子どもにとって「自立」って何?

成田奈緒子

「自立できる子」に育てるのは、子育ての大きな目標の一つです。では、そもそも「自立」とは一体何なのでしょうか。

※本稿は、成田奈緒子著『脳科学からみた男の子の「ちゃんと自立できる脳」の育て方』(PHP研究所)から一部を抜粋し、編集したものです。

成田奈緒子(なりた・なおこ/文教大学教授・小児科医)
神戸大学医学部卒業。米国セントルイス・ワシントン大学医学部へ留学後、筑波大学基礎医学系講師などを経て現職。子どもの脳の発達に合わせた育児論に定評がある。『早起きリズムで脳を育てる』(芽ばえ社)他著書多数。

自立の定義「周りの人に助けを求められる」

そもそも「自立」とは、どういうことを指すのでしょうか?広辞苑には、「他の援助や支配を受けず自分の力で身を立てること。ひとりだち」とあります。

皆さんも「子どもの自立」と聞くと、「自分のことは自分でできる」「自分でお金を稼いで生活する」といったイメージを抱かれる方が多いかもしれません。

確かにこれらは、自立のひとつの定義であると思います。しかし、それだけなのでしょうか?

あなたのこれまでの人生を振り返ってみてください。「他の人の力をまったく借りずに生きてくることができた」と断言できますか?

できませんよね。両親やきょうだい、学校の先生や近所の人、そして友人・知人……。さまざまな人たちの助けに支えられて、今のあなたがあるのではないでしょうか。人間は、自分の力だけで生きていくことはできません。

ですから、本当の「自立」とは、「自分ができないこと、助けてほしいことを、素直に他人に言えること」だと私は考えています。

新生児仮死の後遺症により、脳性まひの障害を持ちながらも、小児科医、大学教授として発達障害の研究などに取り組む熊谷晋一郎さんも、ご自身の立場をふまえ、こうおっしゃっています。

「人間は、物であったり人であったり、さまざまなものに依存しないと生きていけないのです。一般的に、『自立』の反対語は『依存』とされていますが、自立というのは言うなれば、たくさんの依存なのです」

自立とは、たくさんの依存―まさにその通りだと思います。子どものうちにたくさんの「困る経験」を重ねることが大切です。

そして、自分が困ったとき、困っていることをきちんと表明して助けてもらい、助けてもらったら「ありがとう」と伝えること。これが大切なのです。そしてそれが、自立へとつながるのです。

ところが、今のお母さんたちは、子どもが忘れ物に気づく前にランドセルの中身をチェックして「リコーダー、忘れてたから入れといたよ」と声をかけたり、習い事の

送迎をすべてクルマで行い、子どもはお客さんよろしく、車内で悠々とゲームをしている……など、子どもが困らないよう何かにつけ先回りし、お膳立てしながら、「いい学校に行ってね」とハッパをかけている……。これでは、真の「自立」の意味をはき違えているように思えます。

自分でできることは自分でさせ、たくさんの「困る経験」をさせる。その中で、必要なときに「助けてください」と言えるようになることが、本当の意味での自立のポイントのひとつなのだと思います。

脳科学からみた男の子の「ちゃんと自立できる脳」の育て方(PHP研究所)
発達段階に応じた特徴を、私が蓄積した脳科学や医学の正しい知識をベースにして理解することで、できるだけ楽しい子育てを実現していただきたいと願って執筆しました。「愛すべき男の子たち」をよりいっそう理解するための一助となれば幸いです。