あきらめグセは6歳までに育つ! 乗り越える力の育て方

汐見稔幸(臨床育児・保育研究会代表)

「なんでも人任せ」「育い訳ばかりで何もしない」……。将来、子どもがこんな大人になってしまったら心配です。すぐ投げ出す子、あきらめる子にしないために、幼児期だからこそ大切にしたいことがあります。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2016年4月号に掲載されたものを一部抜粋・編集したものです

壁を乗りこえる力、ちゃんと伸ばせていますか?“あきらめグセ”は6歳までに育つ!

人生では、つまずくこと、うまくいかないことがたくさんあります。ちょっとしたつまずきが大きな心の傷となったり、「なんでこうなっちゃったんだろう」とネガティブな方向にばかり考えが向いたりしてしまう人は、失敗を恐れて新しいことに挑戦できなくなります。

また気力もなくなり、人の評価が過剰に気になって、場合によっては、ひきこもりになってしまう可能性もあります。では、子どもをそんなふうにしないためには、どうしたらよいのでしょうか。

失敗をする機会を奪わない

大事なのは、子どもにたくさんの「失敗」をさせることです。「うまくできるように配慮するのが親の役目」と考えて、子どものやることなすことに手と口を出す。「だから言ったでしょ!」が増える。こうした場面が多いほど、子どもは失敗を練習する場がなくなります。自らやることが減っていき、受け身にもなって、言われた以外のことはできない人間に育ってしまうのです。

社会に出たときに必要なのは、「レジリエンス」です。レジリエンスとは、失敗から上手に立ち直っていく力、回復力のことを言います。幼児期に、失敗を通してこのレジリエンスを磨き、うまくいかなくても「そんなこともあるよ」「また次がんばればいいや」「いい経験だった」と思えるような子に、育てていくことが大切なのです。

「へこたれやすい子」になる親のNG行動

何気なくしていることが、子どものやる気や続ける力を奪ってしまうことがあります。一度ここで、日頃の接し方を振り返ってみましょう。

○指示や規制が多い

子どもが興味をもったものに対して、「危ないから」「汚れるから」「うるさいから」とことごとく規制していると、好奇心の源が育たなくなります。また、子どものやることなすことに、「順番が違うでしょ」「これはこういうふうにやりなさい」と指示を出しすぎると、「お母さんを怒らせると怖い」「お母さんが言うようにやらないと叱られる」となり、自分のことを自分で決められない子になってしまうでしょう。

規制や指示が多いと、子どもの人生における主人公が、「子ども」ではなく「お母さん」になり、「自分はいろいろなことができる」という自己有能感、自尊感情がうまく育たなくなります。

○結果を評価する

4~5歳は、子どもが自己像をもち始める時期。この時期は、やった結果に対して、「ここがダメだったね」というネガティブな評価をするのも、「上手にできたけど、もっとうまくできると思うよ」という期待をかけるような評価をするのもよくありません。

お母さんが結果を評価することで、子どもの中に「できないと思われたくない」という気持ちが芽生え、失敗を恐れ、自ら挑戦できなくなる可能性があるからです。また「自分はまだダメ」「もっとがんばらないと認めてもらえない」と感じ、評価に過敏な子になってしまう危険もあります。結果ではなくプロセスをほめるようにしましょう。

○周りの目を気にしすぎる

お母さん自身が周りの目を意識しすぎて、「いい母親と思われたい」「ダメな母親と思われたくない」という気持ちをもつと、子どもを評価する場面が増えます。「お母さんと一緒にがんばろうね」という気持ちも強くなり、そこから「お母さんはこんなに努力しているのだから、あなたもそれに応えてちょうだい」という子どもへの要求や期待が高まり、自分の思い通りに動いてくれる「いい子」を求めやすくなります。

子どものほうも、親のそういった期待に応えようと自分を抑え、親の評価(理想)からはみ出すようなことが何もできない「いい子」となって、ちょっとしたことで挫折しやすくなるのです。

○失敗に対して感情的に叱る

壁に直面しても乗りこえていける「へこたれない強さ」を育むには、子どもの心の中に自分への信頼感がなくてはいけません。ちょっとした失敗、うっかりやってしまったこと、そんなつもりではなかったのにそうなってしまったことなどを、「なんでいつもそうなの!」「だから言ったでしょ!」と叱られてばかりいたら、子どもの心の中は、自分を否定する気持ちでいっぱいになります。 自分を責める気持ちや、「僕(私)はお母さんに嫌われている」などのネガティブな感情を心にためてしまうと、「○○っておもしろいな」「自分のことが大好き」といった前向きな行動に向かうエネルギーがもてなくなりま

「強い心」と「続ける力」を育てるための親の心がけ

子どもの中に「へこたれない強さ」を育んでいくために、親はどうしたらよいのでしょうか。 親が大切にしたい3つのことを紹介します。

【1】いっぱい共感しましょう

子どもが、「やった!」「うれしい!」と思っていることには、「やったね、すごいね!」「うれしいね!」、うまくできなくてションボリしていたら「悔しいね」「悲しいね」と共感しましょう。子どもの気持ちを感じ取り、寄り添いながら言葉をかけることで、子どもは安心し、次の一歩を踏み出すことができます。 うっかり失敗してしまったときにも、「そういうつもりじゃなかったんだよね」と言ってもらえたら、「次は気をつけよう」「もうやめよう」と、自分で自分を変えるカへとつなげていけます。共感されて育った子は、自分自身を肯定することができ、「自分はなんとかできる」という自信をもてるようになるのです。

【2】子ども自身に選択を任せましょう

親として、子どもにいろいろな体験の場、おもしろいことに触れる機会をたくさん用意しましょう。ただし、親がしていいのは、選択肢を用意することと、やりたいことを応援することだけです。やるかやらないか、何をやりたいかは子どもに決めさせてください。

「自分のことは自分で決めていく」場面が増えると、子どもの主体性が育ちます。自分のことは自分で選ぶという体験の積み重ねが、子どもの中に強い芯を育てるのです。もし失敗したとしても、「自分で決めたことだから仕方ない」と思えるようになり、「へこたれない強さ」へとつながっていきます。

【3】いろいろな人の子育て観を知りましょう

お母さん自身が孤立した子育てにならないこと、子育てを違う視点で見てくれる人と積極的に接することも大事です。価値観の似た人ばかりでなく、心配な気持ちに対して「大丈夫よ、子どもはそれでも育つんだから」と言ってくれる人、「そんなの子どもに任せればいいのよ」と大らかに構えている人など、自分とは異なる子育て観をもっている人ともつきあいましょう。

いろいろなタイプの人とつきあい、さまざまな子育て観を知ることは、子どもとの関わり方を見直す機会になります。少し年上の子育て経験者、祖父母世代の人と接するのもいいですね。自分自身の視野を広げることで、子どもの失敗も大らかに受け止められるようになるものです。

汐見稔幸(しおみ・としゆき)
2018年3月まで白梅学園大学・同短期大学学長を務める。東京大学名誉教授、日本保育学会会長、全国保育士養成協議会会長、白梅学園大学名誉学長、社会保障審議会児童部会保育専門委員会委員長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事。