ハーバード大学に合格した人は何歳から英語を学び始めた?

加藤紀子
2023.10.20 14:23 2023.11.01 11:01

勉強する学生

より一層グローバルな活躍が求められる現代において、わが子には英語を得意になってほしいと願う親御さんは多くいらっしゃるでしょう。幼児期から英会話教室に通わせているという方も珍しくないはずです。

しかし、本当に幼児期の英語教育は必要なのでしょうか? 教育ライターの加藤紀子さんが、日本の高校から海外の大学に進学した人たちに取材をした結果から、子どもに高い英語力を身につけさせる秘訣について解説します。


※本稿は加藤紀子著『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)から一部抜粋・編集したものです。

加藤紀子(教育ライター/教育情報サイト「リセマム」編集長)
1973年京都市生まれ。96年東京大学経済学部卒業。教育分野を中心に「プレジデントFamily」「ReseMom」「NewsPicks」「『未来の教室』通信」(経済産業省)などさまざまなメディアで取材、執筆を続けている。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)はAmazon総合1位、17万部のベストセラーに。ほか著書に『ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!』(大和書房)がある。

日本にいながら高い英語力を身につける秘訣

勉強する高校生

アメリカ、カナダ、オーストラリアやイギリス、オランダなど英語で授業を行う大学に入学する場合、留学生は英語力を証明する試験のスコアを提出します(ただし、語学などを主な目的とした短期留学や国によっては不要な場合もあります)。

いずれの試験も日本の大学を受験する場合と大きく異なるのは、日本に比べてリスニングの比重が大きいこと、スピーキングが課せられることです。

言うまでもなく、海外の大学にチャレンジするには、英語で行われる大学の授業についていけるだけの英語力が求められます。高校まで日本語で日本の教育を受けながらそのレベルにまで英語力を伸ばしていくのに、何か秘訣はあるのでしょうか。

その秘訣について、今回お話を聞かせていただいた人たちのインタビューをまとめていくうちに、いくつかの共通点を見出すことができました。本記事では、そのうちの2つを紹介したいと思います。

①記憶に残る「英語は楽しい」という経験

読み聞かせされる女の子

海外大学を志向する人たちなら、幼い頃から習い事などで英語に触れていたのかと想像していたのですが、意外なことに「中学のABCからスタート」というケースが大半でした。「早く始めなければ身につかない」ということは全くなく、学校の勉強と同時にスタートで問題はないようです。

一方、習い事を通じて英語に早くから触れていた人にとっては、英語力そのものより、楽しい思い出や海外に対する憧れなど、習い事が英語に対するポジティブな動機づけになっていました。

新潟県立中高一貫校からアメリカのコミュニティカレッジを経てカリフォルニア大学バークレー校を卒業した幸田優衣さんは、「小学校の時に家の近くにあったECCジュニアの教室は、自分にとって夢の世界だった。海外とは無縁の環境だったので、そこは初めての海外の文化との接点だった」といいます。

茨城県立高校を卒業し、ハーバード大学に在学中の松野さんも、5歳の時から週に1度、家の近くでアイルランド人が個人でやっている英会話教室に通っていましたが、「遊びに行っていただけで、英語は全くと言っていいほど身につかなかった」と幼少期を振り返ります。

「でも、ひとつ本当によかったのは、英語は『楽しい』っていうことだけは体験できたんですよね。実は同じ時期に並行してそろばんにも通っていたのですが、先生がとても厳しく、それが怖くてめちゃくちゃ必死に頑張ったので、そろばんは英語と比べて圧倒的に上達したんですけど、楽しくないから嫌になっちゃったんです。だから何事も最初のつかみ、”イントロ”の部分で『楽しい記憶』が残るかどうかは一生響くんじゃないかと思います」

つまり大事なのは、幼少期に英語嫌いになるような体験をさせないこと。英語力を身につけさせようと親や周りの大人が熱くなりすぎると、かえって英語嫌いを増長させる可能性があります。

勉強をする子ども
今は2020年の学習指導要領の改訂で小学校3年生から学校で英語が始まり、5年生からは教科として成績も付くため、教員が「できたかできていないか」「正しいか否か」に焦点をあてすぎた指導をしたり、親がテストの結果に一喜一憂したりすると、子どもはあっという間にやる気を無くしてしまいかねません。

こうした背景からか、実際に、英語が好きではないという小学生は増加傾向にあります。文部科学省の全国学力・学習状況調査によると、「英語の学習(勉強)は好きですか?」という質問に対し、「そう思わない」と「どちらかといえば、そう思わない」と答えた小学校6年生が、2013年度の23.7パーセントから21年度は31.5パーセントと約8パーセントも増えています。

第二言語習得の専門家である宮城教育大学の鈴木渉教授は、子どもの英語習得を促すには、保護者が子どもと一緒に英語の絵本を楽しむことを勧めています。保護者の読み聞かせは言語発達に良い影響を与えることはよく知られていますが、それが第二言語であっても、リーディング力が高くなることがわかっているそうです(『英語学習の科学』)。

小学校の英語であれば、親も一緒に楽しめるレベルです。できる・できないは一切気にせず、「子どもが楽しめているならそれで十分」と温かく見守ることが、英語嫌いにさせないコツといえるでしょう。

また、鈴木教授は、子どもが英語に興味を示さない場合には、一緒に海外のアニメやドラマを見たり、英語の音楽を聴いたり、英語村や海外旅行に出かけたり、英語話者との交流の機会を設けたりするなど、子どもが外国に関心を持つような工夫をその子に合った形で実現することが重要だと言っています。

②「英語は欠かせないもの」と感じる環境

勉強する中学生の机

中学・高校になると、海外との接点を持つ機会が増えてきます。プライベートな家族旅行は無理でも、自治体の海外派遣事業や学校主催のプログラムで海外を訪問するチャンスが増えてくるからです。

ニューヨーク州立大学ジェネセオ校を卒業した坂内さんは中学校時代、地元の自治体によるプログラムで東ロシアに派遣されました。「初めての海外旅行がロシアの、しかも僻地の町で、英語は相手も全く話せず、自分は何のために英語を勉強しているんだと少しがっかりしました。でもその悔しさからか、帰りの飛行機で、『もう一度、海外に行きたい。どうせなら長期で英語圏に留学するぞ』と強く心に決めました」

坂内さんはこれがきっかけで、海外大学進学コースが新しく設置される県立高校(新潟県立国際情報高校)に入学することになります。

オランダの大学で学ぶ橋本さんは高校1年の夏、学校主催の短期交換留学に抽選で選ばれ、生まれて初めての海外旅行でオーストラリアを訪れました。

「クイーンズランド州立大学を見学したのですが、美しく広々としたキャンパスを一目見ただけで、直感的に海外の大学に行きたいと思うようになりました」

坂内さんも橋本さんも、英語力は地元の公立高校に入学できるレベルからのスタートでしたが、こうした海外での原体験が英語の勉強に向かう起点となったのです。

一方で、中高時代に海外を訪れることで「危機感を抱いた」という人もいます。

アメリカのハミルトンカレッジで学ぶ船田さんも同じく高校1年の夏、部活のスキーの強化合宿でニュージーランドに滞在しますが、偶然リフトに乗り合わせた少年に衝撃を受けたといいます。

「彼はスノーボーダーで、13歳でアメリカ・カリフォルニア州から飛び級でニュージーランドの大学に来ていました。世界には、こんなレベルで国境を越えて挑戦している人がいると知り、自分がどれだけ井の中の蛙だったのかと打ちのめされました。今の環境のままだったら自分はどこにもたどり着かないぞって。私の場合、海外の大学を受けようと思ったのは、ワクワクした気持ちというよりも、絶対的な恐怖感からです」

東京の私立高校出身で、オレゴン大学を卒業した小此木さんも、高校2年の夏に訪れたアメリカでのサマーキャンプでの体験がアメリカの大学を目指すきっかけになりました。

「当時『ビバリーヒルズ青春白書』っていうドラマにハマっていて、その撮影場所の大学に行けるというので、ちょっと行ってみたいなぐらいの気持ちで参加しました。世界各地から同世代が集まって1ヶ月ほど一緒に過ごすプログラムだったのですが、日本人だけが会話の輪に入れてなかったんです。それを見て『ヤバいな』って思って。

将来、グローバル化が進んで、日本だけじゃなくて海外でも仕事をしなきゃいけなくなった時に、このまま日本で教育を受け続けてもダメだろうなぁと。実は英語が一番苦手で勉強したくなかった。でも交換留学くらいでは多分まともに身につかない。じゃあどうするのが一番いいかなって考えたら、自分はもうその環境に入るしかないと思ったんです」

遠くをながめる高校生
海外から日本を客観視することで、これまで当たり前だと思っていた価値観が揺さぶられる。そして、日本の大学以外の選択肢があると気付くことは、10代という多感な時期には人生の転機になりうる体験といえるでしょう。

TOEFLなど世界を土俵にした英語の試験でスコアを上げるには相応の努力が必要です。自分自身の中から湧き上がるモチベーションがなければ、高い目標に向かって地道な努力は続けられません。

スタートラインは、海外への憧れというポジティブな感情に限らず、危機感や失望感といったネガティブな感情であっても、たとえ英語が好きではなくてもいいのです。

英語なしでは前に進めない、どうしても英語が必要だと感じる環境が、英語の勉強に向かわせる大きなモチベーションとなっているのは間違いありません。

第二言語習得の専門家で、早稲田大学の原田哲男教授によると、最新の第二言語習得論では、こうした英語を学ぶ上での「動機づけ」に関する研究が大きく進歩しているそうです。

「最近の動機づけ理論では、第二言語を使う理想的な自分を具体的にイメージできる学習者ほど、第二言語学習における動機づけが高いと考えられています。

また、人のやる気というのは移ろうもので、英語を学ぶ長い道のりでは、試験などの義務感がないとやる気が出なかったり、思うような成果が得られずに全くやる気をなくしてしまったりすることもたびたび起きるでしょう。

しかしそういう時でも、英語を使って『〜したい』『〜になりたい』といった理想的なイメージを持っていれば、学習に対するやる気が持続することが最近の研究からわかっています。英語力の向上には、将来への具体的なイメージを持てるかどうか、それが本人の内面からの要求であるかどうかがとても重要なのです。

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海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのかの画像1

海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか(ポプラ新書)
「英語は楽しい」という経験、自分に合った方法で単語力を爆上げ、ネイティブと同じ土俵に立たない――日本の高校からハーバードやUCバークレーなど海外の大学に進学した10名に取材し、「世界で使える英語」を身につける学術的に正しい12の秘訣を紹介。また英語力を飛躍させるコツを教育起業家の小林亮介氏と応用脳神経科学者の青砥瑞人氏に、日本人が英語を身につける利点を東京大学名誉教授の柳沢幸雄氏に聞く。