3歳までが重要…「絵本の読み聞かせ」がIQに影響すると言われる理由は?
子どもたちの言葉を奪う社会の病理を描き出して話題となった『ルポ 誰が国語力を殺すのか』の著者、石井光太氏。「ヤバイ」「ウザイ」などの言いかえを紹介しながら、楽しく語彙を増やす児童書『超こども言いかえ図鑑』の著者の一人、小川晶子氏。
両者が、「子どもと言葉」について感じる危機感を、それぞれの立場からざっくばらんに語り合った。第1回は、絵本読み聞かせと学力、国語力についての話をお届けする。
石井光太(いしい・こうた)
作家。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。2021年『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』で新潮ドキュメント賞を受賞。
小川晶子(おがわ・あきこ)
ブックライター、絵本講師。
児童書や教育関連の書籍を中心に本づくりに携わっている。
生きる力としての国語力が下がっている
小川:『ルポ 誰が国語力を殺すのか』を読んで、子どもたちの国語力がここまで厳しい状況なのかと衝撃を受けました。国語力とは、単に国語という教科の力ではなく生きる力ですよね。あらためて国語力について教えていただけますか?
石井:文科省は「考える力」「感じる力」「想像する力」「表す力」の4つの中核からなる力を国語力として定義づけています。語彙力を基盤として、「情緒力」「想像力」「論理的思考」を身に着けていくことで、より良く生きる力を育むことができるんです。国語力は将来にわたる全人的な力です。
ぼくは長年ノンフィクションを書く中で、不登校、ひきこもり、いじめ、少年犯罪など取材し、「言葉を失った子どもたち」を多く見てきました。彼らがもし適切な言葉の力を持っていたら、壁にぶつかっても乗り越えていくことができたかもしれない。現代の社会問題の多くは国語力の低下と関係があるのではないかという問題意識を持っています。
小川:私自身は、子育てをする親として危機感のようなものを持っています。言葉づかいが「ヤバイ」と、学力が下がるのか?という問いを考えてみたときに、家庭の言葉づかいが「ヤバイ」と学力が下がるし、それ以上に生きる力が下がるということだと思うんです。
私は絵本未来創造機構に所属する絵本講師でもあるのですが、絵本講師になったきっかけは、『3000万語の格差』(ダナ・サスキンド/著 明石書店)を読んだことでした。
発達心理学者のトッド・リズリーと研究仲間のベティ・ハートが、異なる社会経済レベルに属する42家族の子どもを生後9カ月から3歳まで調査し、この時期の言語環境が子どものIQに影響していることをつきとめたんです。
単純に、どれだけの量の言葉をどのように話したかによって、子どもの学力、ひいてはその後の人生に差が出るんですね。親の学歴の高さや社会的地位は関係なかったんです。それほど幼児期に触れる言葉の影響が大きいということに驚きました。
同時に、子育て中の私自身が「スマホをやめられない」問題がありました。子どもたちに豊かでポジティブな言葉をたくさんかけてあげるのがいいとわかっていても、難しいんです。
これは私だけでなく、多くの親がそうだと思います。昔ならもっと子どもと一緒にヒマな時間を過ごし、言葉を交わしただろうと思うのですが、明らかにスマホをいじる時間に浸食されています。このままでは、子どもたちの言葉の力が奪われていくという恐怖感がありました。
その解決策の一つが絵本読み聞かせです。絵本にはポジティブで豊かな言葉が詰まっています。親自身に語彙力がなくても、絵本を読んであげることでたくさんの言葉に触れさせてあげることができます。
タブレットや動画ではなく、本であることが大事
石井:絵本読み聞かせは「体験」であることが重要ですよね。お母さんの膝の上で読んでもらっているときの体温や匂いを感じること、ページをめくる音など五感を使って体験しています。
さらに、絵本の中に出てくる果物を見て食べたくなって、実際に食べる、絵本を汚しちゃった…といったことも起こります。体験の価値は大きいと思います。
もちろん、絵本の中に出てくる、日常では使わない言葉を得るとか、日常とは違う物語に触れて想像力を鍛えるというのはありますが、それと同じくらい、絵本読み聞かせから派生する行動が大切なんです。これはタブレットで読み聞かせ動画を流していても得られません。内容が同じでも全然違うんです。
絵本の読み聞かせは、一般的に考える「語彙を増やす」効果以上のものがあることを親は意識する必要がありますね。
小川:おっしゃる通りです。単に言葉を覚えさせようと思って絵本を使うのは違いますよね。「絵本読み聞かせは子どもの学力を上げる」ということに注目が集まると、大事なことを忘れてしまいそうです。絵本読み聞かせは、親子の信頼関係を育む体験ですから。
石井:そうやって得た語彙力は、生きる力としての国語力のベースとなるものです。親は学力とか語彙の数とか、目に見える成果ばかりを追い求めないようにしなくてはなりませんね。