発達障害の子に遅刻が増えるのなぜ?「早く寝ればいい」では解決しない睡眠の問題

岩瀬利郎
2023.12.14 14:41 2023.07.03 11:50

発達障害の人が見ている世界

まだ幼いのに夜更かしをして、朝はなかなか起きない…。一見怠惰なだけのように思いがちな子どもの生活習慣も、実は発達障害が原因となっているかもしれません。発達障害の子によくみられる「睡眠の問題」について、精神科医の岩瀬利郎さんが解説します。

※本稿は岩瀬利郎著発達障害の人が見ている世界(アスコム)から一部抜粋・編集したものです。

色々な「当たり前」がわからず、うまく振る舞えない

発達障害の人に遅刻が多いことはよく知られた事実です。これは多くの人が合併している睡眠障害に伴う朝寝坊や、注意散漫、そして準備の優先順位がわからなくなるなど、特有の性質に起因していることは間違いありません。

また、部屋の中やデスクの上が片付けられず、物が散乱した状態になってしまうという現象も、注意散漫や衝動性に原因を求ことができます。

お風呂に入れなかったり、電車、特に地下鉄に乗れなかったりするのは、ASDの人に見られることがある感覚過敏が原因かもしれません。

このように、定型発達の人が「当たり前」と思って平然とこなしているにもかかわらず、発達障害の人がしたくてもできない多くのことの背景には、本人なりの理由、そして努力ではどうにもならない特性があることが多いのです。

そしてそれらの諸問題は、ちょっとした工夫や働きかけによって、かなりの部分、解決できることもあります。

具体的な問題に対しては、具体的な方法で素早く対応しましょう。そうしたフットワークの軽さも、発達障害の人と心地よく暮らしていくためのコツなのです。

朝なかなか起きられない一方で、夜はいつまでも寝られない

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発達障害の人に睡眠障害を併発していることが多いのは間違いなく、約4〜6割の人に見られます。ADHDのMさん(21歳・男性)もその一人。毎朝なかなか起きられず、起きたあとも午前中はほとんどぼーっと過ごしているようです。

発達障害の人は夜型の傾向が強く、夜は意欲旺盛で、眠らずに色々な活動をしがちですが、朝になるとすっかりやる気を失っていることが少なくありません。Mさんも毎夜、遅くまでゲームやSNSをやり続けてしまうことが多いようです。

睡眠の問題は子どもにも見られます。Kちゃん(8歳・女子)も夜はなかなか眠くならず、日中眠くなる傾向にあるようです。子どもの場合は、睡眠障害から不登校になったり、授業中に寝てしまったりという問題につながります。

つい周りは「早く寝ればいい」と安易に解決策を考えてしまいがちですが、簡単ではありません。多動や過集中、感覚過敏などからくるストレスや、生活習慣の乱れが原因と推測されるからです。また、脳機能に起因するのではないかという説も注目されています。

「まだ小学2年生なのに夜更かしで朝は起きられません…」
小学2年生のうちの子は、毎朝起こすのが大変。大きな声をかけても一度で起きることはなく、ついイライラしてしまいます。逆に夜はなかなか寝たがらず…。とうとう、学校でいつも眠そうにしていると先生から連絡がありました。勉強に遅れがでないか心配です。(8歳・女子Kの母)

 

アプローチしやすい対策は生活習慣の改善

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発達障害の人の睡眠障害は、多くの場合、特性からくる生活習慣の乱れ、つまり二次障害です。そのため、私は大人にも子どもにも、まず生活習慣の改善を提案します。

早寝早起きや規則正しい食事、運動習慣などによって生活リズムを整えること、照明を暗くするなど寝室の環境を変えること、入眠の儀式を持つことなどで、睡眠の質を改善していきましょう。

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それでも難しいようであれば、睡眠専門外来などを受診させることです。子どもの場合は、自治体の保健センターや小児科に相談しましょう。睡眠障害を軽く見てはいけません。

睡眠不足からくる神経の乱れが発達障害の特性を助長し、さらに睡眠障害がひどくなる悪循環におちいりかねません。発達障害の人ほど、良質な睡眠が必要なのです。

<ポイント>
・大人も子どもも、まずは生活習慣の改善を
・第三者機関を頼ることも考慮して
・発達障害の人ほど良質な睡眠が必要

岩瀬利郎

東京国際大学医療健康学部准教授/日本医療科学大学兼任教授。埼玉石心会病院精神科部長、武蔵の森病院院長、東京国際大学人間社会学部専任教授、同大学教育研究推進機構専任教授を経て現職。精神科専門医、睡眠専門医、臨床心理士・公認心理師。

発達障害の人が見ている世界

発達障害の人が見ている世界(アスコム)
これまで1万人以上の発達障害の人たちと向き合ってきた精神科医の著者が、発達障害の特性を持つ人、とりわけADHDとASDの人が"見ている世界"を紹介する一冊。理解に苦しむその言動も、本人たちが物事をどう受け止め、感じているのか、つまり"見ている世界"を理解し、その対応策を学ぶことで、ともに生きるのが楽になるはずです。