乳幼児期に見られる「ASD・ADHDの子どもの言動」とは?

岩波明
2024.04.14 10:15 2024.01.15 11:50

岩波明『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』

最近になり、「発達障害」という言葉が広く認知され、関連する書籍やテレビ番組など、各種コンテンツが数多く発信されています。このこと自体はプラスに捉えるべきでしょう。

ただし、当事者や彼らを取り巻く家族、関係する人々の実感としては、「いまだに十分な理解が得られていない」もしくは「サポートをするうえで、よくわかっていない部分も実は多い……」というところでしょう。

今回は、精神科医として発達障害の子どもたちへの臨床経験も豊富な、昭和大学医学部教授の岩波明医師による新著『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』より、「乳児期・幼児期に、どんな言動が見られるのか?」についてご紹介します。

※本稿は岩波明著『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書)から一部抜粋・編集したものです

「この子は他の子とは違うかも」と気づくきっかけ

お絵描きする子どもたち

我が子の遊ぶ姿を見ながら、「ウチの子はちょっと変わっているかもしれない」と感じた。クラスの子どもたちの中で「○○ちゃんはときどき変わった行動をするよね」と言われることがあった。

そんなふうに、子どもの「言動に対する違和感」をきっかけにして、自治体の窓口に相談したり医療機関を受診したりすることによって、発達障害と判明することがよくあります。

では、発達障害の子どものどのような言動から、周囲は「この子は他の子とは違うかも」と気がつくのでしょうか? これについては、何か決定的な要因というものがあるわけではありません。

・「この言動が見られたら(見られなかったら)発達障害である」というわけでは決してない
・発達の段階には個人差があり、年齢との関連はあくまでも目安に過ぎない

ということをあらかじめお断りさせていただきつつ、いくつか挙げてみます。

乳児期(0歳~1歳まで)にはどんな特徴が見られる?

の画像1

乳児期は、大人とのコミュニケーションの際に抱く違和感が、気づきのきっかけとなります。ただしこの時期には明確な症状はなく、診断をつけることは難しく、診断がついたとしてもその後変更になることもまれならず見られます。

ASD(自閉症スペクトラム障害)において挙げられるのは、対人関係における障害で、「視線が合わない」ことや「人の顔を見ながら反応を確認しようとしない」ことなどが特徴的です。

人は生まれながらに他人の顔に注意を向ける傾向にあり、生後3~5ヵ月の早い段階から視線を合わせ、見つめることができるようになるのが一般的です。

そのため、「視線を合わせる」「親の顔を見る」というきわめて自然な行為が見られないことには違和感を覚えます。

キーワードは「ジョイント・アテンション」と「指さし」

子どもの人差し指

「ジョイント・アテンション(共同注意)をしない」点も気になる行動の1つです。

「ジョイント・アテンション」とは、他者の視線の先を見る行動のことです。「親が『あそこにワンワンがいるね』と言ったら、親の視線の先にいる犬を見る」、あるいは「親が読む絵本を一緒に見る」などがこれに該当します。

赤ちゃんは言葉を操ることができないかわりに、周りの人の視線の先を見て、その気持ちを察しようとしているわけです。

ジョイント・アテンションは、人見知りなどと同様に社会性発達の重要なステップで、生後7~8ヵ月頃からできるようになるのが一般的です。

あるいは、「指さしをしない」。赤ちゃんは、生後9〜10ヵ月頃から「あっ! あっ!」と言いながら空間やものを指でさし始めます。言葉で表現できない分、指さしを通じて自分の関心を共有したり、何かを要求したりするのです。

このような、「ジョイント・アテンションをしない」「指さしをしない」といった傾向も、ASDの特性がある子に見られることの多い特徴です。

ASDにおいては「我関せず」、あるいは「人に対して興味が薄い」面があり、他人と感情や関心を共有したいという気持ちが少ないからだと考えます。

幼児期(1歳~小学校就学前まで)にはどんな特徴が見られる?

草原を歩く親子

言葉をしゃべり、体を動かすことが乳児期よりもはっきりとしてくる幼児期には、子どもの言動に対する違和感も顕著になってきます。

1つは、「言葉の発達が遅れる」。これもジョイント・アテンションや指さしと同様、ASDのお子さんによく見られる言動です。

赤ちゃんは1歳になるまでは「あー」「うー」などの母音から始まる言葉(喃語)を口にし、1歳を過ぎると「ブーブー」など意味のある言葉をしゃべるようになると言われています。

そして、2歳を過ぎると「パン ちょうだい」「ママ おもちゃ とって」など、2~3語の文章(2語文、3語文)をしゃべるようになるのが一般的です。

3歳頃を過ぎても言葉が出ない場合などは、発達障害を疑うことになりますが、言語の遅れが知的障害によるものなのか、ASDなどの発達障害によるものなのかは、この時点では判別が難しいところです。

言葉の遅れを取り戻していく発達障害の人たちもいる!

積み木をする男の子

ASDで知的能力が高いケースにおいては、3歳までしゃべらない場合でも、その後にぐっと伸びて言葉の遅れを取り戻していく人が大半です。

実際、ASDの特性を持つ人たちに子どもの頃の話を聞くと、「自分は3歳まで一切しゃべらなかった」という人も見られます。

一方でASDの中でも、古典的な自閉症(カナー型の自閉症)においては重度の知的障害を合併することも少なくないため、注意が必要です。

ASDにおいては、言葉の独特の使用法を示すことがあります。独特の声の調子、単調な話し方、奇妙な言葉のリズムが見られるほか、反響言語(オウム返し)や奇声も認めます。また、呼びかけに反応しないケースもしばしば見られます。

この他、ASDにおいては、奇妙な動作(手の甲を見せながらバイバイするなど)や、リズミカルに繰り返す動き(手をひらひらさせるなど)、さらに特定のものへの強い興味を示すことがあります。

この場合、興味の対象となるものは通常は「生物ではないもの」で、乗り物、幾何学的な模様、数字、文字などが挙げられます。時計の振り子をいつまでも見ている子どももいました。

岩波明

1959年に横浜市生まれ。東京大学医学部医学科卒業。専門は「精神生理学」。東大病院精神科、ドイツ留学を経て、埼玉医科大学、東京都立松沢病院において、重症例を含む様々な分野の診療にあたる。うつ病の薬物療法、統合失調症の認知機能障害、精神疾患と犯罪、司法精神医療等、幅広いジャンル、疾患に対応する。2008年に昭和大学医学部精神医学講座准教授に就任、2012年に同大学精神医学講座主任教授を経て、2015年昭和大学烏山病院病院長に兼任。多くの臨床経験からリアリティ溢れた症例を紹介、現代社会の様々な現象に鋭く切り込み、多数のベストセラーを創出している。著書に『発達障害』(文春新書)、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?』(光文社新書)、『発達障害という才能』(SB新書)等がある。

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発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか(SB新書)
発達障害の専門医であり、現場での臨床経験も豊富な岩波明医師による、当事者目線での丁寧な解説をお読みいただけます。代表的な発達障害として、ASD・LD・ADHDを章ごとに取り上げています。また、各章の末には実際の患者さんの事例を匿名でご紹介。「こんなケースがあるんだ!」「周囲はこうやってサポートすべきなのか」「逆にこういう接し方はあまりよくないのかもしれない...」などと、たくさんの気づきが得られるでしょう。