幼児期の人間関係は、子どもの脳にどのような影響を及ぼすのでしょうか。また、友だちとうまくやっていける子を育てるために、親は何をすべきなのでしょうか。ここでは、脳科学的な見解を解説します。

 

子ども

 

脳は人間関係の中で育まれる

 

脳が育つには、刺激が必要です。

生まれてすぐは、家庭で同じ人に繰り返しお世話をしてもらいながら生活を積み重ねることが、子どもにとって脳を育てる一番大事な刺激です。

1~3歳前後になると、多くの子どもにとって初めての集団生活が始まります。たくさんの人と関わることで、脳に入る刺激の量は急激に増加します。

大人から見ると「正しくない」行動や言動に思えても、それも「脳が育つ過程で起こる自然なこと」と解釈すれば、驚いたり心配になったりする必要はありません。幼児期は、できるだけたくさんの「人間経験」を積ませることが一番大事なのです。

 

何が違う? 友だちとうまくできる子、できない子

 

・友だちとうまくできる子の脳

幼児期に「友だちとうまくできる」脳が完成することはあり得ません。脳の発達の順番から言えば、10歳以降になってやっと獲得する高度な前頭葉の機能だからです。大人はそのことを知り、「今はうまくできなくてあたりまえ」と子どものありのままを認め、過度な期待は控えましょう。大人に認められて安心すれば子どもの脳はぐんぐん発達するので、将来「友だちとうまくできる」脳になりやすいのです。

 

・友だちとうまくできない子の脳

人間関係を初体験する幼児が友だちと関わるさまを見ていると、歯がゆいあまりに、つい口を出してしまいがちです。しかし、大人からのたび重なる否定は、子どもに恐怖や不安の感情を引き起こします。未発達の脳は、この恐怖や不安をしばしば暴言や暴力として表現するため、どんどん「友だちとうまくできない」状態をつくってしまいます。まずは大人が「幼児期はこんなもの」とおおらかに見守りましょう。

 

友だちづくりの3ステップ

 

【1】「思いやり」を育てる

 

前述のように、一朝一夕に「友だちとうまくできる」脳が完成することはあり得ません。でも、10歳以降に完成することを目標に、日々の生活の中で「思いやりの芽」を子どもにつくっていくことは重要です。

「思いやりの芽」づくりに最も必要なのは「言葉」です。言葉は人間ならではの脳の機能であり、勉強はもちろん、考えごとをするときにも、そして友だちを思いやるときにも、人は言葉を使います。言葉を覚え始めた子どもには、遊びの中でたくさんの言葉を大人がかけてあげましょう。

絵本を読んであげることも良いですが、より脳を刺激するためには、子ども自身の言葉を引き出す遊びが有効です。たとえば、お花の名前の言い合いっこをするとき、しりとり遊びをしているときなどに脳の前頭葉が刺激されます。

幼児期からこのような脳への刺激を繰り返すことで、「自分の置かれた状況に対して最も適切な行動や言葉を判断する」、すなわち「思いやり」の脳機能が形成されます。

たとえば、友だちのおもちゃを取って泣かせたときに、「そんなことをしたらダメ」と、ただ否定するのではなく「次に、○○ちゃんのおもちゃで遊びたいときにはどうする?」と聞いて、「次は、『貸して』って言う」など、自分で考えた言葉を引き出しましょう。ただし、まだまだ脳は未発達なので、言ったからといって必ずしも次回そのように行動できないかもしれないことを、大人は重々承知して、おおらかに構えましょう。

 

【2】「聞く力」を育てる

 

人の話をじっくり聞くためには、聞き手の脳の状態が「安心」していることと、「注意・集中」モードになっていることが大事です。

「安心」している脳では、「セロトニン神経」が活発に働いています。

セロトニン神経は特に5歳までの子どもの脳で発達しますが、その発達の善し悪しのカギを握るのが生活リズムです。具体的には、朝日が昇る時間帯(7時前後)にはちゃんと目覚めて、しっかりと目の中に太陽の光を入れること。夜は20時前後から十分な睡眠時間を確保して、ぐっすり眠ること。そして、3度の食事をしっかりとること。これらがセロトニン神経を育てるコツです。

一方、「注意・集中」できる脳に育てるには、刺激を与えすぎず、緩急をしっかりつける環境が必要です。

部屋の中にたくさんのおもちゃや絵本が散らばっていて、さらにテレビがついていて、ゲームやパソコン、タブレットもある状態では、じっくり聞けないのはあたりまえです。

できるだけすっきりした部屋で生活することを心がけて、テレビなどのメディアは最小限の接触にとどめたほうがいいでしょう。

また、幼少期にしっかり手足を動かして遊んでたくさん興奮させた脳ほど、その後、注意・集中力が高まることが証明されています。たとえば、親子で思いきりじゃれ合って手足を動かしたあとに、今度は静かにパズルに集中するというような、メリハリのきいた親子遊びがおすすめです。

 

【3】「話す力」を育てる

 

良い人間関係をつくるためには、どんな言葉を選んで話すかが重要です。

脳が支配する思考と話し言葉には密接な関係がありますので、一般的には、ネガティブよりはポジティブな考えをもてる人のほうが、相手にもポジティブな話ができ、それによって良い人間関係もつくりやすいものです。大人が意識して、幼児期からポジティブな言葉が出せる脳を育てていくことで「友だちとうまくできる」脳をつくりましょう。

まわりの大人からかけられる言葉は、子どもの考え方の傾向をポジティブにもネガティブにも左右します。

たとえば、遊んでいたおもちゃが壊れて直らなくなったとしましょう。大人に、「ダメじゃない! あなたが乱暴に扱うからよ!」と頭ごなしに叱られてしまうと、子どもには「安心」の反対である「不安」や「恐怖」が生じます。そして、なんとか不安や恐怖を打破しようと、本能的に口から出る言葉は「ママのバカ!」「やだやだ!」といったネガティブな単語になります。

一方、大人が笑顔で「大丈夫。とれちゃったタイヤでおはじきができるよ」というふうに、その状況をなんとかポジティブに転換して伝えるようにすると、たとえ困った状況に陥っても自力でポジティブに転換する機能が子どもの脳につくられていきます。そうすると、「今日、○○君が一緒に遊ばないって言ったんだ。でも、大丈夫。△△君たちに遊ぼうって言ってみたら交ぜてくれて、初めて△△君と遊んだら、とっても楽しかったよ」と話せるようになるのです。

 

 


 

「PHPのびのび子育て」 5月号より

 

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本記事は、「PHPのびのび子育て」2019年5月号特集【友だちとうまくやっていける子に】より、一部を抜粋編集したものです。

 

【著者紹介】

成田奈緒子

(文教大学教育学部教授)

日本小児科学会認定小児科専門医、発達脳科学者。医師および研究者としての活動の他、「子ども支援」のあり方を社会に提唱する。監修書に、『はじめてママ&パパのしつけと育脳』(主婦の友社)など多数。