親が子どもを急かしてしまう理由

石川結貴

時代が変わっても、親に求められることは変わらず、逆にやることは増えている……。子どもに早くと言ってしまうのは、ある意味仕方がないことなのかもしれません。

※本記事は『PHPのびのび子育て』は2021年5月号より一部抜粋・編集したものです。

【著者紹介】石川結貴(いしかわゆうき)
作家・ジャーナリスト。家族・教育問題、子育てなどをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに執筆、講演などを行ない幅広く活動中。私生活では2人の息子の母。著書に、『お母さんと子どもの愛の時間』(花伝社)など多数。

こんな社会だから……

料理の時短レシピ、掃除なら時短ワザ。このところ「時短」という言葉がよく聞かれます。実際に試して効果を実感し、うれしくなる方もいるでしょう。

一方で、いつも以上に時間がかかると不安になることも増えています。典型的なのがネット環境やスマホの操作。アプリの起動が遅いとか、SNSでメッセージを送った相手から返信がこないとか、ほんの数分でも「待てない」となりがちです。

遠く離れた人ともすぐに対面できる便利な世の中

とにかく早いほうがいい、遅いとついイライラする、こんな気持ちになるのにはいくつかの理由があります。1つは社会環境が「スピード重視」になっていること。たとえばピザのデリバリーなら、「30分」と「1時間」では顧客の満足度がまったく違います。

早さを可能にする物理的な環境が整ったことも大きいでしょう。ビデオ通話機能を使えば、遠く離れた人とでもすぐに対面できるため、わざわざ時間をかけて会いに行かなくても大丈夫。撮ったばかりの写真や動画を、たくさんの人と共有するのも一瞬です。

SNSで他の家庭が見えることで生まれる焦り

次に、情報化と可視化という要因です。情報量が増えるほど、内容を理解したり、それぞれの方法を比較したり、自分に合った選択をしなくてはなりません。スムーズにいけばいいですが、迷ったり悩んだりすると、やはりイライラが募ります。

特にSNSでは家庭や子育てに関する投稿から、よその子や、ほかのお母さんの状況が一目瞭然。発育に教育、遊びや友だち関係、日常生活までわかるため、「ウチの子は遅いのでは?」とか、「もっといい親にならないと」とか、否応なく駆り立てられてしまいます。
気づけば子どもを「早く、早く」と急かしたり、自分のほうも「あれも、これも」と抱え込みすぎたりするのです。

フル回転で動いても、理想通りにいかない毎日

そして3つ目は、理想と現実の乖離です。共働き家庭が増え、男女平等意識は高まり、「女性が輝く社会」などというスローガンも打ち出されます。

仕事に家事に子育て、その上いつもきれいで優しく明るくと、お母さんに対する期待値は上昇するばかり。

ところが、現実はそう簡単にはいきません。期待に応えようと思ったら毎日フル回転で、「輝く」どころか疲労困憊。そんな自分に落ち込んでも、SNSで「スーパーママ」を目の当たりにすると、弱音を出しにくくなります。

一見うまくいき、がんばっているようでいて、心の奥では悶々としている人も少なくないでしょう。

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