子どもが荒れる原因と心を整える親の心得

宮里六郎

甘えたい気持ちを、我慢させすぎないようにしましょう

かいくんは、これまでお母さんを困らせるようなわがままを言いませんでした。でもやっぱり甘えたかったのでしょう。どんなにお母さんを思っていても、いつもいつも我慢できるわけはないのです。

まだ5歳なのですから。子どもが荒れる背景には、甘えたい気持ちと親を思う気持ちの板挟みの葛藤があるのです。

事情を聞いたお母さんが「よし決めた。かい!明日は、お母さん、早く迎えにくるわ」と宣言して浮かべた笑顔を、かいくんは心底ホッとした顔で見上げていました。

そして、かいくんもうれしそうな笑顔を浮かべたのです。自分の気持ちがお母さんに通じた喜びが、子どもの笑顔を引き出したのです。お母さんの笑顔は、子どもの最大の心の支えです。

運動会のかけっこでトラブルが起こった保育園


(※写真はイメージです)

親の子どもを思う気持ちが、知らず知らずのうちに競争社会を生み出し、結果的に子どもを追いつめてしまうことがあります。

ある保育園の運動会では、5歳児に「ひとりかけっこ」を採用しています。保育園の園児同士で競争して走るのではなく、ひとりで走るのですが、子どもたちは真剣です。そして楽しそうです。ゴールした瞬間、どの子も満足げな表情です。

実はその背景には、次のような子どもの姿があったのです。かけっこの練習をしようとしても集まらない、集まったかと思うとケンカが始まり、その間にまた誰かがどこかに行ってしまう。

さらに、一緒に走っても、自分より速かった子の襟首をつかんで引き倒すことまでが起こってしまったのです。1番になれないことは走らなくてもわかっているから、走りたくないのです。負ける姿を親に見られたくないのです。

「がんばれ、1番になれ」という親の期待を裏切るのは5歳児にだって心苦しいのです。だったらふざけてごまかすか、荒れるしかないのです。

競争に勝つことよりも、安心感を育てましょう

つまり、競争社会のひずみが子どもたちの心にも反映されているのです。こんな様子から、競走ではなく「走る」ことそのものの楽しさを伝えたいと、保育園では「ひとりかけっこ」に取り組みました。

競争しない安心感、負けない安心感、負ける姿を親に見られない安心感があると、安心感に支えられた意欲」が生まれ、自分が自分に挑戦できるのです。走ること、そのもの自体を楽しめたのです。

過度な競争社会に生きる子どもたちには、がんばれと励ますよりも、1番じゃなくても、今すぐできなくても大丈夫という安心感を育てましょう。

「見えない障害」への無理解で荒れるAちゃん


(※写真はイメージです)

あるお母さんが、アスベルガー症候群と診断されたAちゃんの様子を話してくれました。アスベルガー症候群は、社会性やコミュニケーション、想像力に障害のある軽度の発達障害のひとつです。

まだ発達障害だとわかる前にお母さんが「醤油はどこ?」と聞いたところ、Aちゃんは「ここ」と指さすだけでした。「醤油はどこ?」と聞かれた時、「近くに醤油があったら、お母さんが使うから取ってね」という意味が含まれていることが理解できなかったのです。

この発達障害は、知的な遅れも言葉の遅れもないのですが、相手の視点に立ちにくいのが特徴です。

軽度の発達障害は、外見だけではわかりにくいので「見えない障害」と言われます。周りの人も、何か少し変だとは感じながらも、それが障害だとは考えないのです。ですから、先のようなことが度重なると、お母さんの注意、叱責も多くなります。

しかし本人はどうしていいのかわからないし、どうせ私はダメなんだからと、自尊感情が損なわれ、荒れたり、キレたりするようになるのです。二次的にパニックや攻撃性が引き出されることもあります。

「けじめをつける子育て」より、「感謝する子育て」を心がけましょう

軽度の発達障害の子への対応は、医学的な正しい判断を仰ぐことはもちろん必要ですが、それ以上に大切なのは、むやみに叱責しないことです。私は、いいことはほめて、悪いことは注意するという「けじめをつける子育て」を見直す必要を感じます。

軽度の発達障害とわからないままに、けじめをつけるために注意、叱責すると、悪意はなくても子どもを追いつめてしまいます。できるかできないかを点検して、できないことを注意、叱責したり、できたことをほめるよりも、できないことに目をつむる「おおらかさ」が求められています。

そして、ほめたり叱ったりという「評価」より、子どもが何か親にしてあげようとしたその気持ちに「ありがとう」と感謝する子育てが求められていると思うのです。