あかちゃんの発達心理学にハマった女性が楽しむ「おもちゃ人生」
アメリカ生まれのトイブランド「Sassy(サッシー)」をご存知だろうか? 1981年創業で、あかちゃんの発達をうながす知育おもちゃを世界45カ国で展開する企業である。
近年注目されているのが、このSassyが2016年より日本のみで展開し、全国のママから熱い支持を得ている「Sassyのあかちゃん絵本」。この共著者にあたる“Sassyの中の人”として活躍するのが、株式会社ダッドウェイの広報、石川美和子さんである。
そんな石川さんは、もともと、あかちゃんとは無縁のマスコミで活躍していたのだそう。それがなぜ、トイメーカーで絵本作りに携わることになったのだろうか? そこには「発達心理学の面白さ」があったという。
マスコミ業界から保育士への転職
現在私が在籍しているのは、Sassyの日本における正規代理店、株式会社ダッドウェイは育児用品を多くの輸入販売している企業。ですが、私自身はもともと、あかちゃんや育児まわりのお仕事を目指していたわけではありませんでした。
大学で音楽を学び、卒業後は新聞社に就職して、広告や広報の仕事に携わったものの、大学時代に取得した音楽の教員免許を生かしたいと、保育士を育成する専門学校に転職したのが、「あかちゃんの世界」と私の関わりのスタートでした。
といっても、あかちゃんそのものとの関わりではなく、保育園や幼稚園の先生をめざす人に歌やピアノを教える仕事です。
そのとき、やはり私自身ももう少し保育のことを知った方がいいなと思って、保育士の勉強をはじめ、あらためて保育士免許を取ったんです。
中でも、私が特に面白く興味を惹かれたのが、発達心理の分野でした。
例えば、あかちゃんは、生まれたときから「顔」が大好きで、生後数時間で「笑顔」を注視するとわかっています。
数ある哺乳類の中で、生まれて数時間後に自分で立つことを覚えて、お母さんのおっぱいを飲むことのできる馬など、他の動物に比べ、お母さんのお腹から生まれてきてばかりのあかちゃんは、1人では立つことも、食べることもできない存在として、自分を守ってくれる人を見るように、ちゃんとプログラミングされているんです。
お母さんやお父さんの顔を見つめるというコミュニケーションから愛着が形成され、最初はぼんやりと白黒の世界にしか見えなかったところから、だんだん色が見え……、輪郭も少しずつはっきりしてきます。
あかちゃんの発達心理学は、知れば知るほどおもしろい分野で、どんどん興味が深まっていきました。
たったひとつの「おもちゃ」との運命的な出会い
そんななか、運命的な出会いがありました。Sassy の「にこにこミラーラトル」という、たったひとつのおもちゃだったんです。
「ミラーラトル」は、あかちゃんが顔として認識しやすい、左右対称の笑顔のモチーフで、生後すぐからぼんやり判別できる白と黒や、最初に見えるようになると言われる赤色の、水玉模様が描かれています。
裏側は鏡状になっていて、のぞきこむと顔がうつります。あかちゃんは、鏡も大好きだし、自分の顔も大好きです。
これはもう、私にとっては「やられた……!」と思ってしまうくらいの衝撃な出会いでした。
このおもちゃひとつで、あかちゃんの発達心理学の授業ができてしまうほど「あかちゃんの発達っていうのはね……」と、デザイン、形、模様、色づかいにいたるまで、すべてにおいて発達心理学の見地から説明のつくものでした。
しかも、そんな教科書や教材にしてもおかしくないものであるのにも関わらず、おもちゃ自体、そのものが「かわいい」ことだったんです。この、双方が両立して存在することは大変な驚きでした。
保育士の試験も無事に受かり、保育士と広報の仕事、どちらも好きだけど、これからどんなふうに働いていこうかなと思ったとき、Sassyの代理店であるダッドウェイがスタッフを募集していると知りました。
「にこにこミラーラトル」を知った際にSassyのアメリカ本国では、あかちゃんの発達心理学の専門家もスタッフとして参画し、エビデンスをきちんと取った研究の上、発育を促すおもちゃを多数開発していることは知っていました。
そんなSassyの仕事なら、保育士とPRの仕事、その両方の経験が生かせるのではないかと思って、ダッドウェイに入ったのです。
PRの立場で販路を開拓し、人気商品の“生みの親”に
PRの立場として考えたのは、Sassyのおもちゃをおもちゃとして売るだけでなく、Sassyをより知っていただくためにもライセンス事業を展開して、何かもっと他の商品にできないかな? ということでした。
そんなふうに思っていたタイミングで、「絵本を作ろう」という出会いやきっかけが生まれ、2016年に刊行されたのが『Sassyのあかちゃん絵本 にこにこ』です。
先にお話ししたガラガラ「にこにこミラーラトル」や歯固めの「カミカミみつばち」といった、これぞSassyとも言える定番のアイテムを絵本に登場させてみたところ、「あかちゃんが自分で選ぶ」と、評判もよく、いまでは8冊の絵本と、1冊の布絵本で、累計68万部のシリーズに育っています。
それに、これは考えてみたら当たり前のことかもしれませんが、販路が開拓されました。もともとはおもちゃですから、書店での商品展開がなかったんです。
Sassyの「顔」がおもちゃ売り場だけでなく、書店に並ぶようになり、普段はおもちゃ売り場に足を運ばない方にも、より多くの方に知っていただけたことも、絵本を作って良かったことだと思います。