿に大きなギャップがあります。ここに問題があるといえるでしょう。学校で気持ちを抑え込んでいる分、家庭で怒りが噴出するという側面があります。ある場所ではおだやかに過ごせていても、他の場所でキレる言動が出ているのなら、やはり対応が必要です。

ただ、Cさんのようなケースでは、母親が対応に悩んで父親に相談しても、父親はわが子のキレる姿をあまり見ていなくて、話が通じにくい場合があります。また、学校の先生に相談しても「学校ではいい子ですよ」「信じられません」「その日は機嫌が悪かったのでは?」などと言われてしまうこともあります。結果として、母親が一人で悩みを抱え込んでいくことがあるのです。

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暴言を減らす対策を取りたい

しかし、暴言を放置していたら言葉も態度も激しくなっていき、家族がまいってしまう可能性があります。暴言だけでも周囲の人は傷つくため、早期に対応する必要があります。父親も含めて家族で話し合い、暴言を減らしていくことを目指しましょう。

子どもと特定の大人が衝突しやすい場合には、タイムアウトを行って少し距離を取るという対応も有効です。物理的な距離を取る方法は、暴力への対策として効果的なやり方ですが、暴言を避けるためにも活用できます。

Cさんのように「家ではキレるけど、学校ではキレない」というパターンは、重症度としては比較的軽い部類だといえます。家庭でも学校でもキレる子に比べれば、反抗の度合いは強くはありません。このパターンの子は、対外的には自分の言動をある程度コントロールできています。状況や相手を見て、どうするべきかを判断する力があります。

家族でよく話し合って、本人の不満も理解しながら対策を進めていけば、状況は少しずつ改善していくでしょう。

【ポイント】
暴言だけでも対応していく
…暴力がなくても、暴言が激しければ、なんらかの対応をする必要があります

ターゲットを絞って、少しずつ減らす

ルールをつくって毅然と対応する

子どもは暴言を吐いて、大人の反応を確認していることがあります。大人に「黙れ」などと言ってみたときに、𠮟られるのか見過ごされるのか試している場合があるのです。大人が何もしなければ、暴言を許容したことになります。見過ごさないで、止めなければいけません。ただ、すべての反抗や暴言に対応していては身がもたないため、「止める」というよりは、ターゲットを絞って少しずつ「減らす」ことを目指しましょう。

例えば「殺すぞ」「死ね」という言葉だけは禁止することを、家庭や学校のルールとして設定します。これも一種の「枠付け」です。次に暴言が出たとき、この言葉には対応するという「枠」を決めておくわけです。子どもがルールを破って「殺すぞ」と言ってきたら、大人は毅然とした態度で「私はその言葉が嫌なので、もう話はしません」と伝えて、会話を中断します。そのような対応を続けて、暴言を減らしていくのです。

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暴言が続いたら「言い直し」をさせる

冷静に「言い直し」をさせる

暴言対策のルールをつくっても、子どもの暴言が減らない場合もあります。しかしそこで大人が「いい加減にしなさい!」などと感情的に反応すると、子どもも反発し、結局暴言が増えていくこともあります。

子どもがルール違反の暴言を吐いたら、冷静に「言い直し」をさせましょう。その言葉は禁止であり、言い直すまで話をしないと伝えてください。子どもが言動を改めたら、会話を再開します。ただ、言い直しを強く求めすぎると、むしろ反抗的になることもあります。その場合は大人が対応を切り替えて、クールダウンやタイムアウトを行いましょう。

親もルールを守らなければいけない

子どもの暴力を許容している家庭は、ほとんどありません。きょうだい間で揉めごとが起きたときに、が「殴り合って決着をつけなさい」と言うことはまずないでしょう。

しかし暴言は違います。暴言はしばしば見過ごされています。親御さんの話を聞いていると、家族がテレビを見ながら出演者に対して「こいつはクズだ」「死ねばいい」などと暴言を吐くことがある、というエピソードが出てくるときがあります。子どもがそのような暴言を聞いて育っている場合もあるのです。

子どもに言ってほしくない言葉があるなら、親もその言葉を使ってはいけません。家庭で暴言禁止のルールをつくったときには、家族全員がそのルールを守りましょう。

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原田謙

長野県立こころの医療センター駒ケ根副院長・精神科研修研究センター長・子どものこころ診療センター長。信州大学医学部臨床教授。1962年東京都生まれ。1987年信州大学医学部卒業。神奈川県立子ども医療センター、国立精神神経センター国府台病院、信州大学医学部附属病院などを経て、2014年から現職。専門は児童精神医学。特に発達障害の二次障害、反抗挑発症、素行症。

キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本

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