子どもの自己肯定感を伸ばす「上手な目標設定」のコツ

平岩国泰(放課後NPOアフタースクール代表)

難関大学に合格しても、一流企業に就職しても幸せになれるとは限らない時代であることは、親自身も体験から気づきはじめている。それゆえに「子どもの自己肯定感」が注目されている。

子どもが本当に幸せになるには、”自発的に幸せをつかむ力”が必要となる。自己肯定感を高めることで、コミュニケーション力が養われ、チャレンジ精神も備わってくるという。

放課後NPO法人アフタースクールで、5万人の子どもと向き合ってきたNPO代表・平岩国泰氏が、自著『子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門』にて、自身の経験から子どもの自己肯定感を引き出す具体的なメソッドを紹介している。

ここでは、同書より子どもの自発性を育てるための「目標設定」について触れた一節を紹介する。

※本稿は平岩国泰著『子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門』(夜間飛行刊)より一部抜粋・編集し、2019年10月にWEBサイト「PHPオンライン衆知」に掲載されたものです

【著者紹介】平岩国泰(ひらいわ・くにやす/特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール代表理事)
1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。30歳のとき、長女の誕生をきっかけに“放課後NPOアフタースクール”の活動を開始。2011年会社を退職し、日本の子どもたちの「社会を巻き込んだ教育改革」に挑む。“アフタースクール”は活動開始以降、5万人以上の子どもが参加。グッドデザイン賞を過去に4度受賞、他各賞を受賞。2013年より文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年より渋谷区教育委員、学校法人新渡戸文化学園理事。 2019年より同学園理事長を務める。

達成感が得られないとチャレンジ自体に嫌気がさすことも

子どもの自己肯定感を下げる要因のひとつに、「高すぎる目標設定」があります。 目標を立てることは大切です。どこに向かっているかを見失わずに、努力し続けることができるからです。

一方で、私たちの多くが「高い目標を立てすぎている」と私は考えています。

最終的に高いゴールを目指すのは悪いことではないのですが、「親子で無理な目標を立てたものの、達成できなかった」といった経験ばかりが積み重なると、ただただ 子どもの自己肯定感が下がってしまう原因にもなります。 「そうしたとき、経験の少ない子どものほうが、より失望感を味わうこともあるでしょう。   

さらに良くないことに「うまくいかなかった」「努力したのに報われなかった」という経験が続くと「目標」はしょせん「達成できないレベルに設定する絵空事」である、というマインドセットになってしまいます。

では、どうすればいいのか。

何かに挑戦するとき、私たちはつい大きな目標を立てないといけないような気持ちになりますが、じつは、すぐに達成できそうな目標を立てるほうがいいのです。

小学生くらいの年代で最も必要なのは「学び続ける姿勢」を身につけることだと、私は考えています。

それはすなわち「挑戦する」→「成長する」→「承認される」という成長循環プロセスを体に覚え込ませる、ということにほかなりません。

そのためにも、あまりに遠い目標ではなく、身近で短期間の目標を立てる方がいいと私は考えています。

 

100%できるとわかっていることをあえて目標にする

子どもが挑戦をし続けることに意義があるので、目標のハードルを上げすぎて、達成感がなかなか感じられなかったり、取り組むこと自体に嫌気がさしてしまっては、元も子もありません。

ですから、本当にはじめのうちは「最初からできるとわかっていることを目標にして、できたら認める」のが最善の方法です。

私は野球が好きなのですが、ヤンキースや広島カープで活躍した黒田投手は、以前目標を達成するための秘訣として「目標を低く設定する。それをクリアする。またすぐ立てる」と言っていました。

高い山を登るときに、一気に頂上を目指す人はいませんよね。どんなに体力や才能があっても、必ずどこかで息切れしてしまいます。「1合目ごとに到着時間を決める」というふうに、必ず、目標をブレイクダウンさせることが必要です。 

そうやって自分の体力を踏まえてペースを保ち、登り続けられた人だけが頂上にたどりつくのです。

「サッカー選手になること」を目標にするのではなく「明日の試合では最後まで しっかりと走ること」を目標にする。

レベルが上がってきたら、「リフティングの回数を増やすこと」や「次の試合で 誰よりもボールに触ること」を目標にしてもいい。大きすぎたり、遠すぎたりする目標を「では、今は何をしたらいいのか?」という視点で組み直すのです。

あくまでも「今の自分に適切な目標」を決めてクリアすることを繰り返す。その繰り返しが身につき、自分でごく自然にできるようになれば、しめたものです。親のアドバイスを受けなくても、「今、何をすべきか?」と、自分の成長プログラムを自分自身で考えていくようになるでしょう。