小児緩和ケア児と家族が「自分らしく」生きるために

岡崎伸・合田友美・西田千夏

病気や障がいとともにある子どもとその家族を周囲はどう支援してあげられるのでしょうか?

家族の声・専門家の体験から学ぶ 小児緩和ケア児と家族支援のヒント』(大和出版刊/岡崎伸、合田友美、西田千夏[著])は生命が脅かされている子が、自分らしく生きるために大切なことを家族、医師、看護師、訪問看護師、保育士、福祉士、心理士、理学療法士など、さまざまな立場の人が解説しています。その序文をここに抜粋・編集の上でここに掲載します。

小児緩和ケア児とは?(医師:岡崎伸)

「小児緩和ケア児」は聞き慣れない言葉かもしれません。重い病気や障がいのため、生命が脅かされる状態の子どものことを指します。

医療技術が進む現代においても、神経難病、小児がん、重い腎臓の病気を患っている子ども、心身の機能に障がいがあり、生活上で医療機器やケアを必要とする医療的ケア児などの中に、このような状態の子どもたちがいます。命のリスクが高いと聞くと、ずっと入院していると思われがちですが、早期退院が強く推奨される昨今では、自宅で家族と暮らしている子どもたちが大勢います。

2022年日本小児科学会は「医療における子ども憲章(次項)」で、「病気や障がいに関係なくすべての子どもが人として大切にされ、その子らしく生きる権利」「病気の時も遊んだり勉強したりする権利」を始めとした11の権利を掲げています。私たちは、小児緩和ケア児が毎日をその子らしく過ごし、その子らしい人生を送ることを支援する必要があります。

医療における子ども憲章(一部引用改変)

①人として大切にされ、自分らしく生きる権利

病気や障がい、年齢に関係なく、人として大切にされ、あなたらしく生きる権利をもつ。


②子どもにとって一番よいこと(子どもの最善の利益)を考えてもらう権利

医療の場であなたに関係することが決められる時、すべてにおいて、周囲の大人にそれが「あなたにとってもっともよいことか」を第一に考えてもらえる権利をもつ。


③安心・安全な環境で生活する権利

あなたはいつでも自分らしく健やかでいられるように、安心・安全な環境で生活できるよう支えられる権利をもつ。もしあなたが病気になった時には、安心・安全な場でできるだけ不安のないようなやり方で医療ケア(心や体の健康のために必要なお世話)を受けられる。


④病院などで親や大切な人と一緒にいる権利

医療を受ける時、お父さん、お母さん、またはそれに代わる人とできる限り一緒にいることができる。


⑤必要なことを教えてもらい、自分の気持ち・希望・意見を伝える権利

自分の健康を守るためのすべての情報について、あなたに分かりやすい方法で、説明を受ける権利をもつ。そして、あなた自身の方法で、自分の意思や意見を伝える権利をもち、できるだけその気持ち・希望・意見の通りにできるように努力してもらえる。


⑥希望通りにならなかった時に理由を説明してもらう権利

あなたの気持ち・希望・意見の通りにならない場合は、なぜそうなったのか分かりやすい説明を受けたり、その理由が納得できない時は、さらに意見を伝えたりする機会がある。


⑦差別されず、心や体を傷つけられない権利

病気や障がい、その他あらゆる面において差別されることなく、あなたの心や体を傷つけるあらゆる行為から守られる。


⑧自分のことを勝手に誰かに言われない権利
体や病気のことは、あなたにとって大切な情報であり、あなたのもの。あなたらしく生活をすることを守るために、これらに関することが、他の人に伝わらないように守られる。誰かがあなたの体や病気、障がいのことを他の人に伝える必要がある時には、その理由とともに伝えてもよいかをあなたに確認する。


⑨病気の時も遊んだり勉強したりする権利
病気や障がいの有無にかかわらず、そして入院中や災害などを含むどんな時も、年齢や症状などにあった遊ぶ権利と学ぶ権利をもち、あなたらしく生活することができる。


⑩訓練を受けた専門的なスタッフから治療とケアを受ける権利

必要な訓練を受け、技術を身につけたスタッフによって医療やケア(気配り、世話など)を受ける権利をもつ。


⑪今だけではなく将来も11 続けて医療やケアを受ける権利

継続的な医療やケア(気配り、世話など)を受けることができる。また日々の生活の中でさまざまな立場の大人に支えてもらう権利をもつ。