親が子どもを急かしてしまう理由

石川結貴

思いがけず届いた我が子からのメッセージ~ある親子の事例

ご紹介する親子のエピソードから、あなたは何を感じるでしょうか。

さまざまな背景を考えると、「早さ」にとらわれるのは仕方がないとも言えます。けれどもその結果、家庭はピリピリ、親子関係がギクシャクしては心穏やかではいられません。どうすれば子どもを急かさないでいられるか、またお母さん自身の焦りを減らせるのか、私の取材例を紹介しましょう。

5歳の男の子を育てるAさんは会社員として働きながら、家事に子育てにと奮闘していました。出張の多い夫はあてにできず、いわゆる「ワンオペ育児」です。

早朝に起床し、ひと通りの家事を済ませ、子どもを保育園に送ったら小走りで出社。仕事を終えたら一目散に保育園に向かい、子どもを連れてスーパーへ駆け込みます。食材を手に急ぎ足で帰宅すると夕食に入浴、子どもの歯みがきや保育園の連絡ノートのチェックなど、息つく間もありません。

Aさんは髪を振り乱さんばかりの勢いなのに、子どものほうはおっとりタイプ。何をするのも時間がかかるため、「早く歩いて!」「急いで食べなさい!」と、毎日のように急かしていました。

まだ小さいからゆっくり

ある日の帰宅途中のこと、いつものように急ぎ足で歩くAさんがふと横を見ると、ついてきているはずの子どもがいません。慌てて探すと、子どもは今来た道の途中でしゃがみこみ、散歩中の子犬をさわらせてもらっているようでした。早速、子どもに近づいて、「ほら早く。ママ行っちゃうよ」と口走ったAさんに、思わぬ声がかかります。 

「よかったら、お母さんも遊んでいって」。そう言ったのは子犬の飼い主の女性でした。

遊ぶヒマなんてないのになぁ、と思いながら、飼い主の手前、邪険な態度も取れません。Aさんは子どもと一緒に子犬をなで、しばらく散歩につきあうことにしました。
すると、飼い主の女性がこう言います。

「まだ小さいから、ゆっくり歩いてもらうんだけどいいかしら?」

子犬のペースに合わせてくれるよう頼まれたAさんは、ハッとしました。「まだ小さいから、ゆっくり」という言葉が、我が子からのメッセージのように胸に刺さったのです。そうしてゆっくりと歩みを進めたAさんは、わずかな遊びの時間さえ許せなかった自分、子どものペースを忘れていた自分に気づかされました。

Aさんのエピソードからは、日常を別の視点で見ることの大切さが浮かび上がります。たとえば歩くという行為なら、「早く」と子どもを急かす前に、大人と子どもの歩幅の違いを思い出してみましょう。親の1歩が子どもにとっては3歩分、そう考えれば少しくらい待つことができるはずです。

子どもの歩調に合わせて、周りを眺める心のゆとりを

のんびりする時間は「無駄」ではなく、そこから得るものがあるかもしれません。

先のAさんは帰宅後、子どもと子犬の話題で盛り上がり、久しぶりに心から笑える時間をもてました。「犬がほしい」という子どもに、将来飼うことを約束し、そのためにどんな準備が必要かを話して聞かせました。すると子どもは「がんばる」と言い、片づけや着替えなどに率先して取り組むようになったのです。

「まだ小さいから、ゆっくり」、ときどきは、そんな言葉をつぶやいてみましょう。子どもの歩幅に合わせてゆっくり歩き、周囲の景色を見てみましょう。

昨日までの焦りが、今日はあらたな発見に変わっていくかもしれません。

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