アダルトチルドレンの子育てのむずかしさ
「子どもと信頼関係を結ぶのがむずかしい」……そんな悩みを1人で抱えていませんか?お母さん自身が自分の生い立ちを振り返ることで、その原因を探れるかもしれません。
※本稿は、星野仁彦著『発達障害に気づかない母親たち』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
星野仁彦(児童精神科医)
福島学院大学副学長。医学博士。1947年、福島県会津若松市に生まれる。福島県立医科大学医学部卒業後、米イエール大学留学、福島県立医科大学助教授を経て、現在に至る。これまで一貫して発達障害や不登校などの研究・臨床に従事する。
主な著書に『『なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません』(PHP研究所)、共著書に『まさか発達障害だったなんて』(PHP新書)などがある。
人と信頼関係を結ぶのがむずかしい
アダルトチルドレン(AC)とは、「機能不全家族で養育されて大人になった人」のことです。これは、精神科の病気ではありません。
病気ではありませんが、パーソナリティ(人格)に軽度の偏り、あるいは未熟性があると考えられています。そして、大人になっても思春期の頃のような不安定さを抱えたままになることが多いのです。
1つ目の特徴は、自己評価(セルフイメージ)がとても低いことです。劣等感や自己嫌悪感が強く、自分を好きになれない人が多いようです。
2つ目の特徴は、親の前では「いい子を演じてしまう」こと。子どもの頃から、親たちのもめごとに心を痛めているうちに、自分のわがままが出せなくなるのです。
また、自分の感情、特に「イヤだ」という否定的な感情を表現するのが苦手で、親に喜んでもらえるような自分を演じ続けてだんだん心にゆがみが生まれてしまいます。これは、家族以外との人間関係づくりにも影響します。
3つ目の特徴は、特定の友人や恋人との関係が長続きしにくい傾向があることです。つまり、人との信頼関係を確立しにくいのです。原因としては、人間関係で必要以上に緊張する「対人恐怖」があること。嫌われたり、見捨てられたりすることを極端に恐れる「見捨てられ不安」が強いこともあります。
そのため、思春期、青年期になって、学校や大学、職場などで孤立しやすくなるのです。
ACは、タイプ別に次の5つに分類されます。
(1) 家族英雄タイプ:長子に多いタイプ。勉強かスポーツなどで好成績をあげることで、家族の外見をよく見せようとする
(2)道化者タイプ:おどけて道化者として振る舞うことによって、家族の抱えている問題から家族の目をそらせる
(3)なだめ役タイプ:家族の仲介役や、愚痴の聞き役をする
(4)スケープゴート(犠牲者)タイプ:第二子に多いタイプ。非行や不登校などを起こして自己が問題児になることで家族の問題を表現する、いわば家族の犠牲者
(5)ロスト・チャイルド(失われた子ども)タイプ:波風を立てずにひっそりとひとりでいることによって、家族の関心を自分のほうへ向けようとする
私が診察したなかで一番多かったのは(4)スケープゴートタイプですが、このタイプの兄や姉には、(1)家族英雄タイプが多く見られます。また、女性は比較的、(3)なだめ役タイプが多く、家族のストレスをひとりで受け止めて苦しむことが多いのです。
母親がACの場合、自分の子どもとも、どのように信頼関係を結べばよいのかがわからず、戸惑うことが多いものです。
また、虐待と同様に、幼少期に親から受けた経験を自分の子どもにも行ってしまうこと(世代間伝播)も少なくありません。自分がACかもしれないと自覚がある場合は、次の世代にくり返さないように、まずは自身がケアを受けてほしいと思います。
『発達障害に気づかない母親たち』(PHP研究所)
発達障害を抱えた人が母親になると、子どもとの愛着関係が結びにくいなど、子育てに影響することも多くあります。自分の発達障害に気づかず、なんだか生きづらいと感じている母親の方々が、自身をよく知って、もっとラクに幸せに生きるためのヒントをお伝えします。