開成の校長先生が語った「将来のリーダーになる子」の資質

柳沢幸雄
2023.10.18 14:49 2023.02.27 13:56

歴史に名を残すためには「知識と技能」だけでは足りない

見つめあう親子

2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、世界中で大きな混乱が生まれました。

このような事態を冷静にとらえ、持てる知識と技能で思考し、判断し、決断し、表現するリーダーとなる次世代の子どもたちを、私たち大人はひとりでも多く育てていかなければいけません。

それには、知識と技能があるだけでは不充分なのです。

たとえば、専門家委員会の情報やデータをもとに、新型コロナウイルスの対策として、感染が心配される期間の通学をどうするか、決断しなければならないとします。

・子どもはあまり感染しないし感染力も高くないから、学校は継続して開校し、子どもたちは注意して登校する
・まずは短期間の休校をし、情勢を見ながら都度休校か登校かを決めていく
・2カ月程度の十分な期間の休校をし、感染が下火になるまで開校しない

など、学業の遅れと感染拡大防止という相反する問題を抱え、どれがベター・セレクションなのかを、可能性を見比べながら決断しなければなりません。

実は、この決断が的確にできる人は、そうたくさんはいません。日本でも、長期間の休校を決めるときに、安倍晋三首相は大変悩んだと思います。

決断には責任が伴います。結果はあとで出ます。休校の問題も、これでよかったのか、結果は半年後、あるいは1年後、2年後にならないとわからないかもしれない。

決断がうまくいけば歴史に名を残すが、失敗すれば批判を浴び、消えてしまいます。

 

決断力を持てるリーダーは一握りしかいない

テストに挑む子ども

日本人は、決断が苦手な人が多い。周囲の人と調和しようと思いすぎるのです。また、決断による責任からも逃れようとします。だから、毒にも薬にもならないような、責任を取らなくていいような内容にとどめてしまう。

そうなると、決断による結果もまたたいした成果をあげず、予算をとってやってもお金の無駄ということにもなりかねない。

責任を負うところまで突き詰めて考える力を持ち、どんな結果でも責任を持つリーダーはごくごく少数しかいないのです。そこは、資質なのです。

しかし、ともあれ判断ができるところまでの力を持った子どもを教育する。それが、新学習指導要領の要かなめでもあるのだと、私は思っています。

新学習指導要領では、小学生、中学生、高校生に共通して 「思考力、判断力、表現力」を求め、これらの力がつくように教育します。その土台として、知識や技能を有することが必要でもあります。

私が育てるべきと考えている「リーダーの素養のある子ども」も、これによってある程度育つと考えています。学校で教師の講義を聴いて得た知識や技能は、リーダーの素養である判断力の根拠になるでしょう。

その上で、アクティブ・ラーニングとしてテーマを深め、プレゼンテーションで表現力を高め、プログラミング的思考で論理的、数値的にものごとを解釈し思考していく。

家庭でも、ぜひこうした視点を持ち、お子さんたちのリーダーとしての資質を磨いていってほしいと思います。

柳沢幸雄

柳沢幸雄

1947年生まれ。前・開成中学校・高等学校校長。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。71年システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。74年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに数回選ばれる)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て、2011年から開成中学校・高等学校校長を9年間務めた後、2020年4月より現職。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。