子どもの脳を育てる親の会話
※本稿は、『PHPのびのび子育て』 (2019年12月号)より抜粋・編集を加えたものです。
茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経てソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京大学・日本女子大学非常勤講師。著書に、『これからの未来を生きる君たちへ』(PHP研究所)など多数。
子どもは親の話し方を見ている!
子どもにとって、お父さんとお母さんは圧倒的な力をもつ存在です。よくも悪くも、子どもは親の影響を強く受けるのだということをしっかりと認識しておきましょう。特に親が発する言葉や会話によって、子どもは「人間の見方」を身につけていきます。
たとえば親が、学歴や勤めている会社、社会的な地位だけで人を判断するような話をしていれば、子どもも同じように、人の価値を表面的なことで決める人間になってしまうでしょう。
また、お母さんがお父さんのいないところでお父さんの悪口を言ったりするのも(もちろんその逆も)絶対にいけません。安全基地であるはずの親が、夫婦で陰口を言い合っていたら、子どもは不安に陥ります。
当然のことですが、子どもの目の前で夫婦ゲンカをするなど、言語道断です。子どもは安全基地を失うわけですから、脳の発達が妨げられることは間違いありません。もしもケンカをしてしまったら、仲直りするところまでを子どもに見せるのが大事です。
子育て方針をめぐる夫婦間の意見の対立も問題です。子育てについては、人それぞれに違った考え方があっていいと思いますが、お父さんとお母さんで方針が違ってしまうと、子どもはどちらの言うことに従えばいいのかわからず、非常に混乱します。
わが子にどのように育ってほしいか、夫婦でよく話し合い、方針を一致させましょう。
今のうちに育てたい「脳の土台」とは?
子どもがやがて社会に出て活躍するために育てておきたい能力は、大きく分けて2つあります。1つは、読み書きや計算といった認知的な能力。もう1つは、他人と円滑なコミュニケーションをとれる、いわば社会的な能力です。
これら両方の能力を育むことがとても重要なのですが、日本では「勉強ができる子に育てる」ということばかりにフォーカスしがちです。I Qが高くても人間関係をつくれなければ宝の持ち腐れで、社会で活躍することができません。勉強も大切ですが、特に幼児期は意識して社会的スキルを育みましょう。
そのために、さまざまな考え方や個性に触れることが大事です。日頃から年齢の違う子たちと遊ぶ機会をできるだけ多くもつといいでしょう。
また、脳の成長と発達には「安全基地」も必要です。脳は新しいことが大好きで、未知のことに出合うと、ドーパミンというやる気のもとのような物質が出ます。
このドーパミンは「不確実性」が大好きで、できるかどうかわからないことに出合ったときにたくさん分泌されますが、その一方で脳は「きっとできる。大丈夫」という安心感とのバランスをとりながら発達していくのです。
子どもにとっての安全基地は、お父さんとお母さんです。親が「何があっても自分を受け入れてくれる存在」であれば、子どもはどんどん新しいことに挑戦し、たとえ壁にぶつかったとしても乗り越えていきます。子どもの脳を健やかに育てるために、わが子の欠点まで含めて、丸ごと受けとめてあげてください。