乗り物酔いで“吐き気をもよおす”のはナゼ? 脳が騙されて起こる身体の反応

ニュー・サイエンティスト,西川由紀子,千葉和義

一晩に100回近くねがえりを打ってもベッドから落ちないのはなぜ?

大きな子どもや大人はふつう、ねむっているときにベッドから落ちない。数年前、エディンバラ大学の科学者たちが、その理由を調査した。でも、ねているあいだに何をしてるかなんて、どうしたらわかるの?

そこで科学者たちは、かんたんな装置を考えだした。ボランティアの参加者たちに、とても大きなマットレスの上にねてもらう。部屋をあたたかくして、かけ布団は使わず、ねているあいだにベッドのどこにいるのか感じられないようにした。

頭の位置は4パターン、鼻が左向き、鼻が右向き、鼻が上向き、鼻が下向き、のいずれかで記録を取った。実験で使った装置はそんなに複雑じゃない。ラグビーで使うスクラムキャップに、科学者がプラスチックの輪をぬいつけた。この輪には、ガラスの短い管がついており、体温計に使うのと同じ水銀が入っている。

また、ガラス管の壁には何カ所か、針が突き刺さっている。頭の向きにあわせて水銀がガラス管の中を動き、水銀が触れた針にだけ電気が流れるようになっていたので、夜じゅう、頭の向きが記録できるようになっていた。この装置を、脳波記録装置とよんだ。

でも、参加者が本当に熟睡しているかどうかは、どうやってわかったの?

これはとてもかんたん。夜間、10分ごとに小さな音が鳴るようにし、参加者には目が覚めて音が聞こえたら、服に取りつけたボタンをおしてもらった。

その結果、参加者たちは不規則な間隔でねがえりを打っていることがわかった。鼻が左向き、鼻が上向き、鼻が右向き、そしてまた元にもどるといったふうに。

でも、鼻が下向きになることは1度もなかった。つまり、ねがえりを打ちつづけることがないから、ベッドから落ちることはなかった。実際のところ、参加者は夜通し、ほぼ同じ位置でねむっていた。

では、小さな子どもはどうだろう? 子どもたちは、いつベッドから落ちなくなるのかな?

科学者たちも、小さな子どもに、このヘンテコなぼうしをかぶせはしなかったから、安心してね。その代わりに科学者たちは、小さな子どもたちがねているところを6時間以上観察した。

すると、子どもたちは時々、鼻を下向きにしていることがわかった。つまり、何度もねがえりを打ちつづけることになるため、ベッドから落っこちやすかったんだ。

どういうことかというと、わたしたちは幼いころに、鼻を下向きにしてねると呼吸がしにくいことを学ぶので、そうしなくなる。だから今夜も、安心してベッドでねむれるんだね。

すっぱいものや苦いものを食べるとヘンな顔になるのはなぜ?

食べると顔がゆがむようなものは、なるべく口にしないようにしてるよね。からだのためにも、ぜひそうすべきだ。

鼻をつくにおいのものやすっぱいものなど、気持ち悪いものを食べると、からだはいろんな方法で反応する。食べ物でからだを攻撃されたかのように、自然に防衛反応が起きることがある。

こうした反応は動物界にも見られ、太古の時代に起源があるのはほぼまちがいない(洞窟で生活していたわたしたちの祖先も、同じように反応していた!)。

しょっぱいもの、苦いもの、すっぱいもの、またはひどく危険な化学物質(自分のうんちとか)を口の中いっぱいにつめこまれたら、思いっきり口角を下げて、はこうとする。または、唾液を分泌して口の中をきれいにし、有害な物質をなるべくうすめようとする。

くちびるをすぼめて、何も口に入らないようにする、これらが自然な反応だろう。もし、そんなひどい化学物質を投げつけられたら、目をつぶって、顔の前にうでをかざすだろう。

そんなこと、絶対に起きてほしくないけどね。でも、そこまで危険でなくても、かなり不快な食べ物はどうだろう?

ピクルスやからしを食べると、顔がゆがんだり、身ぶるいしたりするよね。こんないろんな反応が今でもつづいているのは、「そうした食べ物を食べると不快ですよ」とほかの人たちに警告しているから。「ヘンな食べ物だよ! 気をつけて!」って。

『どうしてオナラはくさいのかな? 人に聞けない!? ヘンテコ疑問に科学でこたえる! 』(評論社)
人間が月に降り立ったことを証明する方法は?」「どうして魚はオナラをするの?」――。不思議にあふれたこの世界で、ふと抱いた疑問。「友だちや先生には聞きづらいな」とそのままにしてませんか? そんな「ヘンテコ疑問」こそ科学のトビラを開くカギなのです。

【西川由紀子】
大阪府生まれ。神戸女学院大学文学部英文学科卒業、立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修了。訳書に『理系アタマがぐんぐん育つ 科学の実験大図鑑』『理系アタマがぐんぐん育つ 科学のトビラを開く! 実験・観察大図鑑(』いずれも新星出版社)がある。

【千葉和義】
お茶の水女子大学理学部生物学科教授、サイエンス&エデュケーションセンターセンター長。生物学科の学生や大学院生たちと、ヒトデ卵の減数分裂と受精機構(発生生物学)を研究すると同時に、理科教育と科学コミュニケーションの振興活動に従事している。