子どもの悩みの根底には、実は夫婦間の問題が隠れていることが多いのです。子どもを健やかに育てるために、親が気をつけるべきことについて脳科学的に解説します。

 

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子どもは親の話し方を見ている!

子どもにとって、お父さんとお母さんは圧倒的な力をもつ存在です。よくも悪くも、子どもは親の影響を強く受けるのだということをしっかりと認識しておきましょう。特に親が発する言葉や会話によって、子どもは「人間の見方」を身につけていきます。

たとえば親が、学歴や勤めている会社、社会的な地位だけで人を判断するような話をしていれば、子どもも同じように、人の価値を表面的なことで決める人間になってしまうでしょう。

また、お母さんがお父さんのいないところでお父さんの悪口を言ったりするのも(もちろんその逆も)絶対にいけません。安全基地であるはずの親が、夫婦で陰口を言い合っていたら、子どもは不安に陥ります。
当然のことですが、子どもの目の前で夫婦ゲンカをするなど、言語道断です。子どもは安全基地を失うわけですから、脳の発達が妨げられることは間違いありません。もしもケンカをしてしまったら、仲直りするところまでを子どもに見せるのが大事です。

子育て方針をめぐる夫婦間の意見の対立も問題です。子育てについては、人それぞれに違った考え方があっていいと思いますが、お父さんとお母さんで方針が違ってしまうと、子どもはどちらの言うことに従えばいいのかわからず、非常に混乱します。
わが子にどのように育ってほしいか、夫婦でよく話し合い、方針を一致させましょう。

今のうちに育てたい「脳の土台」とは?

子どもがやがて社会に出て活躍するために育てておきたい能力は、大きく分けて2つあります。1つは、読み書きや計算といった認知的な能力。もう1つは、他人と円滑なコミュニケーションをとれる、いわば社会的な能力です。

これら両方の能力を育むことがとても重要なのですが、日本では「勉強ができる子に育てる」ということばかりにフォーカスしがちです。I Qが高くても人間関係をつくれなければ宝の持ち腐れで、社会で活躍することができません。勉強も大切ですが、特に幼児期は意識して社会的スキルを育みましょう。
そのために、さまざまな考え方や個性に触れることが大事です。日頃から年齢の違う子たちと遊ぶ機会をできるだけ多くもつといいでしょう。

また、脳の成長と発達には「安全基地」も必要です。脳は新しいことが大好きで、未知のことに出合うと、ドーパミンというやる気のもとのような物質が出ます。このドーパミンは「不確実性」が大好きで、できるかどうかわからないことに出合ったときにたくさん分泌されますが、その一方で脳は「きっとできる。大丈夫」という安心感とのバランスをとりながら発達していくのです。

子どもにとっての安全基地は、お父さんとお母さんです。親が「何があっても自分を受け入れてくれる存在」であれば、子どもはどんどん新しいことに挑戦し、たとえ壁にぶつかったとしても乗り越えていきます。子どもの脳を健やかに育てるために、わが子の欠点まで含めて、丸ごと受けとめてあげてください。

育脳にいい話し方、悪い話し方

子どもの安全基地として、親は言葉遣いや話し方にどんな注意が必要でしょうか。
まずは、「あなたはダメね」などと子どもの存在を否定する言葉を使ったり、子どもが何かに夢中になっているときにそれを邪魔するような、たとえば「そんなこと、将来、役にたたないわよ」などという言い方は絶対にやめましょう。

育脳のためには、子どもが何かに夢中になったら、黙って見守っていることが大事です。そして、何かにチャレンジしたタイミングで「がんばってるね」「やるじゃん!」など、背中を押すようなひと言をかけてあげるといいでしょう。
そして、失敗したときは「まあ、そんなこともあるよ。またチャレンジすればいいよ」となぐさめ、励ますような言葉をかけてあげましょう。そのとき、「~しなさい!」と命令したり、親の考え方を一方的に押しつけたりしないことが重要です。

子どもは、面白そうなことや楽しそうなものを前にすれば、命令されなくても自分からやり始め、すぐに熱中します。この、「熱中する」ことで脳の集中する回路や記憶回路がきたえられるのです。その意味では、子どもが何に興味をもっているのか、何に熱中できそうかを日頃から観察していることが大事です。
「最近、お友だちの間では何がはやっているの?」などと質問するのもいいですね。子どもが夢中になって話し始めたら、それはきっと熱中できることです。そうしたら親は、「熱中し続けられる環境」を整えてあげましょう。

夫婦間の会話はこうしよう!

最初にお話ししたように、子どもは親の影響を強く受けますから、お父さんとお母さんが、お互いを思いやる会話をしていることも大切です。

結婚してしばらく経つと、どうしてもなれ合いになって相手への配慮が欠けてしまいがちですが、夫婦といえどもお互いに独立した人格です。相手を尊重し、最低限の礼儀はわきまえたいものです。
たとえば、夫が妻に対して(もちろん、その逆の場合でも)「ごはん、まだ?」とそっけなく言うのではなく、「そろそろごはんにしない? 何か手伝おうか?」と話す、というような気遣いです。小さなことですが、子どもは親のそうしたやりとりを見て「相手を思いやる」ということを学んでいきます。

また、「ありがとう」など感謝の気持ちを表わす言葉も、きちんと口に出しましょう。最初は照れるかもしれませんが、子どもの未来のためと思えば、たやすいことではないでしょうか。

日本では昔から「あうんの呼吸」といって、お互いに「言わなくてもわかる」ことがよしとされてきましたが、海外では通用しませんし、日本人の感覚も欧米化しつつあります。これからの時代、子どもたちが国際的に活躍することも考えると、「自分の考えや気持ちをきちんと言葉にできなければ相手に伝わらない」ということを教える必要があります。

家庭の中に、思いやりや感謝の気持ちを表わす言葉があふれていれば、子どもにとってもそれがあたりまえになりますし、きっと親子関係、夫婦関係にもよい影響があるでしょう。

 


 

「PHPのびのび子育て」12月号より

 

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本記事は、「PHPのびのび子育て」2019年12月号特集【子どもをキズつける話し方・伸ばす話し方】より、一部を抜粋編集したものです。

【著者紹介】
茂木健一郎(もぎけんいちろう)
脳科学者。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経てソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京大学・日本女子大学非常勤講師。著書に、『これからの未来を生きる君たちへ』(PHP研究所)など多数。