脳科学でおなじみの茂木健一郎先生に、「子どもの成長」と「笑い」の深い関係について教えていただきました。

 

男の子

 

まもなく訪れるAI社会では、「これなら自分の右に出る者はいない」というものをもっている人物が求められます。そういう人はすでに若手起業家として活躍中だったりしますが、彼らの共通点は「明るくてよく笑う」ということです。ここでは、笑いの意味や効能などについて、脳科学的に解説します。

 

笑うとき、脳の中では何が起きている?~人間は、なぜ笑うのか~

 

脳の中には「扁桃体」という、感情をつかさどる神経細胞があります。

喜怒哀楽のうちの「喜」や「楽」といった快感を得ると、ここが反応して、すぐ近くにある「前帯状皮質(ACC)」を刺激します。その結果として起こる現象が「笑い」です。

つまり、笑うということは、その本人が幸せであるというシグナルなのです。

おもしろいことに、このACCは痛みを感じたときにも活動します。そうすると、脳の中で「脳内麻薬」とも呼ばれるβエンドルフィンという、鎮静効果や幸福感が得られる物質が分泌され、痛みがやわらぐことがわかっています。

これらのことから、「笑い」というのは脳の中にもともと備わっている、自分自身をよい気分にしたり癒やしたりするための装置、言い換えればネガティブなことをポジティブに変える装置のようなものだと言えるでしょう。

私たちの祖先であるホモ・サピエンスはアフリカで誕生し、そこから南へ北へ、西へ東へとグレートジャーニーを続けながら進化を遂げてきました。その旅は、まさに未知との遭遇の連続。知らないものを目にしたり、初めてのことを体験したりするときは緊張し、不安や恐怖にかられます。でも、前に進みたい! このとき、「笑い」が大きな役割を果たします。人間は緊張、不安、恐怖を「笑い」で乗り越えてきたというわけです。

 

笑いの効能~よく笑う子ほど、才能が開花する!~

 

「笑い」は、子どもの成長と発達において重要な役割を果たします。

人間の子どもは、他の動物に比べて未熟な状態で生まれてくるので、大人になるまでに学ばなければいけないことがたくさんあります。毎日、緊張と不安にさらされますが、それを乗り越えなければ成長できません。

そこで、「笑い」が必要なのです。新しいことへの挑戦には失敗がつきもの。そこで「へへっ、失敗しちゃった!」と笑い飛ばせれば前向きに生きるエネルギーが生まれ、失敗を糧にすることもできます。

つまり、「笑い」が多ければ多いほどかしこくなり、可能性も無限大に広がり、楽しい人生を送れるようになるのです。

では、どうすれば前向きでよく笑う子になるのでしょうか。

それには、失敗したときに逃げ込める、あるいは欠点まで含めて自分をまるごと受けとめてくれる安全基地が必要です。「ここなら安全」という場所があってこそ失敗を笑い飛ばすことができ、困難に立ち向かうときも「失敗したって、あそこに戻れば大丈夫」と、リスクをとることができるからです。

そんな「子どもの安全基地」になれるのは、もちろん親です。特に幼い子は、「お母さんが、いつ何があっても自分を受けとめてくれる」とわかっていれば、どんどん新しいことにチャレンジしていけます。たとえ失敗しても、お母さんが笑顔で受けとめてくれたら、「自分はがんばっている」「次はできる」と前向きに考えることができます。

ですから、わが子をよく笑う子に育てたいなら、お母さんは笑顔で見守り、子どもをいつでも、まるごと受けとめてあげることが大切なのです。

 

やってみよう! 笑顔の育脳

 

子どもの笑顔を増やし、脳を育てるために、ご家庭でできることはたくさんあります。ここでは、その一部をご紹介します。

 

【1】楽しいイメージで不安を打ち消す

保育園や幼稚園でお友だちとお遊戯をする、お泊まりをするなど、初めての経験を控えているとき、子どもは緊張するものです。その不安げな顔を見るとお母さんも心配になりがちですが、そこはぐっと我慢して「明日のお遊戯、とっても楽しみだね!」と励ましたり、「いつもと違う場所で眠るのって、楽しそうだね。お母さんも行ってみたいな」というように、楽しいイメージで不安を打ち消してあげましょう。

 

【2】まずはお母さんが笑う

脳には「ミラーニューロン」といって、他者の動作を見たとき、自分もその動作をしているかのように反応する神経細胞があります。ですから、お母さんがつねに笑顔でいれば子どもは自然とよく笑うようになります。また、親子で同じものを見たり聞いたりして笑うことも大事です。これは「共同注意」と言い、相手の心を読み取る力の発達につながり、他人の気持ちを理解し、思いやりのある子に育ちます。

 

【3】ズッコケキャラに学ぶ

「バナナの皮で転ぶ」というのは古典的な笑いのパターンです。この笑いによって人は「ズッコケても大丈夫」ということを学ぶので、同じような笑いのパターンをもった作品を親子で一緒に見るといいですね。たとえば映画『アナと雪の女王』のオラフや『ドラえもん』ののび太は典型的なズッコケキャラですが、彼らはいつも明るくて、へこたれません。その姿に、きっと子どもは励まされるでしょう。

 

【4】楽しさを創り出す

嬉しい、楽しいと思えば自然と笑みがこぼれます。家族だんらんなり、友人知人を招いてのパーティーなり、とにかく「楽しい!」と思える機会をたくさんつくりましょう。さらに、「自分の頭で創り出す、能動的な楽しさ」を親子で一緒に味わうことも大切です。たとえば『アナと雪の女王』なら、「アナが人魚だったら、どういうお話になるかな?」というように想像(創造)することが育脳につながるのです。

 

【5】発見、気づきの喜びを味わわせる

特に子どものときの脳は、新たな発見や気づきを得たときに喜びを感じて、大きく活性化します。子どもが何か発見をしたり、ずっと考えていた末に「わかった!」というときには、目がきらきら輝いて嬉しそうに笑っていませんか?

そういう「発見」と「気づき」による笑いをたくさん経験するほど脳は育ち、好奇心あふれるかしこい子になります。そのためにも、子どもにはさまざまな体験をさせてあげましょう。

 

「良い笑い」と「悪い笑い」について

 

テレビのお笑い番組などで、ある人をみんなでからかい、笑いものにするという場面を目にすることがあります。あれは「嘲笑」というもので、悪い笑いです。

育脳において大切なのは、自分の欠点や失敗を笑い飛ばせるようになることです。こういう笑いは、自分を客観的に見てコントロールしながら周囲と協調していく力(メタ認知能力)を育み、人間性の成長につながります。

これに対して、他人をおとしめて楽しむ笑いというのは、自分の不満を解消するためのもので、単なる自己満足にすぎません。人間性の成長につながらないどころか、相手を傷つける最悪の行為ですから、ぜひ親子で一緒に、日頃から「悪い笑いを楽しまない」ように気をつけて、1回でも多く良い笑いができるよう心がけてみてください。

 

 


 

「PHPのびのび子育て」 6月号より

 

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本記事は、「PHPのびのび子育て」2019年6月号特集【お母さんが笑うほど、頭のいい子に育つ】より、一部を抜粋編集したものです。

 

【著者紹介】

茂木健一郎 (脳科学者)

東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経てソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京大学・大阪大学・日本女子大学非常勤講師。著書に、『これからの未来を生きる君たちへ』(PHP研究所)など多数。

(取材・文:鈴木裕子)