よく笑う子ほど才能が開花する理由 茂木先生が教える「笑顔の脳科学」
なぜ人間は「笑う」のでしょうか? 笑う事には様々な効能があるのです。脳科学でおなじみの茂木健一郎先生に、「子どもの成長」と「笑い」の深い関係について教えていただきました。(取材・文:鈴木裕子)
※本稿は、「PHPのびのび子育て」2019年6月号に掲載されたものを一部抜粋・編集したものです
笑うとき、脳の中では何が起きている?
まもなく訪れるAI社会では、「これなら自分の右に出る者はいない」というものをもっている人物が求められます。そういう人はすでに若手起業家として活躍中だったりしますが、彼らの共通点は「明るくてよく笑う」ということです。ここでは、笑いの意味や効能などについて、脳科学的に解説します。
脳の中には「扁桃体」という、感情をつかさどる神経細胞があります。喜怒哀楽のうちの「喜」や「楽」といった快感を得ると、ここが反応して、すぐ近くにある「前帯状皮質(ACC)」を刺激します。その結果として起こる現象が「笑い」です。
つまり、笑うということは、その本人が幸せであるというシグナルなのです。
おもしろいことに、このACCは痛みを感じたときにも活動します。そうすると、脳の中で「脳内麻薬」とも呼ばれるβエンドルフィンという、鎮静効果や幸福感が得られる物質が分泌され、痛みがやわらぐことがわかっています。
これらのことから、「笑い」というのは脳の中にもともと備わっている、自分自身をよい気分にしたり癒やしたりするための装置、言い換えればネガティブなことをポジティブに変える装置のようなものだと言えるでしょう。
私たちの祖先であるホモ・サピエンスはアフリカで誕生し、そこから南へ北へ、西へ東へとグレートジャーニーを続けながら進化を遂げてきました。その旅は、まさに未知との遭遇の連続。知らないものを目にしたり、初めてのことを体験したりするときは緊張し、不安や恐怖にかられます。でも、前に進みたい! このとき、「笑い」が大きな役割を果たします。人間は緊張、不安、恐怖を「笑い」で乗り越えてきたというわけです。
よく笑う子ほど、才能が開花する!
「笑い」は、子どもの成長と発達において重要な役割を果たします。
人間の子どもは、他の動物に比べて未熟な状態で生まれてくるので、大人になるまでに学ばなければいけないことがたくさんあります。毎日、緊張と不安にさらされますが、それを乗り越えなければ成長できません。
そこで、「笑い」が必要なのです。新しいことへの挑戦には失敗がつきもの。そこで「へへっ、失敗しちゃった!」と笑い飛ばせれば前向きに生きるエネルギーが生まれ、失敗を糧にすることもできます。
つまり、「笑い」が多ければ多いほどかしこくなり、可能性も無限大に広がり、楽しい人生を送れるようになるのです。
では、どうすれば前向きでよく笑う子になるのでしょうか。
それには、失敗したときに逃げ込める、あるいは欠点まで含めて自分をまるごと受けとめてくれる安全基地が必要です。「ここなら安全」という場所があってこそ失敗を笑い飛ばすことができ、困難に立ち向かうときも「失敗したって、あそこに戻れば大丈夫」と、リスクをとることができるからです。
そんな「子どもの安全基地」になれるのは、もちろん親です。特に幼い子は、「お母さんが、いつ何があっても自分を受けとめてくれる」とわかっていれば、どんどん新しいことにチャレンジしていけます。
たとえ失敗しても、お母さんが笑顔で受けとめてくれたら、「自分はがんばっている」「次はできる」と前向きに考えることができます。
ですから、わが子をよく笑う子に育てたいなら、お母さんは笑顔で見守り、子どもをいつでも、まるごと受けとめてあげることが大切なのです。