個性を引きだす言葉がけ

汐見稔幸(臨床育児・保育研究会代表)

自分を「表現する」とは、自分の感情に言葉を与えていくこと。子どもの感性は非常に豊かです。しかし、使いこなせる言葉はそんなに多くありません。

無数にあって多様性を秘めている感情にどのような言葉を与えるのか。限られた言葉をどのように組み合わせるのか。言葉には、その子どもの個性や人間性が表れます。うまく言葉を創造できる子どもは、自分の気持ちをいつわらないで生きる、強い人間になります
その力をサポートするのが親の仕事です。では、どのようにしたら子どもの表現力を引き出せるのでしょうか。

今回は、汐見稔幸著『この「言葉がけ」が子どもを伸ばす!』から、そのヒントをお届けしていきます。

※本稿は『この「言葉がけ」が子どもを伸ばす!』(汐見稔幸著、PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです

「あら、ほんと。きれいね」――個性は、自分の感情に言葉を与えること

個性のある子に育てたい。そう思っている方は多いと思います。
ところで、個性って何でしょう。

ある問題については、こう答える。もっと聞かれたら、論理的にこう説明する。まるで想定問答集のように、大人が期待しているような答え方をする。そういう「おりこうさん」を私たちは個性的とはいいません。

むずかしい数学の問題が参考書のように解けたとしても、いま話題になっているニュースに対して、その人らしい意見を持たず、無難に答えるだけでは、個性的とはいえないのです。

個性というのはもっと身近なところに存在します。何だと思われますか?

それは、感情にどのような言葉を与え、それをどう表現するか、です。

感情というのは、宇宙のなかの星のように無数にあって、無限の多様性を秘めているものです。一人ひとりの違いは、その人の感じ方、感情の抱き方の違いです。「感じ方は人さまざま」なのです。

あなたはこんな経験がありませんか?
「うーん、そうなんだけどちょっと違うのよね」
「この気持ち、どんなふうに表現したらいいのかしら?」

私たちは、言葉ですべてが表現できると思いがちです。ところがそうではありません。言葉の数は限られているのです。それに対して感情のグラデーションは無限。的確に表現することなどできないのです。

ではどうするか? さしあたり子どもが「きれいね」といったら、素直に共感してあげればいいのです。「あら、ほんと。きれいね」。

子どもの感情を引きだすのも、お母さんの大事な仕事です。

「あら、風が気持ちいい!」
このような言葉を投げかけるだけで、子どもの感情は目を覚まします。「あっ、お母さんがそう感じているんだ。私(ボク)と同じだ」「そういえばそうだな」。そして、こんな言葉が子どもの口からでてくるとしたらどうでしょう。

「うん。なんだかウキウキするね」
お母さんは子どもの感情を言葉にするときのサポーターなのです。

「そうね。お母さんもウキウキしてきたな」
ここが、子どもの個性的表現を励ますことができるかどうか、親のウデの見せどころです。

【○】
「あら、ほんと、きれいね」
「あの鳥かわいいね。何ていう名前なのかな」
「風がとても気持ちいいね」

【×】
「何、わかんないこといってるのよ」
「しょうがないでしょッ」

「○」は、子どもの気持ちに共感したり、会話を促し、発展させる言葉をセレクトしたものです。「×」は、絶対に使ってはいけない、という意味ではありません。頭ではよくないとわかっているのに、つい口にだしてしまいがちな言葉です。

言葉は生きものです。あまり神経質にならずに、「子どもを伸ばす」「自信をつけさせる」言葉がけを考える際の参考にしていただければさいわいです。

汐見稔幸(しおみ・としゆき)
2018年3月まで白梅学園大学・同短期大学学長を務める。東京大学名誉教授、日本保育学会会長、全国保育士養成協議会会長、白梅学園大学名誉学長、社会保障審議会児童部会保育専門委員会委員長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事。


この「言葉がけ」が子どもを伸ばす!
言葉にはその子どもの個性や人間性が表れます。うまく言葉を創造できる子どもは、自分の気持ちをいつわらないで生きる、強い人間になります。その力をサポートするのが、お母さんの仕事です。本書は、その子の持ち味を活かした表現を引きだすコツや、素直に育つための会話のヒントを具体的に紹介。親子のコミュニケーションの手引きとなる一冊。