【子育て体験談】小さな魔法つかい

読者からの体験談
2023.10.06 14:29 2023.02.01 16:36

頭をかかえる男の子

急な入院で5歳の子は初めてママと離ればなれに。泣きながら毎晩電話がかかってきていたけど…。

※本記事は『PHPのびのび子育て』(2012年11月号)に掲載され、WEBサイト「PHPファミリー」にて一部抜粋・編集の上で公開されたものです

「幸せ」を感じた瞬間

私がまだ、保育園に通っていた時の話です。繊細で自己主張の苦手な子どもだった私は、男の子によくいじめられました。彼らに意地悪をされ、ケガをして泣きながら帰ることがよくあったのです。そんな時はいつも、同居していた祖母が駆けつけてきて、優しくなぐさめてくれました。

ケガをしている場所を消毒し、絆創膏を貼ります。そして目をつぶり、そっと手をあててくれるのです。

「はい、お手当おわり。お婆ちゃんの魔法もかけといたよ」
「お婆ちゃん、ありがとう!」
そう言った頃には、不思議と痛みが消え、いじめられた悲しさも消えていました。

またある時は、お友だちとケンカをして沈んだ気持ちで帰宅しました。私の様子を見た祖母は何も言わず、ギュッと抱きしめてくれました。そして、シワシワの温かい手を私の胸にあて、
「今日は元気になれるように、心に魔法をかけよう」
と言うのです。

そんな祖母の言葉にほっとして、いつの間にか、私は笑顔になっていました。体の痛みを取るだけではなく、心の傷をも癒すような魔法を使ってくれた優しい心遣いは、今でも心に残っています。

それから数十年たった今、私は母親になりました。

息子が、ケガをして帰ったり、お友だちとケンカをして泣いている時は、祖母が私にしてくれたように、そっと手を息子の胸にあててきました。そして、「今からママが魔法をかけます」と言って、息子に笑いかけるのです。
「え! ママって魔法つかいなの?」
さっきまで泣きじゃくっていた息子が急に泣き止み、不思議そうに見ます。絵本にでてくる魔法つかいを思い出すのでしょう。そんな子ども心につけこんで「そうだよ~、実はママは魔法つかいだったのさ。ママの魔法はきくんだよ~」と言いきかせます。そうしているうちに、息子はケガをしたことや、ケンカをしたショックからいつの間にか立ち直ってしまうのです。

時には自分自身に魔法をかけることもあります。子どものしつけ方や、子育てでつまずいて落ち込んだ時は、自分で自分の胸に手をあてて一呼吸します。これで不思議と、不安な気持ちが落ち着くのです。

子どもが5歳になり、「ママ、魔法つかいならホウキで空飛んで見せて!」と無茶な注文をするようになった頃でした。息子の注文に、参ったな~と思っていた矢先に、2人目を妊娠していることがわかりました。そして、急に入院することになったのです。

今まで私と長い間離れたことがなかった息子は、大泣きで毎晩のように電話をしてくるようになりました。
「泣かないで、ママ頑張ってすぐに帰るね」と電話で言いきかせていると、息子は声をつまらせながら言います。
「ママ! 手を胸にあてて寂しくない魔法かけてるんだけど、ちっともきかないの……」
けなげな息子の答えに、思わず涙しました。

それから数日後、息子が私のいる病院へお見舞いに来ることになりました。電話越しに寂しそうにしている様子がえたので、心配でなりませんでした。元気がなくうなだれて入ってくると思っていたのです。でも。意外にも病室に来た息子は元気そうで、何やら自信のある様子です。「ママ。僕ね、魔法つかいになれたんだよ! ママにも魔法かけてあげるね」

エヘンッと照れながら笑い、私をギュッと抱きしめた後、小さな手をめいっぱい広げ、私の胸にあてました。小さいけれど優しいぬくもりに、涙がポロリと出ました。
「ママ? 僕がママのこと大好きな気持ち伝わった?」

どうやら息子は、私と離れていた間に祖母から伝わる『心の魔法』を覚えたようです。私は胸がいっぱいになりながら、「ありがとう」と言い、息子をギュッと抱きしめました。

私はホウキに乗って空を飛ぶような魔法つかいにはなれません。けれど、人の心を優しく温めてくれる、修行中の小さな魔法つかいをここに見つけることができました。

(白浜星、兵庫県)

nobico(のびこ)編集部

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