子どもの「脳が成長しやすい環境」を作るための3つの鉄則

陰山英男
2023.12.14 16:12 2024.01.23 11:50

勉強する子

塾に通わなければ学力は上がらないと思い込んでいませんか? 子どもに寄り添い、環境をしっかり整えてあげることで、おうち学習でも塾を超える効果を出すことが出来るのです。本稿では環境の整え方を陰山英男さんが紹介します。

※本稿は、陰山英男著「陰山流 新・おうち学習戦略」(Gakken)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

おうち学習で学力は十分伸びる!

勉強をする子ども

・環境を整えて脳を鍛える
多くの人は子どものかしこさを表す知能指数が生まれつき変わらないものと思っているようです。しかし現在は、成長と共に上がったり、下がったりするものであることがわかっています。特に成長期には脳の構造が変化していくので、知能指数も大きく伸ばせるのです。

つまり、「生まれつき頭が悪い」などと決めつけてはいけないということです。

さらに、読み書き計算の実践で脳を鍛えると、知能指数も上昇することがわかりました。加えて、脳が成長しやすい環境を整えることで、飛躍的に伸びていきます。

私が指導に関わった山口県の山陽小野田市は、市が学力向上に力を入れています。読み書き計算の反復練習を行い、脳に良い生活改善も行いました。すると、9か月で知能指数の平均値が9ポイント上昇したという結果が出ています。算数の偏差値は平均で4.5ポイント伸びていました。

おうちが塾を超えられると言える理由は3つあります。
まず1つ目が、塾と違って、おうちでは「生活環境から脳に働きかける」ことができるからです。
2つ目は、「わが子に合う学習計画を立てる」ことができるからです。
3つ目は、必要な教材は通販ですぐ買え、その使い方はSNSで知ることができるということです。

本稿では、主に子どもを取り巻く環境を整える方法についてご紹介しましょう。 

環境づくりの鉄則その① おうち学習計画を立てる

教材

【子どもに合わせた計画を練る】
学校のカリキュラムは、文部科学省が定めた「学習指導要領」という基準に基づいて、地域や学校の実態に合わせて作られます。学習指導要領は、全国どの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするための基準です。

この手法を、おうち学習にも生かして、「おうち学習指導要領」と呼べるものを作りましょう。もっとわかりやすくいえば、おうちの学習計画です。できれば1年ぐらいを見通して計画を立てるようにします。年間計画です。

年間計画を作る際に最も大切なのは、わが子に合わせたものにすること。おうち学習は、親と子のマンツーマンです。そこにいるのは兄弟も合わせて家族だけ。

だから、今どういう状況なのか、どこかつまずいているところはあるか、どれぐらい進んで(遅れて)いるか、得意なもの、不得意なものなど、自分の子どもに合わせた学習計画が立てられるわけです。そこに、おうちが塾を超える可能性があります。

親は自分の子のことになると冷静さを失うことがありますが、焦りは禁物です。バランス良く、ゆとりをもちながら将来をイメージしつつ、子どもの「今」に合わせた計画にするようにします。

環境づくりの鉄則その② 早寝・早起き・朝ご飯を習慣にする

寝ている女の子

【9時に寝て6時に起きる】
親は、子どもの健やかな体と心を守ることを最優先しなければなりません。何より大切なのは、子どもが元気でいられることです。

寝不足や不規則な生活のデメリットは、多くの人が経験したことがあるでしょう。頭がぼんやりして、体は重くなります。海外旅行から帰ってきた後の時差ボケ状態では、元気に遊んだり勉強したりできないことはわかるでしょう。また、睡眠が不足すると情緒が不安定になるため、学校でのトラブルも増えがちです。

さらに、睡眠と学力には密接な関係があることがわかっています。広島県の学力調査によると、一番成績がよかったのは8時間睡眠の子です。睡眠時間が5時間を下回る子どもの学力は低く、6、7、8時間と睡眠時間が増えるごとに、テストの点数も上がっていきます。脳には十分な休養が必要なことがわかる調査結果です。

子どもには、規則正しい習慣を身につけさせる必要があります。まずは睡眠です。人間は朝起きて活動し、夜になったら眠るのが当たり前ですが、子どもの好きにさせておいて、この習慣が自然と身につくわけではありません。親がしつけて体に覚えさせる必要があります。

また、寝る時間帯も大切です。山陽小野田市の調査によると、偏差値がもっとも高かったのは、夜9時までに寝る子たちでした。遅くなるにつれて成績が落ちていきます。

この2つの結果から見ると、9時に寝て8時間以上眠り、6時に起きるのが最も元気に学習できると言えるでしょう。朝は、必ず朝日を浴びて体内時計をリセットさせるのも大切です。

都市部では、遅い時間まで塾で勉強する子もいますが、長い目で見るとマイナスのほうが大きいと思います。寝不足で情緒が不安定になりますし、休息が十分でない脳で無理して学力が上がるでしょうか。

また、大人の夜遅い生活スタイルに子どもを付き合わせることは、決してすべきではありません。子どもが寝る時間には大人も静かに過ごすようにして、眠りやすい環境を作ってあげましょう。

朝食を食べる親子

【朝ご飯は必ず食べる】
成長期の子どもにはバランスの良い栄養が不可欠ですが、特に朝ご飯は大切です。目覚めたばかりの脳はガス欠状態です。食事をしないと、脳がしっかり働かないわけです。

長年、食と学力の関係を研究されていた廣瀬正義先生は、中でも「おかずが大切」と言われています。脳はブドウ糖と酸素が供給されていればいいと言いますが、そうではないとのことです。

脳細胞が活発に働くためにはさまざまな栄養が必要だから、朝からいろんなおかずを食べたほうがいいと言われます。実際、廣瀬先生の調査では、おかずの種類が多い子ほど、よい成績でした。

朝は時間がありませんが、栄養バランスをとるのはそう難しくありません。「ごはんと味噌汁」で、かなりの栄養とエネルギーはとれますし、「それ以外にもう1品」とれば、さらに栄養バランスのよい朝食になります。

環境づくりの鉄則その③ 見守りとルールを確立する

勉強する親子

【ポジティブに見守る】
親はおうち学習の指導者ですから、学習する子どもを、明るく、ポジティブに見守ることが大切です。

ところが親は、とかく子どもを緊張させがちです。

集中と緊張は似ているようで違います。ほどよい緊張感ならよいのですが、過剰な緊張は人を萎縮させます。持っている力を発揮しづらくなり、子どもが伸びづらくなります。

学校のテストやスポーツの試合などで、ついつい「気合いを入れていけよ」「精一杯やってこい」と励ましに力を入れすぎて、かえって子どもにプレッシャーを与えてしまうことがあります。

子どもは必ず伸びます。ですから親がポジティブになって、「君ならできるよ」「きっとうまくいくよ」「あんなに練習したんだから大丈夫」と、気持ちを前向きにさせてあげましょう。学習はできることをよりできるよう集中することから始めましょう。それなら負担なく始められます。

そして子どもの心を整えましょう。ポジティブに見守って、子どもをリラックスさせましょう。成功したイメージをもたせて、楽しむことを教えていきます。

オリンピック選手も、「日本代表として日の丸を背負うのだ」と悲壮感に満ちた選手より、試合を楽しんでいる選手のほうが、集中力を発揮してよい結果を出しているのではないでしょうか。

タブレットに熱中する子ども

【おうちのルールを作る】
親は、子どもの人生を導く師です。生活上のルールを作り、子どもに守らせることで、自分を律することを教えていくことが大切です。たとえば、子どもに責任のあるお手伝いを任せる、お小遣いの額や使い方を決めるなどです。


テレビ、動画、ゲーム、SNSの時間を決めることも大切です。最近は、こうしたデジタル系ツールが増え、放っておくと時間がどんどん取られてしまいます。スマートフォンでSNSを使えるようになったため、大人でもすぐにつながりを求めたり、メッセージにすぐ返事をしたりと、24時間デジタル機器を気にしているような人もいます。

テレビ、動画、ゲーム、SNSなどは、すべて合わせて最長で2時間、できれば1時間以内が目安です。そもそも、1日に8時間の睡眠をとって、往復時間も含めて8時間ほど学校で過ごしたら、残りは8時間しかありません。

食事をしたり、お風呂に入ったりする時間を引くと、6時間ぐらいでしょうか。この中で外遊びをしたり、習い事をしたり、読書をしたり、おうち学習をしたりするわけです。動画やゲームに使う時間はそう多くないのです。

それに、テレビやインターネットの視聴時間が少ないほど、学力が高いという調査結果もあります。スマートフォンやタブレットでSNSを見たり、動画を長時間視聴したりするのは、目への負担が大きく、睡眠に悪影響を与えると言われています。さらに、学習効果を失わせるほど脳の働きを阻害するという指摘もあります。

時間をどう使っていくかや、勉強以外の生活スタイル、デジタル機器を使う際の約束事など、子どもと話して、納得させるようにしましょう。

陰山英男

陰山英男

1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒。兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。
2003年4月尾道市立土堂小学校校長に全国公募により就任。百ます計算や漢字練習の反復学習を続け基礎学力の向上に取り組む一方、そろばん指導やICT機器の活用など新旧を問わず積極的に導入する教育法によって子どもたちの学力向上を実現している。過去、文部科学省中央教育審議会教育課程部会委員、内閣官房教育再生会議委員、大阪府教育委員会委員長などを歴任。2006年4月から2016年まで、立命館大学教授。現在、陰山ラボ代表。陰山メソッド普及のため教育クリエイターとして活躍し、講演会等を実施するほか、全国各地で教育アドバイザーなどにも就任、子どもたちの学力向上に成果をあげている。

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著者は、「これからの学習は『家庭』が担う」「子どもの学力を伸ばせるのは『家庭』の戦略と心掛け次第」と明言。戦略的な学習プランと教科別の進め方ポイントをマニュアル化し、ムダなく理解がすすむ攻略ポイントをこの一冊にまとめました。